今月の学校図書館

こんなことをやっています!

群馬県立利根実業高校

2018-09-30 16:26 | by 金澤(主担) |

 
 今月は、「子供の読書活動優秀実践校」として文部科学大臣表彰を受賞された群馬県立利根実業高校を紹介します。利根実業高校は、平成26年度から図書館イノベーションを行っているそうです。図書館改革をどのように行ってきたかを、学校司書の近藤信子さんに紹介していただきました。



1、本校の概要

   本校は群馬県北部の沼田市にある、大正8年創立の農業と工業の専門高校です。各学年農・工2クラスずつの計12クラス、生徒数約470名で、生徒の多くは地元利根沼田地区出身です。日頃の活動が評価され、平成26年に群馬県の県立高校で唯一のユネスコスクール加盟校となりました。

実業高校のため施設規模が大きく、校舎敷地内の様々な実習棟の他、赤城山の北西麓に広大な演習林と農場を保有しています。




2、学校図書館の概要

  学校図書館は特別教室棟第2校舎の2階にあり、広さ235㎡、蔵書冊数約22千冊です。

図書係は司書教諭1名、専任の学校司書1名で活動しています。図書委員は各クラス2名ずつ計24名です。


3、「図書館イノベーション」の取り組み

  平成26年度から図書委員会と環境技術科3年の課題研究の授業生徒(以下課題研究班)と協力し「図書館イノベーション」に取り組み、生徒目線での学校図書館改革を行ってきました。以下、その活動を紹介します。

 

○1年目(平成26年度)の取り組み

《図書委員会》

 生徒目線で委員会活動を見直し、全校生徒に関心を持ってもらえる工夫を考えました。

①図書館だよりのリニューアル

手書き風文字やイラスト・写真を多用し、親しみやすくしました。

②生徒による事業計画立案

推薦図書リストの作成や、秋の読書週間に合わせた読書月間の開催、それに伴うワークショップなどを計画しました。

《課題研究班》

 学校図書館の問題点の洗い出しを行い、次の項目について改善に取り組みました。

①図書館が開いているのか、閉まっているのかわからない→開閉表示プレートの作成

②入口が暗く圧迫感があり、入りにくい→レイアウトの変更

③雑巾がけが大きく、劣化がひどい→雑巾がけ製作

④新聞ラックが半壊状態→新聞ラックの修繕

②のレイアウト変更では、利用生徒と図書委員の意見を参考に課題研究班の生徒が候補の模型を作成し、その中から採用するレイアウトを決めていきました。改装作業は、夏休みを利用し図書委員と課題研究班、その他ボランティアの生徒で行いました。書架の移動と同時に本をきれいにし、除籍図書の選別も行いました。レイアウト変更後にはアンケート調査を行い、生徒の反応を調査しました。

③の雑巾がけは、生徒がデザイン画を起こし、その中から一番シンプルで邪魔にならないデザインを起用しました。












○2年目
(平成27年度)の取り組み

《図書委員会》

 ①図書委員会の組織改編

広報班以外の係を見直し、「読書推進班」「整理班」を新設し、業務分担を明確にしました。

 ②読書に関する実態調査アンケートの実施

文化祭での発表を目標に、全校生徒を対象にHRでアンケートを実施しました。文化祭ではアンケート結果の展示の他、「しおりコンテスト」などの展示と投票、図書館イノベーション活動のポスター展示を行いました。

《課題研究班》

①雰囲気改善のための製作物

週間予定表の差し込みフレームやペントレイを製作しました。

②スペースの有効活用のための製作物

書架と柱の隙間活用として新聞保管棚製作。カウンター内を広く使えるよう移動式プリンター台を製作しました。   

                                     
○3年目(平成28年度)の取り組み

《図書委員会》

①図書委員の増員

各クラス1名ずつだった図書委員を、生徒会規約を変更し各クラス2名に増員しました。そして、増員に伴い昨年度の組織編成を継続しながら係分担を細分化しました。

②電算化作業

夏休みにバーコード貼付作業を行い、9月からPCでの貸出を開始しました。

《課題研究班》

①本の滑落防止対策

 背面版のないスチール書架に排架している本が、棚の後ろに落ちないように背板を製作しました。

②ディスプレイスタンド「ブックツリー」の製作
面展示されている方が、本を手に取りやすいと考えた生徒が「本気(ブックツリー)」やスチール書架側面を活用した面展示台「ブランコ」を製作しました。























③作業台の製作

当番に来た図書委員が作業しやすいようにカウンター内に作業台を製作しました。

これまでの課題研究での製作物は、すべて廃材を利用して製作しています。



○4年目(平成29年度)の取り組み

《図書委員会》

 ①図書館利用マナーの向上に向けた取り組み

  生徒のアイデアから、古新聞で消しカス入れを折ったり、アクリルのキューブボックスでマナーサインを製作したりしました。



②ビブリオバトルの開催

読書月間イベントで、はじめてビブリオバトルを開催しました。生徒だけではなく、先生方にもバトラーとして参加を募りました。観戦参加を呼びかけたところ、バトラーの4倍の観戦者が集まり、大盛況でした。

《課題研究班》

課題研究としての取り組みは一旦終了し、実習の授業で溶接技術を生かしたディスプレイ棚の製作などをしてくれました。



○5年目(平成30年度)の取り組み

《図書委員会》

 ①図書館通信のインタビューコーナー

毎月様々なテーマで生徒が書いていた記事を、反響の多かった先生方へのインタビューコーナーにしました。

 ②部活動とのコラボ

理科部とのコラボ展示や、演劇部とコラボした朗読スライドショーを作成中です。

③文化祭への参加

本校がモデルとなった小説『蕎麦、食べていけ!』(江上剛著/光文社刊)の人物相関図パネルや物語紹介パネルを作成、展示予定です。また、図書館イノベーションを紹介したスライドショーと、演劇部とコラボの朗読スライドショーも流す予定です。

《課題研究班》

昨年度同様、実習の授業で集団読書用テキストを入れるためのスタッキングボックスや、パネル用ポップスタンドを製作してくれました。


  以上が、現在までの「図書館イノベーション」の活動状況です。平成28年度からは、蔵書管理を電算移行し、生徒の利便性が高まったこともあり、平成29年度の貸出冊数は、平成25年度の3倍以上に増え、図書館本来の貸出利用が定着しつつあります。そして、こうした取り組みが評価され、今年度「子供の読書活動優秀実践校」として文部科学大臣表彰をいただきました。

  また、図書委員会主催のイベントで、人気の高いワークショップが「しおり作り」です。しかも、紙で作る普通のしおりではありません。学校農場で飼育している羊の毛で作る「羊毛フェルト」のしおりです。羊毛の活用についての課題研究に取り組んでいた図書委員の3年生が発案し始まったワークショップでした。生徒が授業で得た知識を、様々な場面で応用しようとする姿勢にいつも驚かされます。

 
  このように図書委員会で開催するイベントでは、楽しく参加できるワークショップなど工夫を凝らし、全校生徒が足を運ぶ機会を作ってきました。また、課題研究のテーマに学校図書館の改善を選んでもらったことで、学校図書館は所蔵資料だけではなく、施設自体が丸ごと生きた教材になるということを実感しました。


  さらに、課題研究で学校図書館を利用してもらったお陰で、先生方の学校図書館への関心も高まり、授業で図書資料を活用してもらう機会が増加しました。調べ学習で資料を揃えるのはもちろん、学校司書が授業でブックトークを行うなど、教科との連携も増えてきています。

  今後の課題としては、貸出利用の個人差が大きいので、更なる読書意欲の喚起と読書の質の向上が挙げられます。図書委員会活動と同時に各クラスの担任と連携し、LHR等での計画的な学校図書館活用に取り組んで行きたいと考えています。

(文責 群馬県立利根実業高校司書 近藤信子)



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