今月の学校図書館
こんなことをやっています!
長野県松川村図書館
2023-05-02 16:02 | by 宮崎(主担) |
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1.松川村について
松川村は長野県の北西部、安曇野の北寄りに位置します。人口は1万人弱。主要産業は米・果樹などの農産物ですが、近年観光にも力を入れており、世界的にも著名な画家いわさきちひろさんのご両親が第二次世界大戦後、開拓農民として当村に入植していたというご縁から1997年にオープンした安曇野ちひろ美術館は村の観光拠点として多数の方々に来館いただいています。2018年には美術館の周辺に広がる安曇野ちひろ公園内に、美術館の館長である黒柳徹子さんの著書『窓ぎわのトットちゃん』の世界を再現した「トットちゃん広場」が作られ、黒柳さんが通われたトモエ学園の講堂や電車の教室と図書室など再現されました。北アルプスの麓、豊かな歴史と文化、四季折々の自然環境に恵まれ、安曇野の原風景が残る美しい村です。
2.松川村図書館について
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当村は2009年まで図書館未設置村でした。公民館図書室としては1990年代より専任の職員を置きそれなりに運営をしておりましたが、電算化もされておらず蔵書も不十分なものでした。2000年代に入り、老朽化した公民館の建て替えに伴う多目的施設の建設が村の総合計画に盛り込まれました。建設に向けて村民アンケートや住民参加のワークショップを積み重ねた結果、新しい施設は公民館機能にホールと図書館を併設した複合施設とすることが決まりました。その後、図書館のみのワークショップが何回か行われ、設計士を交えての意見交換や、他図書館への視察などを経て小さな村の図書館としてのあるべき姿を整えていきました。村立図書館であることから規模の大きさは望むべくもないので、如何に特色ある図書館運営をしていくかが大きな課題でした。そこで確認した事は、安曇野ちひろ美術館がある村の図書館として、また村の宝である
子どもたちの未来のために児童サービスを中心に据える・滞在型の図書館を目指して居心地の良い空間を作る・「顔」が見えるサービスを心掛けるなどでした。当時、安曇野ちひろ美術館の仲介により児童文学の関係者の方々から村に多数の児童書の寄贈をいただいており、図書室の段階で児童書の蔵書数の割合が圧倒的に高かったことから、絵本・読み物以外の資料は一般書と児童書を混架とする、居心地の良さを追求するために南側を全面窓として明るい空間を創出する・長時間の滞在を見越して座り心地の良いソファーを準備するなどの工夫を重ね、2009年5月にオープンし現在に至っています。
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館長職については、当初複合施設の責任者が兼務する予定でしたが、より上質な図書館サービス提供のためにはある程度の知識を持った者がその職に就くべきではという理事者の考えから、当時の司書の中で最年長であった私が職を拝命し、14年目を迎えています。以下に、これまで行なってきた特徴的な活動をいくつかご紹介します。
3.学校との連携
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4.安曇野ちひろ美術館・学校との連携
安曇野ちひろ美術館では開館5年目の2002年より、村内の中学生による夏休みの中学生ボランティアを行っています。(美術館による報告ブログ)
展覧会の展示解説や作品の実演、ワークショップ指導、美術館ガイドツアーなどに加え、2008年からは図書委員による絵本の読み聞かせ活動もスタートしました。この読み聞かせ活動の流れは以下の通りです。 ![](./../uploads/journal/11456.JPG)
まず美術館の学芸員、中学校司書、私の3人で選書リストを作成します。リストは、その年の美術館の企画展に原画が出品されているものやいわさきちひろの作品の大きなテーマである平和に関するもの、読み聞かせの定番となっている長く読み継がれてきたものなどから30冊ほどを選定したものです。リストアップされた絵本をすべて準備したうえで、生徒たちが実際に手に取り内容を確認して、読みたいものを決定します。その後、私から読み聞かせのノウハウ(絵本の持ち方・開き方・発声方法・読み方など)を全員に指導し、6月の終わりから夏休み前まで、校内で練習を重ねます。
並行して中学生ボランティアとはいえ、有料の美術館という場所で来館者に接する際に必要な心構えを学ぶため、美術館の学芸員による接遇研修も実施します。1学期終業式終了後、参加者全員によるリハーサルを行い、最終的なチェックシートを私から一人ずつに渡し、個人練習を経て本番となります。読み聞かせ当日は館内放送による来館者の誘導、司会、アンケートの回収など、すべて生徒たちが運営します。校外で、また不特定多数の聴衆の前で読み聞かせを行うことは中学生にとっては大きなハードルですが、毎年生徒たちの真摯な姿には感動すら覚えます。コロナ禍によりこの読み聞かせ活動は縮小していましたが、本年は例年通り実施予定です。
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また、2019年のちひろ忌には中学生による『わたしがちいさかったときに』朗読会を開催しました。(8月8日「ちひろ忌」 | イベント - 世界初の絵本美術館|安曇野ちひろ美術館 (chihiro.jp)
広島で被爆した子どもたちがつづった詩や作文を、中学生の有志が朗読し、平和への願いを新たにしたイベントでしたが、このときも朗読する作品の選定・朗読指導などに関わりました。被爆した子どもたちと同世代の中学生による朗読は聴衆の胸に響くすばらしいものとなりました。
世界に二つとない絵本美術館があるこの村で育ち、さまざまな活動に参加した生徒たちが成長し、父や母となってまた図書館や美術館を訪れてくれることが、最大の喜びです。
5.小学校副読本デジタル公開について
2021年、村の教育委員会より小学校高学年向け郷土学習資料の作成について協力依頼があり、項目作成・資料収集などを支援しました。その際、完成品は印刷物ではなくデジタルブックとして公開したいという意図があるがその術が不明であると伺いましたので、県立長野図書館ポータルサイト「信州ナレッジスクエア」内のeReading Booksへの掲載を提案しました。(デジタルブック『私たちの松川村』)
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6.終わりに
公共図書館の在り方は全国で一律である必要はなく、その地域の特徴を活かした、その地域に根差した図書館活動が肝要ではないでしょうか。当館においては、設立の際の理念である児童サービスの充実を常に念頭に置き、様々な試みを図りながら今後も特色ある図書館運営を続けていきたいと考えています。