今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京学芸大学附属特別支援学校

2016-04-13 14:29 | by 渡辺(主担) |

 
 
                  7年目を迎えました>
 今年は早く咲いた桜の花も散り、新入生が入学して、新しい出会いが楽しみな季節です。
東京学芸大附属特別支援学校にも、いっぱいの期待と少し不安な気持ちを浮かべた新しい顔が仲間入しました

東久留米の川沿い、冬は富士山が見える校門を入ると、梅や桜の花、紫陽花、コスモス、大きな銀杏に紅葉と自然豊かな環境のすてきな学舎に、幼稚部、小学部、中学部、高等部の児童や生徒が通ってくる学校の小さな図書館をご紹介します。

●ミニ図書館ができた●
 20097月にマルチメディアDAISY研修と布絵本研修が本校であり、10月に熊本県立松橋養護学校(当時名称)司書、庄山美紀子氏の講演会が行われました。この講演会参加をした現在の司書の田沼が、語りの仲間と、同年12月と20101月に小学部でのおはなし会をおこなったことをきっかけに、司書未配置だった本校に20104月から、月に12日ほどの不定期な勤務ですが、学校図書館作りが始まりました。

 
 6
年の時間を経て、校内の教職員の方々と、大学の附属学校部、そしてほかの附属学校の司書の方々の力をたくさん借りて、小学部は第二学習室、中学部はランチルーム、高等部は生徒会室の中に、それぞれミニ図書館ができました。児童・生徒や教職員のリクエストを基に、毎年少しずつ図書資料が増え、マルチメディアDAISY、布絵本、絵本、大型絵本、紙芝居、行事関係資料、自立支援関係資料、料理や手芸の本などが揃えられ、書架の購入も徐々に進みました。



         ▲小学部図書館                          ▲中学部図書館

貸出システムは、司書が常駐ではないことと、記入などが必要ない方法ということで、ブラウン方式としました。手作りの貸出ボックスへのカードの出し入れだけの簡単な方法で、まずクラス単位の貸出から始まり、やがて「おうち貸出」として、保護者への家庭貸出も始まり、複数の保護者に活用されています。

少ない勤務日数で、毎月のそれぞれのミニ図書館のディスプレイや展示だけで、司書の仕事が終わってしまうことが多いのですが、児童・生徒とふれあう時間が増え、司書がいない日でも児童・生徒と先生方との本の時間が増えてきたと聞かされることが多くなってきています。

▲高等部図書館


子どもたちとのかかわり
 7月のプール開きの日、『およぐ』を小学部の書架に展示をしたところ、中2の男子生徒が給食の時間の前に、司書の私のいる第2学習室にやってきて、その本を手にとりました。一緒にページをめくって、私が声にだして読み始めました。泳ぐのが苦手な男の子が洗面器に水をはって、「ぶくぶくぱぁっ」を繰り返す場面で、それまで無言で聞いていたその男子生徒が、一所懸命「ぶっ、ぶっ」と言いたそうな感じで、口をあけて、本を見ていて、次のページをめくろうとする私の手をおさえます。そして何度も「ぶっ、ぶっ」という口の動きをしています。私は「ぶくぶくぱぁっ」を繰り返しました。そのうち「ぱっ」と言う声が彼からでました。そのとき、ちょうど迎えにいらした担任の先生が、「やぁ、いい声がでたねぇ」。発声の苦手な人で、その日の体験と絵本が結びついてのいい出合いだったと、帰り際に先生から聞かされました。

『あたしのあ あなたのア』(谷川俊太郎・波瀬満子)には、言葉がでない子どもの発声のためのプログラムを、波瀬さんが試行錯誤して作り上げていくことが書かれています。この本で私はたくさんの学びをしました。『およぐ』の経験はそのささやかな実践でした。そしてこの本の中で、谷川氏が、鶴見俊輔氏の言葉としてナンセンスについて説明しています。「センス」とは「意味」、「ナンセンス」とは「意味を問い返す」ということ。だから子どもたちはナンセンスな絵本にひかれるのかと思いあたりました。

また『それほんとう』を小学生に読んでいたとき、自分の言葉を話し続けている自閉症の児童が、突然「ありのありすさんが」と、本の言葉を自分の言葉の中にはさんで繰り返し言い始めました。まったく聞いてないようでしっかりと聞いていたのです。この本の言葉の力を感じました。

雨の日、小学部の低学年の児童たちと『あめぽったん』を読んでいると、自然に歌になり、音楽大好きの子どもたちは、身体を動かして一緒に歌います。春の気配を感じる冬の日、『ふゆめがっしょうだん』を歌って読むと喜んで声をあげます。わらべ歌や手遊びのように、本を楽しめる子どもたちがいます。

時刻表や電車の本を求める「てっちゃん」が多く、電車の新しい本が入ると、司書に詳しく教えてくれる中高校生がいて、更に新しい資料の必要性を感じます。

高等部の男子生徒と手紙の交換をしたこともありました。一人でいつも本の整理をしてくれている人でした。またそっと好きな本を借りていく女子にも出会うことがあります。卒業後の自立を目標に先生方と保護者の方々が育ててきた生徒たちが、ほっとできる心の自由時間をこの図書館で過ごすことができたら嬉しいです。

アメリカの児童図書館員協会の基準「21世紀の学習者のための基準」の冒頭の言葉に「すべての子どもにとって、読むことは、世界に開かれた窓」「読むことは、学びや個人の成長や楽しみの基礎となるスキルである」という言葉があります。

「障害者差別解消法」が施行され、「合理的配慮」を無理のない形でしていくということが、この4月から始まりました。特別に支援の必要な子どもたちの感性に出会って、感じる心は等しく同じという、当たりまえのことに気づきます。子どもたちそれぞれが、本との出合いで世界につながる喜びを得ることができるように、出会う子どもたち一人ひとりを支えていきたいと思います。


●これから●

 月に12日の勤務の限られた時間です。できれば勤務日数が増えて、もう少し若い司書が、児童・生徒に本を手渡し、授業支援ができるようになってほしいと心から願っています。
 
(東京学芸大附属特別支援学校司書 田沼恵美子)

ご案内:司書の田沼さんがおこなった附属特別支援学校での「授業応援」を、今月の「読書・情報リテラシー」のコーナーで紹介しています。そちらもあわせてどうぞ!



次の記事 前の記事