今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京都 世田谷区立梅丘中学校図書館

2023-03-07 21:29 | by 村上 |

 今月は、東京都世田谷区立梅丘中学校の学校図書館を紹介します。きっかけは、学校図書館で行った「本のタイトル川柳」の話を同じ世田谷区勤務の学校司書から伺ったことです。本校の国語科教員に伝えたところ、授業でやってみたいと翌日図書館で実施。次の週、クラスでそれぞれの川柳を鑑賞。生徒の反応も上々。梅丘中学校では、日頃から、このような生徒一人ひとりの学びを意識した図書館運営をされていることを伺い、原稿を依頼させていただきました。(東京学芸大学附属世田谷中学校司書 村上恭子)


「生徒一人ひとりが主役になれる学校図書館づくりを目指して」

 

世田谷区立梅丘中学校図書館司書 小濵華子

 

1.学校紹介

 東京都世田谷区立梅丘中学校は、学級数11クラス・生徒数約370人の中規模校です。梅の名所として名高い羽根木公園に隣接し、豊かな緑を身近に感じられる環境の中で生徒たちは学校生活を送っています。部活動が盛んなことでも知られ、特に運動部は強豪校でもあります。

 校内には、「帰国・外国人教育相談室」が併設されていることも本校の特徴です。区立学校に在籍する外国人や海外から帰国した児童・生徒を対象に、日本語指導や教科補習、通訳者の派遣をすることを通して支援をする取り組みで、日本語教育を専門とする先生方が常駐しています。母語が日本語ではない生徒も学校図書館を利用し、カウンターでのコミュニケーションを重ねるうちに、洋書を購入リクエストしてくれたこともありました。

 近隣には、都立光明学園があります。光明学園は日本ではじめての肢体不自由教育を実践した公立学校「東京市立光明学校」にルーツがあり、肢体不自由教育部門・病弱教育部門という2部門を併設していることによる専門性を有する小学部から高校部までの教育学園です。本校は光明学園との交流を昭和53年から継続してきました。本校図書館も、コロナ禍前までは1年に23回程度、光明学園の先生と生徒が授業の一環として利用していました。

 

2.学校図書館紹介

 学校図書館は南校舎の3階突き当たりにあります。南校舎は特別教室が集まる校舎で、学校図書館の隣には理科室があります。生徒たちのホームともいえる各教室が集まる東校舎からは少し離れているため、わざわざ行こうとしないとたどり着かない場所に位置しています。メインとなる開架・閲覧エリアの他、図書準備室もマンガコーナーとして開放しており、昼休みには我先にと生徒達が競って入室する人気コーナーです。蔵書数は約1万6千冊ですが、9類比率が50%近くあるため、蔵書比率を適正に近づけることは課題のひとつです。座席数は45席、1クラスであれば充分に授業利用できる席数ですが、放課後に待機時間がある日などは満席以上になる日もあります。開館は平日5日間と土曜授業日です。

 昨年度、私が着任した当初は「図書館は静かに本を読む場所」という図書館像のもとに運営されている印象がありました。しかし、「学校の教育課程の発展に寄与する」ためという学校図書館に課された本来的な使命を全うするには、必然的に学習指導要領で示されている「主体的・対話的で深い学び」を意識した運営に向かっていくことになります。学校図書館なりの「主体的・対話的で深い学び」を実現しようとすればするほど、「静かに」「本を読む」だけでは済まなくなっていくのは自然な成り行きです。学校図書館を主体的・対話的で深い学びのある場にしていくために、工夫したイベントや日常での取り組みをこれから紹介します。

 

3.イベント紹介

 本校図書館が生徒に利用してもらえるチャンスは主に昼休みと放課後です。この時間を活用して、学校図書館活動をなんとか「主体的・対話的で深い学び」に結びつけられないかと考え続け、試行錯誤して様々なイベントを仕掛けてきました。どのようなイベントを企画するにあたっても、私が常に中心に据えている問いがあります。それは「一人ひとりの生徒が主役になっているか」という問いです。学校図書館を成長する有機体にしていく主体としての生徒の個性・創意・活躍が光る場にしていきたい、そう目指して企画立案したイベントを紹介します。

 

3-1.読書週間イベント〈本のタイトル川柳コンテスト〉

  

〈本のタイトル川柳コンテスト〉は、昨年の夏休みに「東京学校図書館スタンプラリー」で見学させていただいた明治学院中学校・明治学院東村山高等学校図書館で実施していた同様のイベントから着想を得て
2学期にさっそく実施しました。本のタイトル川柳とは、本のタイトルだけで川柳をつくる、一種の遊びです。例えば、「はじめての ビブリオバトル 周期表」という川柳は、『はじめての』(島本理生ほか著/水鈴社)・『ビブリオバトル: 本を知り人を知る書評ゲーム』(谷口忠大著/文藝春秋)・『周期表: ゆかいな元素たち!』(サイモン・バシャ/エイドリアン・ディングル文/藤田千絵訳/玉川大学出版部)3冊のタイトルから作った一句です。起源をたどると、筑摩書房がツイッター上でちくま文庫に限定した本のタイトル川柳募集をしていたところまではたどることができました。

 イベント実施にあたっては、10月半ばに予定されている読書週間でのコンテスト開催をゴールに設定し、2学期はじまってすぐに学校内での調整をはじめました。9月半ばに募集要項を全校配布し、募集期間は922日~1011日までの約2週間です。その後、応募のあった川柳を1017日~21日の読書週間期間中に図書館内で公開し、来館者にはいいと思う川柳に番号で投票してもらいました。川柳がどのようなものであるかを示す参考資料として、公共図書館から川柳に関する図書を取り寄せ、コーナー展示も同時に行いました。

 〈本のタイトル川柳〉を作るにあたってのルールは、「学校図書館内にある本のタイトルを使うこと」「2冊以上の本のタイトルを使うこと」「作った作品についての一言コメントを書くこと」。誰もが気負わずに学校図書館に足を踏み入れただけでも参加してもらえたらとの意図から、ルールはできる限り簡潔さを心がけました。

 〈本のタイトル川柳〉がイベントとして「一人ひとりの生徒が主役になれる」と思った理由のひとつは、「本を読まない生徒でも参加できる」点にあります。学校図書館という場は、本をたくさん読むのがよいこと、たくさん読んでいる生徒が褒められる、というイメージを持たれている印象が少なからずあるのではないかと思いますが、生徒の読書環境を本当に向上させたいと思うときに意識が向くのは本をそれほど読まない生徒です。読まない生徒でも劣等感をもつことなく楽しんで取り組めるところがこのイベントのよさのひとつだと直感しました。実際、川柳の募集期間中は、普段の読書傾向に関わらず、川柳づくりの材料となるタイトルを探すために、いつもはあまり見ないような棚を端からくまなく背表紙を読んでいっている姿を見ては、見たかった生徒の姿が見られたと思ったものです。

 図書委員を上手に巻き込むことも心がけていることのひとつです。本校図書館では、各クラスの図書委員に週1回の昼休み当番が回ってきます。図書委員には、昼休み当番の仕事としてイベントに取り組んでもらいます。すぐに済ませようとする生徒、イベントの主旨を理解して何日もかけてよい作品を出せるよう高みを目指す生徒、納得のいく作品ができるまで粘り強く考え続ける生徒、なかなか着手しようとしなかったのにいざ着手すると楽しそうにしている生徒、友達と相談しあう生徒、周りの生徒の作品でいいと思ったところから学ぼうとする生徒、静かに自分の中で言葉をかみしめて生み出そうとする生徒。みんなそれぞれがちがう取り組み方です。一文字一文字を数えながら川柳づくりに取り組んでいる生徒たちの姿は、子どもたちはひとりひとりちがうんだということを如実に物語っていました。図書委員たち自身が主体となって取り組むそのような姿や積極的な呼びかけがあったからこそ、図書委員周辺の友人達やカウンターを利用する生徒たちにも川柳づくりを勧めやすくなり、期待に応えて参加してくれた生徒もいました。生徒どうしの影響力はほんとうにすごくて、司書は到底かないません。川柳の募集期間は、生徒たち一人ひとりの個性の輝きに直に触れ合えた時間で、学校司書としてとても幸せな時間でした。最終的には全部で29作品の応募がありました。

 

3-2.〈本のタイトル川柳コンテスト〉その後

 生徒たちが作った29作の〈本のタイトル川柳〉はコンテスト終了後もまだ掲示しています。そのことによって、企画した当初には予期していなかった思わぬ効果もみられました。当初は、川柳作品を作る人にとっての効果しか意識することができていませんでしたが、掲示を継続しているうちに、川柳を鑑賞する人にとっても発見をもたらしていることに気づくことになったのです。

 ある昼休みのこと、当時常連だった生徒が「え!鬼滅ってあるの?!どこどこ?!」と言っている声を聞きました。「あるけど、急にどうしたの」とたずねるとこう言ったのです。「この川柳って、全部ここにある本の題名でできてるんですよね?ここに〈ハイキュー!! 鬼滅の刃 死の授業〉書いてあるってことは、鬼滅があるってことですよね?」

 彼は毎日のように学校図書館に来ている生徒でしたが、来ているだけでは『鬼滅の刃』のノベライズ作品が本棚にあることには気付いていなかったのでした。川柳作品として取り上げられ、それを鑑賞したことを通してはじめてその存在に気付かされたのです。本棚にはずっとあったのに見過ごされていた本が、川柳になることによって気付かれやすくなった。この点は、やってみてはじめて浮かび上がってきたこのイベントのよさでした。

 作品を作った生徒が「これはぼくが作った作品なんだよ」と友達を連れてきては紹介し、作品の作り方を説明している姿。「このイベントが楽しかったからまたやってほしい」と提案してくれる図書委員。「今度はもっといい作品を作って一位になりたい」と意気込む一年生。「この作品の作者、実はぼくなんですけど、何票入っていましたか」とずっと後になってから聞きに来た三年生。作品の前で立ち止まって鑑賞し面白がっている友達同士。このように、生徒たちがそれぞれに主役となって主体性を発揮し、対話を生んでいる様子がみられるイベントへと成長しました。

 

3-3.学校行事と連動したイベント〈百人一首投票〉

 本校では、1月下旬に実施する百人一首大会が恒例行事となっています。そこに注目し、生徒たちの熱意をより一層後押しし雰囲気を盛り上げていくイベントがなにかできないかと考えて企画したのが〈百人一首投票〉でした。これは、生徒たちが百人一首の中で好きな一首に投票し、順位を発表する、というものです。初年度は、百人一首の取り札を模した投票用紙に好きな歌を書き込む方式で投票を行い、書き込まれた投票用紙の現物を掲示するかたちで結果を発表しました。この方式でも楽しんで取り組んでもらうことはできましたが、限られた昼休みの時間内では書くことにハードルがある、未知の歌には意識が向きにくいといった課題は感じました。

 そこで2回目となる今年度は、限られた時間内でより多くの生徒にとって取り組みやすいかたちがなにであるかを考え追求し、シール投票の方式を採用しました。前回のやり方ではすでに知っている歌を書くか、本を開いて調べて書くかのどちらかだったうえ、他の人がどんな歌を好きなのかは結果発表の日までは分かりませんでしたが、今回はすべての歌を一度に見ることができてその中から好きな歌の投票枠にシールを貼るやり方に変えました。こうすることによって、好きな歌を見つけ出す過程で今までは気に留めていなかった歌も意識に登ってくるようになったり、他の人がどんな歌を気に入っているのかがパッと見ただけでわかるようになりました。しかも、貼られるシールの数は日々変化するので、毎日チェックする生徒も現れはじめたときには、生徒は新たな楽しみ方を見つける天才だなと思ったものです。
開催場所についても工夫をしました。1年目は学校図書館内の一角にイベント会場を設営しましたが、そのあり方では学校図書館に入り慣れている生徒にとっては参加しやすくても馴染みのない生徒にとっては無縁のイベントになってしまうことに課題を感じていました。そこで今回は学校図書館へと通じている廊下の壁面を大きく使用し、そこ自体を投票場所にしたのです。模造紙4枚を横に並べ、各読み札の下にシール投票用の枠を合わせて貼り付けたものを掲示しました。12月中旬から2学期の終業式までは前半50首、3学期の始業式から1月いっぱいまでは後半50首の掲示と投票を実施しました。こうすることによって、学校図書館を利用できる時間以外でも百人一首を介して生徒同士の対話が生まれ、先生と生徒との対話も広がる場にすることができました。学校図書館の隣にある理科室は全学年の生徒が利用するため、理科室への行き帰りに生徒たちが百人一首投票の掲示を見てなにか言い合っている声を聞いたり、掃除担当の生徒が先生に掲示してある百人一首の意味を教わったりしている光景を見て、イベントとしての成長を感じました。

 百人一首大会は12年生の学年行事でもあるため、担当教科に限らず先生方の関心も高く、大会当日が近づくと先生方から「どうですか、生徒達は投票していますか?」と声をかけていただくこともありました。また、百人一首投票イベントと連動して学校図書館内で展示していた関連図書に注目した先生からのご依頼で、大会当日は会場入り口に百人一首関連図書コーナーを設置することもできました。会場内に掲示した投票結果表と合わせて、当日見学に来ていた保護者や弟妹にも見ていただけたことで、学校図書館活動の一端を知っていただく機会にもなりました。

 

4.まとめにかえて~日常での取り組み~

 常設のコーナーとして「息抜きコーナー」を設置しています。これは、部活や放課後教室までの待ち時間に短時間だけ居場所として利用する生徒を対象利用者として想定したコーナーです。ちょっとした空き時間に友達同士で利用できる心理テスト・占い・パズル・探し絵・クイズ・謎解きといった遊び要素のある図書のほか、折り紙の本と折り紙も一緒に設置しています。

 つい先日、このコーナーを利用した生徒がこんなことを言ってくれました。

 「図書館って、いろんなことができるんですね。本があるだけじゃないんだ。

 これは、友達と一緒に折り紙を折った生徒の言葉です。図書館で折り紙を折れるとは思っていなかったのでしょう。結局この生徒はその日のうちに作品を折り終わらなかったので、続きをまた明日やりたいから取っておいてほしいと言って帰りました。利用が次の日につながる。なんとうれしいことでしょう。他にも、折り終わらなかったから明日までに完成させて持って来ると言ってくれる意欲的な生徒もいます。生徒からのその言葉は、学校図書館が「静かに」「本を読む」だけの場所から一歩脱却し、自分の意思で主体的に何かに取り組むことができる場へと変化しつつあることを実感させてくれるひと言でした。

 折り紙を設置しているもうひとつの意図が実はあります。それは、生徒が作った折り紙作品で学校図書館を装飾すること。自分たちの作品で図書館が彩られることを、生徒たちはとてもよろこび、友達も巻き込んで意欲的に創作してくれます。たとえそれが拙いものであったとしても、学校図書館を生徒一人ひとりが作った作品で彩ることが、何ものにも代え難い唯一無二のこの学校の生徒たち自身の場にしていくのです。

 このようにして、イベント時だけでなく、日常から生徒が主役となって育てていく学校図書館づくりに貢献できたらと考え、頭をひねる毎日です。


 世田谷区立中学校の学校図書館は、株式会社リブネットに業務委託されていますが、来年度4月から小濵華子さんは、国立市で特別支援教育指導員として勤務されるとのことです。こんどは図書館を利用する立場として、学校図書館について引き続き模索されると伺っています。(編集部)


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