今月の学校図書館

こんなことをやっています!

熊本県立菊池農業高等学校

2014-09-08 10:42 | by 村上 |

 今月は、8月3日~5日に熊本県で開催された第30回学校図書館問題研究会全国大会に参加した折に、県立菊池農業高等学校司書 小林美紀子さんに是非に!とお願いして記事を書いていただきました。初の“農業高校図書館”登場です。イマドキの高校生の心をつかむ工夫と、農業高校ならではのアプローチ。まだまだ課題は多いとおっしゃる小林さんですが、菊農生にとって今や学校図書館は必需品になっているに違いありません。(編集部)


■菊池農業高校はこんな学校です

  菊池農業高校は1903(明治36)年に創立され、2013年に創立110周年を迎えました。現在、農業科、園芸科、畜産科学科、食品化学科、生活文化科に、497名の生徒が学んでいます(2014.5.1現在)。生徒は、専門教科の実習を通して、農業、命、食を学び、明日の農業に活かす技術の修得を目指しています。荒川弘さんの『銀の匙』の世界です。菊農は、文部科学省指定「農業経営者育成高等学校」で、寮教育が取り入れられている点は特徴です。全校生徒が一定期間寮生活を送り、命を育む教育、経験を通して21世紀の日本を担う農業人を育成しています。その他、遠方から来ている生徒も寮生活を送っています。
  


  実習地の面積は西日本一広く、水田、温室、果樹園、茶園、畑、飼料用地、食品加工室、トラクター練習場などがあります。農業高校のお得な点は、何と言っても旬の野菜、季節の果物、新鮮な卵、ハム、ベーコンなど味わえる点です。たまに珍しい野菜など目にします。日々の研究の結果です。
   農業高校ならではの部活動に、馬術部、牛部、スポーツドッグ部があります。生徒が牛舎の外でホルスタインのブラッシングをしたり、犬がフリスビーキャッチの練習をしたり、騎手を載せた馬が馬場に向かう風景も、日常の風景です。




■カラフル図書館づくり


  赴任当時の菊農図書館は、年間貸出数が1,853冊、スチール書架が目立つ図書館で、蔵書数は多かったのですが、古い本が多く、入館者も1日20人程度でした。まず「菊農図書館 2010年からの5か年計画」を策定しました。ポイントは「図書館の認知度を上げること」「役に立つ図書館づくり」です。そのために、図書館家具と資料の刷新の二つを柱にしました。貸出カウンターの上部を切り、椅子に座って対面できるカウンターに変え、除籍候補の本を抜き出し空き室に移しました。結局、抜き出した本の除籍に4年、スチール書架の撤去に3年を要しました。




 図書館の印象は、「色」も大きく影響すると思います。古い本が多かった時は、全体に色褪せたグレーという感じでした。日に焼けて退色した本を抜き新刊の色鮮やかな本の背を目の高さに置くだけで、活発な印象になります。さらに目立つように見出しを蛍光の黄色にしました。本体はVHSテープです。使わなくなったテープが大量に見つかり、全部の見出しを作りました。遠くから指示できるよう天井かうカラーのデコパネルで分類を吊っています。「小説は、ピンクの9のところ!」という具合に。


 

■図書館の現状


  図書館が明るくなるにつれ貸出数、入館者数も増えました。とにかく図書館に足を運んでもらわなければ始まらないので、コミックやライトノベルのタイトルを増やし、図書館報での告知を心がけました。
  2014年度1学期の貸出数は2,934冊です。入館者数といえば、農業高校らしい面白い現象がみられます。農業高校のカリキュラムには総合実習や課題研究、専攻学習など専門教科の授業がありますが、農場への移動が必要です。菊農は広いので昼休みは移動の時間にあてられます。曜日によっては、昼休みの図書館が閑散として数えるほどしか生徒がいない日があります。

 3年生には、生徒がテーマを設定する課題研究と、より専門的に学ぶ専攻学習があります。年間を通して図書館を利用できるよう、資料の充実に特に力を入れています。新年度が始まる前には生徒たちの課題研究のテーマが決まっていますので、それを見て足りない分野の資料を探します。とはいえ、農業関係の資料は発刊点数があまり多くなく、しかも単価が高いのが悩みです。図書館の認知度が上がり、ここ2年は農業関係、食品関係資料の購入に力を入れています。購入しやすいのは料理のレシピ本です。フルコースの料理、幼児食、寒天料理、海軍食など細かなリクエストがあるのですが、たいていのレファレンスに応えられるほどレシピ本はたくさん出版されています。料理の月刊誌などを含めると比較的数はそろっています。
 


   今年から、図書館に納品してもらっている書店に、農業、食品、自然科学系の学校巡回の仲介をお願いしています。少ない予算で使える本を購入するには、大型書店に足を運ぶか出版社の学校巡回で実際に本を確認する必要があります。ライトノベルや評判の一般書はどこの書店でも手に入りますが、農業関係の専門書などは確認しようがないので、学校巡回は有効です。

 課題学習で図書館を利用する時間は、毎週決まっています。小学校、中学校で効率的な図書館利用経験のある生徒は少なく、資料を探すときには一緒に探し、コピー資料を作り、パソコン検索のアドバイスをします。資料検索マニュアルを作ったのですが、あまり利用されず、結局1冊ずつ目次をみながら適切な本を見つけるほうが効率が良いことがわかりました。指導する先生に、あらかじめ利用する分野を知らせてもらい、近くの公立図書館から団体貸出で資料を準備することもあります。事前に相談されると探す時間も短縮でき、たくさんの資料を準備できるので、予約の連絡があれば「準備する資料はありませんか?」と聞いています。

■図書館を憩いの場に、そして課題


  司書が発行する図書館報に、「来館者を増やすこと、役に立つ図書館にすることが目標です」という1行を毎号入れています。授業に役立つことはもちろん、憩いの場として利用してもらいたいと思い、ソファやベンチなどリラックスできる家具を雑誌架のそばに配置しました。図書館の外には閲覧室と同じくらいの広さのベランダがありますが、毎日ベランダのベンチで昼食をとる生徒もいます。屋上緑化をしたらすばらしいスペースなのですが、かなりの費用と工事が必要なので、今のところはグリーンカーテンで緑化をしています。農業高校なので準備はすぐできますが、緑が濃くなる夏休みに来館者がほとんどいないことは誤算でした。
 

 菊農図書館は、「役に立つ図書館」のための整備を課題としています。まだいろいろなアプローチが足りません。レファレンス事例の整理、先生方へのアピール、情報リテラシー教育など、課題は山積しています。真に使える図書館をめざし、広い視野に立って図書館づくりを続けていきます。
(文責:学校司書 小林美紀子)

次の記事 前の記事 [ 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 ]