今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京学芸大学附属大泉小学校マルチメディア室

2023-06-09 11:12 | by 富澤(主担) |

東京学芸大学附属大泉小学校は、昨年(2022年)8月に、IBワールドスクール(PYP認定校)となりました。学習指導要領にも沿いながら、IBワールドスクールとして、どのような学びを形作っていくべきなのか、学校全体での模索が続いています。

学校としては、一つ、大きな節目を迎えた本校ですが、学校司書としては、まだまだ、IBについても、学校全体の動きについても、情報収集、学びの段階にいます。何か特段新しいことができているわけではありませんが、新型コロナウイルス感染症によって休止していた活動を、少しずつ再開している動きもあります。現時点での図書館の様子を、この機会にまとめてみようと思います。

IBワールドスクールとは、「国際バカロレア機構」(本部ジュネーブ)が提供する国際的なカリキュラムを実施する学校のこと。PYPは、その中でも3-12歳を対象とした、初等プログラム。詳しくは、文部科学省IB教育推進コンソーシアムのサイトをご覧ください。

 

◇図書の時間◇

 新型コロナウイルス感染症対策として、子どもたちは椅子に座ったまま、絵本の場合は、大型テレビに映しての読み聞かせが継続されています。教員用に配布されたiPadを、書画カメラのように用いて、ブックトークをはじめ、本の紹介等にも利用するようになりました。

先日も、司書が右肩を脱臼し、しばらく腕を釣った状態で仕事をすることになったので、図書の時間で来館した13年生までのクラスで、『ほね(かがくのとも絵本)』(堀内 誠一∥さく、福音館書店、2012)の一部を用いて、骨と関節の関係や、骨折との比較をしながら、脱臼というケガの状態を説明しました。興味を惹かれた1年生数名が、その後、休み時間に来館し、司書に「読んで」と言ってきたので、久しぶりに「お話のコーナー」で、6人ほどの1年生に向けて、臨時で『ほね』の読み聞かせを行いました。

 

 4月に、5年生からは、オリエンテーションを兼ねて、著作権についての話を図書の時間にしてほしいと頼まれました。そこで、全てのクラスで、1時間、著作者の権利を守るための法律があること、子どもたちの作品も著作物であること、インターネット上の図版等も、きちんと出典を示して引用する必要のあること等を、解説しました。新しい学年になったばかりで、やる気に溢れる新5年生は、真剣に聞いてくれ、その後の調べ学習でも、著作権を意識する姿が見られたと聞いて、ホッとしました。「読書ノートは、引用の練習でもある」と繋げたので、先生方から「その視点はなかった」との反応があったのも、嬉しく思いました。

 

 令和元年から、学校図書館からのおすすめをリストにして配布し、読むことを勧める「きくの子文庫」の取り組みをはじめました。まずは2年生~4年生まで、各学年30冊のリストを作成することを目標に、少しずつ改良しながら整備を進めています。今年度、2年生と3年生には、1枚目のリストを全員に配布、リストにある本を読んで記録したら、その記録部分に付箋を貼るようにしました。ちょっとしたことですが、司書にとってはチェックがしやすくなり、子どもたちには、成果が目に見えやすくなったようです。また、リストを完了するごとに、賞状を兼ねたしおりがもらえるように準備したところ、それも意欲を喚起したようで、これまでになく、熱心に取り組んでくれているようです。

◇探究プログラム◇

 本校には「探究プログラム」と呼ぶ、教科の枠を超えた探究的な学びのための時間が設けられています。学年全体で、大きなテーマを共有し、そのテーマに沿って、子どもたち一人一人が、より具体的なテーマを自分自身で設定し、探究的に学習を進めます。

 

2年生のテーマ「せいちょうする いのちは ささえ合い かぎられた時間を 生きている」に関しては、図書の時間で『ここにも!そこにも!ダニ(ふしぎいっぱい写真絵本 35)』(皆越 ようせい‖写真・文、ポプラ社、2018)や『花のたね・木の実のちえ 2/スミレとアリ』(多田 多恵子∥監修/ネイチャー・プロ編集室∥編著、偕成社、2008)を読み聞かせ、3年生では「わたしたちは、相手と関わりながら限られた物を分け合う」というテーマを意識して、『おまたせクッキー』(パット=ハッチンス∥さく/乾 侑美子∥やく、偕成社、1987)と『みんなの ぶなのき(福音館創作童話シリーズ)』(きたむら えり∥さく・え、福音館書店、1983)を読み、4年生~6年生では、それぞれ簡易的なブックトークをしました。

 

5年生は、箱根への移動教室も関わっているので、東海道との関わりを中心に話をしつつ、『21世紀によむ日本の古典 18/東海道中膝栗毛』(〔十返舎 一九∥作〕/谷 真介∥〔訳〕著/村上 豊∥絵、ポプラ社、2002)の「小田原から箱根」部分の読み聞かせも交え、6年生では、日光への移動教室を見据えて、松尾芭蕉と『奥の細道』にも触れつつ、中禅寺湖をめぐる、男体山と赤城山との戦いの伝説を『栃木の民話 第1集(日本の民話 32)』(日向野 徳久∥編、未来社、2006)から朗読、それぞれ、資料をバスケットにも用意していることをアナウンスしました。

 

 図書館としては、テーマに沿った本を、バスケットに用意して提供することが支援の基本となっていて、それは、これまでと変わりません。ただ、抽象的なテーマから自身のテーマを導いて学習を形作っていかなくてはいけないので、少しでも、考える上でヒントとなりそうな作品を、図書の時間でも紹介していければと思って、勝手にコラボレーションを企画、実施してきました。今年度になって、先生のほうからの積極的なご依頼を、探究プログラムに関しては初めていただきました。このような連携が増えていくのは、良いことではないかと思います。

 

授業支援のためには、情報収集が欠かせません。その点では、PYP校となるために、全教職員がIBの研修を受ける必要があったこともあり、「学校全体で学習に取り組む」という認識が、より強まった印象を受けています。毎週金曜日に、探究プログラムについて、各学年で話し合う時間が設けられていますが、そこには、司書も参加することになっています。また、校内での研修や、国際中等教育学校との地区研修、教職員の打ち合わせにも参加して、情報収集できることは、IBPYPへの理解と、授業支援に役立っています。研修で言及のあった資料を、教員用図書として積極的に購入して、先生方の研究にも、より資する図書館となれればと思っています。

 

もっとも、司書は全校に一人しかおらず、毎週金曜日の打ち合わせが、複数学年で同時に行われるため、まだ各学年の動きに即した対応が十分にできているとは言い難く、先生方との連携は、今までにも増して切実な課題と感じています。

 

◇国際学級への読み聞かせ◇

 最後に、新型コロナウイルス感染症への対応で止まった取り組みを復活させる動きについてご報告します。本校には、3年生以上で、海外からの帰国児童が在籍する「国際学級(通称ゆり組)」があります。新型コロナ前は、週に一度、在籍児童の保護者有志が持ち回りで担当する「読み聞かせ」の時間がありました。しかし、新型コロナ対応で休止して以来、時間割の変更等もあり、なかなか復活させることができずにいました。

 

 しかし、今年度は、国際学級の先生方が、木曜日の4時間目の「日本語の時間」の一部を、ゆり組合同の「読み聞かせの時間」として設定してくださいました。現在のところは、司書による読み聞かせですが、子どもたちにもだいぶ定着してきた感があります。4学年をあわせても、1クラスより小規模な人数なので、「お話のコーナー」での読み聞かせも、この時間に関しては復活させました。様子を見ながらですが、また保護者の皆さまにも入っていただき、子どもたちと一緒に日本語の響きを楽しむ、豊かな時間が持てるようになることを願っています。

 

(東京学芸大学附属大泉小学校司書 富澤佳恵子)


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