今月の学校図書館

こんなことをやっています!

神奈川県 相模原市立並木小学校

2018-03-07 14:51 | by 松岡(主担) |

「今月の学校図書館」で紹介するのは神奈川県相模原市立並木小学校です。

相模原市の学校図書館には週2~3日、1日5時間勤務で「学校図書館図書整理員」が各校に配置されています。市内の小学校で図書整理員として勤務されている松井朋子さんは、図書の時間にゲストティーチャーとして「耳からの読書(=耳読/みみどく)」という特別授業を行っています。

神奈川県で取り組まれている「いのちの授業」を松井さんは「耳読」で行い、その授業を受けた6年生の児童の作文が「第5回いのちの授業大賞」で表彰されました。

 今回は松井さんよりこの「耳読」についてお話をうかがいました。





  
   








「いのちの授業」を行った時の展示



各学年の耳読のプログラムとおすすめの本を図書館で紹介&展示しています。

 



 私の図書の時間は「耳からの読書」と言います。略して「耳読(みみどく)」です。おもに昔話や物語の「語り」を聞く授業ですが、語りを聞くだけでなく各学年の教科書(国語、社会、道徳、図工、など)やテーマ(環境、人権、戦争、など)につながるお話を聞いたり写真や資料をスライドにしたものを大型テレビで見たりします。ほぼどの学年も月に1回「耳読」の授業があります。

 例えば6
年国語教科書の宮沢賢治のやまなしとイーハトーブの世界にあわせて

1.語り 注文の多い料理店

2.スライド 賢治ゆかりの地を訪ねて

3.本、詩の紹介

4.賢治クイズ などを行います。

  

 また差別・人権のテーマにあわせて

1.語り がちょう番の娘 (『子どもに語るグリムの昔話1』こぐま社) 

2.スライド アンネフランクとハンナ

3.本の紹介

4.まとめ  ホロコーストから学ぶもの  などを行います。

 スライドは、実際に取材して撮影したものや資料等から取り込んだものを一つの流れに編集して大型テレビに映してみせます。勤務校だけでなく前任校や異動した先生に呼ばれたりして現在は3つの小学校で行っています。

 

 

 












「生物多様性」の取材では多摩動物公園をはじめ全国の飼育員さんや獣医さんと知り合いになったりしました。本につながる資料集めを積極的に行っています。

 

 そんななか「 耳読」で通っている小学校の一つ 並木小学校の6年の先生から9月に修学旅行で星野富弘美術館に行くのと、新学期になると自殺をする子どもたちのニュースを見聞きすることが少なくないこと、それらをからめて「命」の大切さを伝える話を「耳読」でしてほしいという依頼がありました。そこでさっそく星野さんの本や詩を読み、美術館にも行き、これから中学、高校に進む子どもたちに向けて「生き抜く力の大切さ」をテーマにプログラムを考えました。











 




 授業では『熊の皮を着た男』(『子どもに語るグリムの昔話1』こぐま社)を語りで行い、『エリカ 奇跡のいのち』(ルース・バンダー・ジー
/文 講談社)、『いのちのまつり』(草場一壽/作 サンマーク社)『まどさんからの手紙 こどもたちへ』(まど・みちお 講談社)の紹介、スライドでは星野富弘さん、日野原重明さんの生涯を伝えました。

 


 









 















 子どもたちに伝えたいことは「可能性は無限大!」「小さな幸せをみつけよう!」「だれでも人を感動させられる存在!」の3つでした。

 子どもたちは思っていた以上に真剣に話を聞いてくれました。授業の後に子どもたちからもらった感想を一部紹介します。
これからも命のつながりも大切にして一日一日を生きていきたいです。」
「これからもいろいろな悩みに直面しても、『無限の可能性』を考え、『小さな幸せ』を見つけていきたいと思いました。」
「今までは毎日生きていることがあたり前だったけれど、改めて生きていることの喜びが分かりました。今までより自分の命や人の命、たくさんの命を大切にしようという考えがとても深まりました。」
「私はこの授業で、命のありがたさを学びました。今まで、私たちが命を動かしていると思っていたけれど、本当は命に私たちが動かしてもらっているというありがたみを感じました。熊の皮を着た男のように、力強く生きて、これからも命のありがたみを感じていきたいです。」

 
今回は6年生を対象に「生き抜く力の大切さ」をテーマに授業を行いましたが、違う学年にも色々な形で「いのちの大切さ」を伝えていきたいと思っています。

 「いのちの授業」の依頼をした並木小学校の神原由香里先生からも今回の授業について感想を寄せていただきました。

 
2時間という長い授業でしたが、語りあり、読み聞かせあり、スライドありで、子どもたちは集中して話を聞き、授業に引き込まれていました。子どもたちの感想からも分かるように、どの話が一番印象的だったかはその子によって違うのですが、どの子も自分の「いのち」について真剣に考え、その大切さやありがたさを感じられる時間となりました。内容は豊富なようですが、松井さんのブレない3つの柱によって、とても分かりやすい授業になっていて、素晴らしかったと思います。

修学旅行で行く富弘美術館の星野富弘さんを取り上げてくれたことで、子どもたちの修学旅行への関心も高まり、美術館での作品への鑑賞がより深いものになりました。こちらの要望に応えてくださる松井さんにはいつも感謝感謝です。
 余談ですが、修学旅行後に市内で星野富弘特別展が開催されたのですが、その展覧会へ足を運んだ子どもも何人もいて、松井先生の授業をきっかけにたくさんの子が学びを深められました。
 


この「いのちの授業」を受けた6年生吉田花苗さんが書いた感想が後に神奈川県主催の「第5回いのちの授業大賞」で優秀賞を受賞し、表彰されました。表彰式でのインタビューで吉田さんは「笑顔に支えられてきた自分の命。今度は自分がまわりを笑顔にできる人になりたいと思った。」と語ってくれたそうです。




 









授賞式での記念撮影
左から吉田さん、黒岩神奈川県知事、松井さん


「いのちの授業大賞」ホームページ
 http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f417796/

「平成29年度受賞作品一覧」(優秀賞に吉田さんの感想が掲載されています)平成29年度受賞作品一覧

※この「いのちの授業」は後日授業事例の方へも掲載予定です。

※記事内の写真、ホームページへのリンクは許可をいただいて掲載しております。

 
 今回「耳読」のお話をうかがって、授業の単元や学校の活動に即して本だけにとどまらずに資料を集めたり、おはなしやブックトークという色々な伝え方をしていることに松井さんの熱意を感じました。またそれは授業実践をする教員のバックアップがあってこそ、ということを神原先生と松井さんお二人のお話から知ることができました。神奈川県の「いのちの授業」をはじめ、さまざまな取り組みで相模原市の学校図書館活動がより生き生きとすることを願っています。
(編集担当 東京学芸大学附属小金井小金井小学校 司書 松岡みどり)




次の記事 前の記事