今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京都 世田谷区立瀬田中学校

2019-09-07 08:00 | by 村上 |

 7月末、機会を得て世田谷区内の学校図書館を見学することができました。世田谷地区に附属学校がある司書3人が伺ったのは、教職員とも生徒ともとてもいい関係を築きつつ、特色ある活動をされているという瀬田中学校です。利用者が不在の時間帯でしたが、様々な工夫が凝らされた図書館で、司書である衛藤さんのお話を伺い、ここを楽しく使っている生徒の様子が目に浮かびました。そこで、その一端を記事にしていただきました。


1.概要

 世田谷区立瀬田中学校は、東急田園都市線二子玉川駅から徒歩12分、東急大井町線上野毛駅から徒歩12分の住宅街にあります。生徒数は約360名、学級数は10クラスです。図書館は校舎二階で、蔵書数は約1万3千冊あります。閲覧室2つと前室で構成され、1室で授業や学習に利用しながら、もう1室や前室を読書に使うという分け方ができるのが特徴です。







2.すべては生徒とのコミュニケーションから得られる

 世田谷区では株式会社リブネットが委託で小中学校全校への司書の常駐を担っています。いつでも司書がいる図書館を実現している公立校は、全国的に見ても少ないのが現状です。
 世田谷区は図書館の活用において恵まれた環境が整えられているので、生徒の読書や調べものの相談に対してリアルタイムで応じることができます。

 瀬田中学校では本のリクエストがとても多く、「あの本の続きはまだか」「こんな本が読みたい」など選書が追いつかない勢いで要望が寄せられます。日ごろから読んだ本の感想を生徒に聞いているのはもちろん、司書の方から「こんな本を買おうと思っているのだけれど、興味がある?」という相談をもちかけることも多いです。
 授業で先生から本が紹介されることもあれば、休み時間には生徒おすすめの本を先生が借りていかれることもあります。瀬田中学校図書館の大切な方針の一つは“双方向の読書活動”と言えるかもしれません。
 
 返す本は生徒自身で棚に戻してくれますが、「面白かった」「ふつう」「いまいち」という感想を表現する返却箱も用意してありますので、司書としては「面白かった」点だけでなく「いまいち」だった点を教えてもらえるのが貴重です。

 図書委員会が作った本紹介コーナーには、心に響いた紹介や興味を持った本に一般生徒が「いいね」の札を投じる遊び心があります。本の選び方や展示場所、飾り方や呼びかけが票獲得に影響しますので、委員さんたちの工夫から将来の社会・経済活動へ繋がりそうな発想が感じられて、楽しく見守らせていただいています。

 学習内容は先生方に事前リサーチをしておきますが、生徒たちに「今何を教わっているの?」「次は何を教わるの?」と折に触れて聞くことで、「あれ苦手」だとか「ここの問題をもっと数多く解いて慣れたい」といった支援すべきポイントを得ています。「初詣に行く」という日常会話からヘアアレンジ資料の購入につながったこともありました。生徒との対話からすべてが組み立てられていく楽しさを感じられるのは、学校図書館ならではの喜びと言えるでしょう。

3.調べて「書く」図書館

 先生方が積極的に図書館利用を促してくださっているおかげで、生徒たちは課題の調べものや学習の参考になる本を探しに授業の合間でも来館してレファレンスを求めてくれます。
 よほど人気のある資料以外は複本を買わず幅広い視点やジャンルを網羅するよう努めています。目ぼしい本をいくつも借りて貸出上限に達してしまう生徒などは、借りられなかった本から必要な箇所を書き写して対応しているようです。
 閲覧室は元々教室だったものが改装されているので2部屋とも黒板があり、普段は友達と趣味を共有するために書いて説明する姿が見られ、試験前になると勉強を教えあったり授業の板書を再現する様子も見られます。
 放課後にはワークやレポートを書くために来館する生徒がいるので、学習センターとして活発なのは嬉しいことです。
 思考を助けるマンダラチャートやマインドマップ、パスファインダー、リーディングトラッカーなどは自由に利用できて、ある生徒が使っている姿を見て他の生徒も使い始めるといった様子が見られます。司書が提案するサービスや小道具も、使ってもらうなら生徒の口コミに優るものはありません。
  
      mandara.pdf           mindmap.pdf           english.pdf        helpsheet.pdf

4.身近でオリジナルな「進化する図書室」を目指して

 瀬田中学校図書館にはマスコットキャラがいます。レファレンスを受け付ける「レッファーパンダ」と、リクエストを受け付ける「リクエス兎」です。始めは司書が図書館の“ゆるキャラ”を作りたいと生徒に相談して、サンプルとして描いたものが気に入られてそのまま使われるようになりました。
 
 レファレンスというと司書が利用者に応えるサービスですが、理想としてはレッファーパンダの“中の人”は司書だけでなく、先生や意外な専門家が回答する機会も想定しています。様々な人の手で支えることで、いつか先生や司書が代わっても図書館サービスの質は変わらず時代に応じて向上し続けてほしいという願いが込められたオリジナルキャラクターなのです。















 リクエス兎は「学び舎」として連携している地域の小学校にもシェアしています。世田谷区では小中全校の司書と連絡・連携が容易になったおかげで、様々な試みが始まりました。
 瀬田中学校が入っている多摩川の学び舎では、各校の貸出ベスト10を半期ごとに共有して掲示します。中学生は「あ、これ読んだ」「今はこういう本を読んでいるのか」と感じ、小学生は「瀬田中に行くとこんな本が読めるんだ」という期待をもってもらうことが目的です。
 秋の読書週間の時期には「学び舎読書マラソン」と題して、借りた冊数分のスタンプを集計して各校のメーターに視覚化させる活動をしています。今は各校の様子を知るツールとしての役割を果たしていますが、いつかスタンプ数に応じて絵が完成するなどの共同作業に発展させる機会がないだろうかという野望を抱いているところです。

 他にも瀬田中学校図書館単独でSDGsのワークに取り組んだり、朝読書の時間を利用して司書が学期に1回本紹介をするなど、普段は利用が少ない生徒にも親しみをもってもらえるような活動を行っています。特に朝読書時間の活用は先生方からの提案で始まったことですので、瀬田中学校というチームの一員として図書館を活かしてくださっていることが、生徒たちから身近に感じてもらえる大きな理由に違いありません。

 微力ながらアイデアをしぼり出して日々努めていますが、常に生徒たちに寄り添う図書館であるよう、たゆまず取り組んでいきたいと思います。
(文責 世田谷区立瀬田中学校 学校司書 衛藤北斗)



   リブネットによる委託事業は、2015年9月に12校の委託からスタートし、現在はすべての小中学校(小学校61校・中学校29校)に委託の学校司書が配置されました。ただ、小学校は土曜日も開館のため、2名の学校司書が週6日の勤務日を分担しているそうです。巡回担当の方も含め、世田谷区全体では90校の学校に対し、180人以上の学校司書さんが勤務していることになります。今回やり取りをさせていただき、学校司書の働きかたが多様化していることを実感しつつも、利用する児童・生徒・教職員から見れば、そこにどんな人がいるかが問われるのだと改めて思いました。
(附属世田谷中学校司書 村上恭子)


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