今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京学芸大学附属世田谷中学校

2017-04-09 06:16 | by 村上 |

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今月は、東京学芸大学附属世田谷中学校 69回生(中2)の国語「~○○な棚をつくろう~」という授業の様子をお伝えします。

 



 授業のヒントは、授業者である渡邉裕教諭が、クラフトエヴィング商會の『おかしな本棚』(朝日新聞社 2011年)から得たものです。「自分の読書を振り返り、今まで読んだ本だけでなく、これから読みたい本や気になる本も交え、自分の本棚をつくり、名前をつけてもらいます。」と生徒が聞かされたのは、12月初めのこと。そこで、図書館でも生徒に具体的なイメージをもってもらおうと、図書館の並びに研究室のある理科の先生に、子どもの頃から大人になるまでに特に印象深かった本を聞き、それを並べました。この本棚に先生がつけた名前は「大人への寄り道」です。






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 69回生は、図書館をよく利用する生徒が多い学年ではありますが、当然読書が好きではない生徒もいます。そういう生徒もひっくるめて、読書生活を振り返ってみる、というのもこの授業のねらいですが、先生のいちばんのねらいは、「文脈性」を感じてもらうことです。159名の中学生が選ぶ本の中には、当然同じ本があるはずです。しかし、一人ひとりの本棚のなかでは、違った意味をもってそこに並び、違った名前がその棚にはつけられるだろうと先生は考えました。そして、最終的には、その本棚にまつわるエッセイを書かせたい…とのことでした。







  授業構想の相談にのりながら、司書の私が思いついたのが、本棚について書かれたエッセイ「私の本棚」(新潮社編 2016)の活用です。この本は23人の著名人が自分の本棚について熱く語っている本です。一人あたりのページ数は少なく、読むのに5分もかかりません。図書館の蔵書とは別に2冊買い足し、この本を裁断し、23冊×2=46冊の冊子にして、並べました。隣にはその著名人が書いた本を一緒に並べてみました。

 生徒は、2学期末までに並べる予定の本をリストアップし、それはどこにある本か(自分の本・学校図書館の本・公共図書館の本)を書いて先生に提出したので、その一覧をもらいました。

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  冬休み明け後、本を抱えて生徒が図書館にやってきました。それでなくても、本だらけの図書館が、さらに生徒の持ち込んだ本で飽和状態に!でもガヤガヤと楽しそうな雰囲気です。絵本ばかりの本棚や、ほとんど漫画の本棚もあれば、厳選されたことが伝わってくる本棚もあり、それぞれ個性がでます。なかに、和綴じの本があったので、この本棚の企画のために、手に入れたのか聞いてみたらそんなことはなく、以前どうしても欲しくて古本屋さんで入手した大切な本でした。学校では見えない読書の実態が垣間見れます。班ごとにiPadで写真を撮り、AirDrap機能を使い先生に提出、その後ワークシートに、本棚の名前を書き、その名前をつけた理由を書きこみ、この日の授業は終わりました。








 翌日、教室の後ろに本棚の写真をA3に拡大したものが貼り出されました。



 生徒は4人グループになり、互いの本棚の写真を見て、名前を想像し、付箋に書いて後ろの大きな写真に貼ります。その後、本人から、棚の名前となぜその名前にしたのかの説明を聞きました。この部分の授業は、日本国語教育学会中学部会の研究授業として、公開されました。見学に見えた先生方からは、以下のような講評をいただいたそうです。



* 多くの学校で、読書指導の一環として取り入れることができるのではないか。

* 自分とは違う人の思考を体験・経験することで、その人の体験をもとにした必然的な文脈を考えることになり、自身の心の中を沸き立たせるような経験をすることにつながる。

* 拡散的な内容の取り組みであり、「名づける力」を育てる単元(言語化の単元)である。そこでは分類する力、語彙力との関わりも重要になる。

* 同じ情報から多様な文脈が生まれた。なぜこのような文脈が生まれたのか、その名付けという文脈生成過程を明らかにすることや、文脈の生成活動が学習活動であった。

* 学習材(本棚)自体に中身がある。本自体にも作者/筆者がいる。経験や思想を考えていく中で、自分の経験から語ることにより、グループ内外と混じり合い、自分のものが見えてくる可能性を秘めている。

 
p.p1 {margin: 0.0px 0.0px 0.0px 0.0px; font: 12.0px 'Hiragino Kaku Gothic ProN'; -webkit-text-stroke: #000000}p.p2 {margin: 0.0px 0.0px 0.0px 0.0px; font: 12.0px 'Hiragino Kaku Gothic ProN'; -webkit-text-stroke: #000000; min-height: 18.0px}span.s1 {font-kerning: none}  このあとは、しばらく時間をとり、先生が一人5作品以上、エッセイを読むという課題を出しました。バラした「私の本棚」はカウンター前に置いて、課題をやりに来た生徒に、貸し出しはせず、その場で読んでもらい、家で読みたい生徒には、中学生が読みやすそうなエッセイをまとめて別置し、貸し出しました。実は日頃エッセイを読んでいる中学生は意外と少数派なのです。以前、「徒然草」の授業の最後に、様々なエッセイを読む授業をした時にも感じましたが、そもそも随筆とかエッセイと言われても、読み慣れていないので、どんなものかわからなかったりします。今回は、それぞれがエッセイの定義を調べ、さらにエッセイを読むことで、エッセイとはどういうものなのかを実感してもらうことにしました。そのうえで、自分なりに「エッセイとはどのようなものか」を定義し、本棚に添えるエッセイを書くようにしました。その効果があったようで、先生も「明らかに作文ではなくて、エッセイが書けていた生徒が多かったです。」とのことでした。 





 4月、この時撮った本棚の写真を、東京学芸大学附属図書館の2階に展示させてもらっています。もう少したったら、生徒の許可をとり、本棚の名前とエッセイも一緒に展示する予定です。


 先生の卵がたくさん利用している大学図書館なので、イマドキの中学生がどんな本を読んできて、どんな本に関心をもっているのか、そしてどんなことを考えているのか、その一端が垣間見れるかもしれません。








 読書自体は、個人的な作業ではありますが、時にこのように読書体験を共有し、お互いのエッセイを読みあう機会を持つことは、刺激的だと感じました。そのような機会を学校図書館として関われたことはとても良かったです。ぜひみなさんの学校でも、形を変えて取り組んでみてはいかがでしょうか?尚、この授業は、まもなくデータベースにもアップする予定です。    

                  

  東京学芸大学附属世田谷中学校司書  村上恭子



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