今月の学校図書館

こんなことをやっています!

岐阜県 岐阜市立中央図書館訪問記

2022-08-07 06:42 | by 村上 |


「図書館は本で人とまちをつなぐ屋根の付いた公園です」

~岐阜市立中央図書館訪問記〜


 2022年7月2日(土)、前東京学芸大学附属小金井小学校司書、中山美由紀さんと名古屋を訪れた帰りに、岐阜市立中央図書館を訪れました。名古屋と岐阜は電車でたった20分、ここまで来たなら絶対見ていくべき!という中山さんが、初代館長であり、現在は総合プロデューサーをされている吉成信夫さんに案内をお願いしてくださったのです。贅沢な解説付きの2時間を過ごし、すっかり私は岐阜市立中央図書館がある、みんなの森メディアコスモスに魅了され、帰ってきました。

  

 本データベースがやっと復活したのですが、ちょうど学校は夏休み。そこで、岐阜市立中央図書館の児童サービスを中心に紹介をさせていただくことにしました。もちろん、開館が2015年ですから既にご存じの方も多く、様々な紹介記事もネット上にはありますが、ここでは初めて訪問した学校司書の目線で、何に驚いたのかをレポートします。

 
【子どもがつながる 豊かな子どもの育ちの場】

  

 ぎふメディアコスモスは、滞在型図書館と市民の協働・市民活動サポートの機能と、貸ホールやギャラリーを持つ複合文化施設なので、対象は子どもからおとなまで多様な人々の対流を持続的に起こすことをめざしていますが、とりわけ、「子ども」と「中高生」がとても大切にされていると感じたのです。


 中央図書館のスタッフルームを出て案内されたのが、子ども司書・子どもラジオの取組を紹介したコーナーです。「子ども司書」と聞くと、1日図書館員として、図書館のお仕事体験…を思い浮かべがちですが、岐阜市の「子ども司書養成講座」は4日間にわたり、〈本と人とを結ぶリーダー〉になれる人材を育てることを目的としています。(20202021年度はコロナ禍のため2日間に凝縮)それには〈自分で考え、自分の言葉で伝える力〉を身につけてほしいと、開設当時から吉成さんや、大学の先生、司書さんたちが講師となり、読み聞かせ、POPづくり、レファレンス体験など、多岐にわたる司書の仕事を、体験をとおして学んでいきます。

(写真右端に写っているのが、総合プロデューサーの吉成信夫氏です。)

 そして講座を修了した子どもたちは、その後メディアコスモスで毎週公開録音される市民ラジオ「てにておラジオ」のなかで、自分たちが企画出演するラジオ番組に取り組みます。13分の番組が月1回流れるので、子どもたちの真剣度も半端なさそう。お話を伺っていても、ワクワクするような取り組みなので、「子ども司書は、誰でもなれるのですか?」と伺うと、これがなかなかの人気で、2022年度は20人の定員に64人の応募があり、厳正なる抽選で決めているとのこと。とにかく、形だけのイベントではないところが、ビンビンと伝わってきました。

 子ども司書養成講座を修了した子どもたちは、その後も様々なつながりを持って活動をしているそうです。
 














 




 「子ども」のエリアは、絵本・児童書に加えて育児のコーナーもありました。児童専門のレファレンスカウンターがあり、そのとなりには授乳室があり、さらにとなりがおはなしのへやです。このカウンターのうしろには、「子どもの声は未来の声」という岐阜市立図書館の理念が掲げられています。(写真左上 児童レファレンスカウンター)

 

 ここで目についたのが、巨大なにゃん吉です。聞けば、これは第2号で、特注品です。後ろに本が積めるようになっているブックカートです。子どもが乗っても壊れないよう、頑丈にできているそうですが、本体はできるだけ軽くしているので、移動しやすいように配慮されています。にゃん吉は館内のおはなし会で、初代の犬のきららは館長と司書が市内の小学校訪問で、2匹とも子どもたちには大人気と伺いました。(写真右上 にゃん吉)



 児童書が並ぶ書棚の中間にある展示がまたユニーク。「メディコス商店街」と題して各分類にちなんだお店を作っています。司書さんたちが創造力を働かせ作っているのでしょう。こんなに力を入れて作っている時間的余裕はあるの?と気になるところですが。聞けば、もともと、この空間は閲覧席として設計されていたそうです。全体がほぼ出来上がった時点で、設置されていた椅子を取り払って、展示スペースにしたいという吉成さんの主張が通り急遽変更されたのです。


 学校司書としては、読書意欲を喚起するような展示・掲示は、出来はともかく仕事の一部だったりするのですが、公共図書館の司書さんたちにとっては、そうとも限らず、いろいろな受け止め方があったようです。でも、出来上がってみると、だんだん楽しくなり、流石にこれは力が入りすぎでは…というものまで出てきたとちょっと嬉しそうに吉成さんが話されていたのが、印象的でした。この写真のお便りボックスに入れられたお手紙への回答は、館長時代の吉成さんが自ら書いて壁に張り出されていました。

 その他にも、面白いなぁと思ったのが、「本のお宝帳」です。平たく言えば、読書ノートなのですが、お宝帳「グランドマスター」への道という掲示を読んでみると、のんびりゆっくりグランドマスターをめざしてね!とあります。3冊達成すると「サブリーダー」、6冊で「リーダー」、9冊で「マスター」、15冊で「グランドマスター」の称号が館長から与えられるのです。ただ与えられるわけではなく、お宝帳を前にして、館長と楽しく本の話をするそうです。学校で読書ノートの取組がよくありますが、1冊書けたら、校長先生が「ふむふむ、君はどんな本を読んだのかな?」と読書ノートをめくりながらその子と会話をし、賞状を出すようなものですよね。ここまで子どもの読書に関わってくださる公共図書館の館長がいるのだろうかと驚きと尊敬をもって、吉成さんを見てしまいました。


【中高生がつながるサードプレイス】















 さて、いよいよ私の守備範囲であるYAコーナーです。最初に紹介してくれたのは、「心の叫びを聞け!! YA交流掲示板」です。写真左がYA世代からのおたよりやイラストを常時募集しているボックスで、右の写真が、彼らの悩みに、司書さんがそれぞれのペンネーム(ぴんく、ブルー、あかね、スカイブルー等)で答えて貼り出している様子です。つい立ち止まって読みたくなるコーナーです。最近ちょっと、回答が「本」に寄りすぎていると、吉成さんの辛口コメント。そういえば『生協の白石さん』が爆発的人気を博した年がありましたが、一介の司書にはなかなかハードルが高そう…。

 この日は、時間がなくて、他の企画はあまり聞けなかったのですが、パンフレットを見ると、中高生のつくる等身大のブックリスト『別冊ほんまるけ』、本の楽しさをわかちあう「共読プログラム」、中高生を対象にしたショートショート作品の発表会などのイベントもあるようです。YA専用席もあり、ここは夜8時まで開館しているので、遅い時間帯にもかかわらず、安心して過ごせる居場所にもなりそうです。


 この後、「まちがつながる:本を持ち、まちに出よう まちと深く出会うために」「みんなとつながる:エンカウンター的なコミュニティが生まれる」というコンセプトのスペースを案内され、最後は、学校図書館を支える「学校連携室」もちょっとだけ見せていただきました。教員が利用するための「教員支援資料」と児童生徒が利用するための「団体貸資料」を収集、提供しているそうです。岐阜市立小中学校の学校図書館の現状までは伺えなかったですが、市立図書館として積極的に支援しようという姿勢は感じることができました。多くの職員が働くスタッフルームも、コミュニケーションが取れるような工夫がここかしこにありました。

 タイトルの「図書館は本で人とまちをつなぐ屋根の付いた公園です」という言葉は、岐阜市立中央図書館の
パンフレットに書かれたことばです。こんな素敵な公園がある岐阜市民が羨ましく思えました。だれもが利用できる公共図書館だからこそ、それぞれの地域の図書館は、ぜひその地域に根ざした活動を展開してほしいものです。メディコス脇のハーブガーデンは、メディコスのハーブ講座を受講した市民によって、運営され、プロの手による開館当時よりも、生き生きとしているそうです。

 

 これからは、岐阜市立中央図書館のような公共図書館が増えていくといいなぁと思います。静かに本を読んだり、貸したりするだけの図書館というイメージからの脱却は、学校図書館も同じです。誰もが使える本のある広場をどう使っていくかを、司書も先生も児童生徒も一緒に考えていくとより楽しいアイデアが生まれそうです。

  

 実はこの日、ご一緒していたのが、田口幹人さん。『まちの本屋』(ポプラ社 2015)の著者であり、現在は未来読書研究所所長でもある田口さんは、2時間では足りないと、翌日も見学に行かれたそうです。そこで、田口さんと、そして記事確認をしていただいた吉成さんからもコメントをいただきました。



「みんなの森 ぎふメディアコスモス」を訪問し、まずは、「地域の個性を活かした住民主体のまちづくり」を目指す岐阜市のスローガンを、しっかりと活かし丁寧に仕掛けづくりが徹底されていることに驚いた。総合プロデューサーとしてメディアコスモスの運営に携わる吉成信夫氏にお話を伺ったが、「滞在型図書館」という独自の考え方をベースに、本の貸し借りだけではなく、人のなかに眠っている情報の受け渡しをする場としての公共図書館の姿がそこにあった。

「子どもの声は未来の声」を旗印とし、徹底的に子どもたちに寄り添おうとする施策があふれていた。中高生が書いた悩みやメッセージに司書が答える「心の叫びを聞け! YA交流掲示板」は両者をつなぎ、そして、社会の窓口、居場所にもなっているのだ。

「子ども司書養成講座」は情報があふれている現代において、大切なことを選び取り、考え、たしかめ、自分の言葉にしていく力を身に付けるための仕掛けが散りばめられていた。本の役割が様々な形で表現されていた。本がまちづくりの礎となるのだということを実感させてもらった。

未来読書研究所所長 田口幹人



 公共図書館の場合、子どもに関わる係の司書は子どもだけのことを見ていれば良いと捉えがちです。でもそれではやや視野狭窄的な気がします。子ども政策があって、その中に図書館が担う役割があるからです。時には他部署と組むことを図書館がリードすることもあります。

 司書さんの役割は良書の啓蒙だけではありません。子どもたちと社会の新たな関係を創るつなぎ手となることが求められていると僕はずっと思っています。
ぎふメディアコスモス総合プロデューサー 吉成信夫



(文責 東京学芸大学附属世田谷中学校司書 村上恭子)

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