今月の学校図書館

こんなことをやっています!

灘中学・灘高等学校図書館見学記 〈2015.8.30訪問)

2015-10-09 15:42 | by 村上 |

 灘中学・灘高校図書館を初めて訪ねたのは、今から10年ほど前、司書教諭の狩野ゆきさんが赴任されて間もなくだったように記憶している。その時も、それまで活用されていなかった図書館を、ものすごい勢いで改革されている様子に、学校図書館をどう運営していくかというビジョンがある専任司書教諭の存在の大きさを感じたものだ。その灘校図書館が、2013年春、新たに生まれ変わった。




 改築が決定してから、完成にこぎつけるまでの、幾多の闘いについては、他紙の実践報告(特に『がくと Vol30』(学校図書館問題研究会編 2014)や、ご本人のお話を聞く機会があり、さぞやたいへんだったのでは…と思う。それでも、学校図書館担当者の意見など顧みられず、着工される学校図書館が数多くあるなかで、司書教諭である狩野さんが、建築担当者と喧々諤々やりあいながら作ったという図書館を見学できるのは、とても楽しみだった。

 エントランスを入り、道なりに歩いていくと、全面ガラスで遠目からも図書館だとわかる建物が見えてきた。ドアを開けて全体を見渡すと、明るく近代的な、それでいて居心地のよさそうなスペースが広がる図書館だった。

 驚きだったのが、図書館へ入るドアが4つもあること! 最初の設計計画では、生徒の動線を考えるともっとも立地条件のいい場所として正門から入ってまっすぐの2階部分を考えていたそうだが、それは叶わず、その下にあたる1階の現在の位置に決まった。もともとは中学校と高校の教室だった部分をつなぐ形で新図書館が設計された。そこで、生徒の動線を考慮し、どこからでも図書館に入れるように、4つのドアを作ったという。不正持出防止システムがあるわけではないので、ある程度の紛失には目をつぶり、より多くの生徒に利用されることを目指した結果とのこと。狩野さん曰く「残念だったのは、このドアが引き戸タイプで、開けるのに結構力がいること。半自動タイプで…と業者にはお願いしたのだが、かなり背の高いドアなので、無理だった」。図書館はPCルームとも近接していて、隣接する場所に、部室や保健室もあり、生徒がよく利用するエリアに図書館が置かれていることがわかる。

 入って右手にあるスペースが、ブラウジングコーナー。庭に面した部分はガラス張りで、低めの展示書架が飾ってある。面展示は、外にも内にも向けられ、外に向けられて飾られた本も内部から無理なくとれるスペースが確保してある。雑誌書架は、最新号のみ面展示できて、バックナンバーは下段に背表紙を見せて置けるようになっている。写真に写っているソファのコンセプトは、「寝られること!」。館内にはあちこちにこうした居心地ならず寝心地のよいソファが置いてある。確かに、お目当ての本を読んでいるうちにふと眠気に襲われ、そのままここでまどろむなんて最高。灘中高生も、ぜいたくなひとときをここで過ごしているらしい。
床はコルクボードで、足音が吸収されてとてもいいのだが、ネックは色のついた液体をこぼすと、染み込んでしまうこと。そのため館内は原則、飲食禁止となっている。


 

 続くゾーンは、調べものコーナーということで、主に0類の本と参考図書類が置いてあった。(写真上左)さらに、ドアを出てすぐは、自販機と、組み合わせ自在の机がある外からも入れる、ブックラウンジなる多目的スペース(飲食可)となっていた。部活や委員会活動の延長でここを使うことも多いのだろう。持ち出し可の古くなった書籍類も並んでいた。
 カウンター付近には、すべて特注でデザインや色に統一感のある、様々な展示コーナーや、DVDなどを視聴できる大型TVが設置されている。そして、ヘッドホンではなく、生徒が自分のイヤホンを複数つなげるように工夫されていた。



 図書館の自由宣言のポスターも大きく貼りだされている。カウンターの前には、リクエストされた本への回答が所狭しと貼りだされていた。購入不可だった本でも、公共図書館の所蔵状況が書きこんである。学校のすぐそばに神戸市立東灘図書館があるので、そこにつなげるのも学校図書館の役割かと考えているそうだ。
選書は、以前は司書教諭と学校司書が行っていたが、リニューアルしたことで教員側の関心も高まったことから、今は教員も含めて選書にあたっている。そのため、リクエストされてから生徒の手に本が渡る期間が以前より伸びているのは否めない。
 検索用PCが3台設置されていたが、それとは別に、カウンターに1台のPCが。あらかじめ決められたいくつかのサイトにのみ行けるように設定されているとのこと。セキュリティー設定は、情報担当の職員がしているが、ITに関しては大人以上の知識を持つ灘校生もいるゆえ、勝手な操作ができないように、検索用PC含め、本体は施錠付き収納としているそうだ。



 カウンターを通り過ぎると、書架と学習スペースが大きく広がっている。中央には、高窓が(写真左下)。図書館としては、本が痛むので天窓・高窓は正直嬉しくない。そこで、日差しよけに、某大学が開発していたフラクタクル日除けなるものを、特別仕様でお願いして、使っている。さらに奥の洋書コーナーは、階段を数段降りる形なので、穴倉をイメージして設計してもらったそうだ(写真右下)。














 左の写真は、9類から古典だけを抜き出した「古典の間」。重厚感のある雰囲気を醸し出しているのは、伝統ある椅子を再利用しているせいか。アンティーク感を漂わせ、木目調の机にしている。畳のコーナーがあり、冬にはここに炬燵が現れるそうだ。

 今回見学をさせていただき、自由度の高い、「自学の場」、「くつろぎの場」としての学校図書館を具現化しているように感じた。こんな素敵な図書館が毎日使えるなんて、本好きの司書からは、灘校生が羨ましい限り! 生徒はどんな感想を? とお聞きすると、「男子はあんまり自分の気持ちを言わないのよねぇ」とのこと。建て替え中でこの図書館を使えなかった卒業生は、さすがに「いいですねぇ」と言ってくるが、仮設の図書館時代を過ごしていた高2までは、古い図書館を知らないので、比較するものもないらしい。が、言葉はなくても、手ごたえは確かに感じているに違いない。

 狩野さんは、授業での活用はまだまだこれから…とおっしゃっていた。中学生の60%が利用しているこの図書館も、高校生となると、半数を切ってしまうらしい。図書館の良さを実感してもらえるためには、意図的に授業で使う…も必要なのだろう。リニューアル以来、外部からの訪問者の見学コースに必ず入るようになったという。くつろぎ感を醸し出しながら、学びを意識したこだわりのレイアウトが光る灘校図書館ゆえ、きっと先生方も授業に使わないのはもったいない! と思い始めているのではないだろうか。



                        

 文責 附属世田谷中学校 村上恭子




次の記事 前の記事