今月の学校図書館
こんなことをやっています!
石川県白山市立北星中学校
2025-04-05 06:44 | by 村上 |
今月は、石川県白山市立北星中学校の学校司書、平田奈美さんに執筆をお願いしました。多くの公立学校が学校司書を非常勤で雇用するなか、白山市は、正規職として学校司書を雇用しています。この恵まれた条件を持続させるために、学校司書が学校の学びにどう貢献できるのかを見せていくことを大切にしていると、以前伺ったことがあります。今回執筆いただき、先生たちとの研修に、当サイトも役立っていることを知り、たいへん嬉しく思っています。(編集部)
先生と共に学校図書館での学びを作るために
石川県白山市立北星中学校 学校司書 平田奈美
1、はじめに
石川県白山市は金沢市の南側に隣接し、人口約11万人のまち。市の名前の通り、「霊峰白山」から、日本海に面した地域までを含む、県内最大の面積を有する市です。2023年には、白山市全域が、ユネスコ世界ジオパークに認定され、市を挙げてジオパーク教育にも取り組んでいます。北星中学校は、校舎から、日本海と白山が見え(特に夕陽が美しいです・・)、約600人の生徒が在籍しています。
2、校内研修に位置付けられた図書館研修
北星中学校に異動・赴任して4年になります。前任の松任中学校に勤務していた頃から、たくさんの先生方と様々な図書館を活用した授業をしてきました。(前任校では全教科で図書館を活用した授業をしていました。)ただ、「なぜ図書館を活用した授業をするのか?」という必要性や「学習指導要領の中の図書館や読書」といった本質の部分を先生方に理解してもらわないと、一時的に楽しい授業ができても、定着・持続しないなとも感じていました。また、図書館を活用した授業に対する固定したイメージ(手間がかかる、アナログ・・など)からの脱却を図り、図書館を活用した授業の具体的な姿・効果を伝えたいとずっと思っていました。
先生方に、「どうやったら図書館を活用した授業ができるか?」という図書館活用アンケートをして、結果を踏まえた夏季研修を司書教諭と実施したこともあります。ただ、単発なので、定着しない・・。公立の学校なので、先生方は毎年、たくさん異動し、積み上がっていかない・・、という悩みを抱えて、私自身も異動することになりました。
司書は、例年、校務分掌では学習進路指導部に所属しています。毎月、部会内と職員会議で、図書館を使った授業の報告をしていますが、赴任初年度の秋に、「来年度の校内研修どうしようか?」という話題になり、“著作権とか図書館の研修をしたいな・・”とつぶやいたら、“じゃあ、来年度やってみたらどう?”と研究主任の先生に言われ、初めて校内研修の位置づけで、図書館に関する校内研修ができることになりました。(校内の初任者研修の中では、毎年、図書館研修を行っていました。)今まで、校内研修ができなかったのは、自分で勝手に「先生方は図書館に興味がないから、校内研修の時間なんて取ってもらえるわけがない」と思いこんでいただけなのかも・・と反省もしました。想いを持ち続けることと、言葉にして伝えていくことが大切だと思いました。そして、次年度(2022年)の5月に校内研修、7月に若プロ(採用10年目までの教員対象校内研修)で実践編を行い、秋には、初任者対象にも研修をしました。その流れで、2023年、2024年と3年間、図書館に関する校内研修を継続して行っています。
3、3年目の校内研修(1回目、2024年5月28日 校内研究の学習会の中で)場所:図書館
1年目、2年目・・司書教諭の先生と話し合い、内容を考え、約45分ずつの校内研修を行ってきました。
著作権の研修だけを考えても、1年目から、かなりの効果がありました。私の顔を見ると、「これは授業で使って大丈夫?」など、著作権について頻繁に尋ねられるようになり、授業事例も紹介したので、図書館を活用した授業の相談も格段に増えました。
3年目の今年度の研修では、構想や準備は2年目の秋から考え始めていて、なんとなく、司書が話してばかりの研修ではなく、授業者の先生方に研修を創ってもらえたらなと思っていました。そんなことを頭の中でぐるぐる考えながら、毎年行っている図書館に関する初任者研修を秋に行い、いつものように、「年度末までに図書館を活用した授業を、ひとり一回、司書と一緒にしてみましょう」と伝え、家庭科・社会科の初任の先生と、初めての図書館を活用した授業を創ってみました。初任の先生と「初めての図書館授業」をしてみて、改めて、図書館での授業の仕方を伝え、知ってもらい、体感してもらうことが大切だと思いました。
例えば、(初任の先生と初めての図書館授業の話をする中で出た話題です。先生は初めてで思いつかないので、司書が経験から伝える必要があります。本番の授業では、一回終わるごとに、やってみてどうだった?次回どうする?こうしたらどうかな?という話をします。)
・授業で先生が立つ位置
・挨拶の仕方
・教室との違い
・授業規律
・資料の扱い方
・後片付け
・時間配分、図書館での授業に何時間使うか
・資料依頼のシステム
・その学習内容に図書館や本は、本当に必要?
・本とGIGA端末を併用する?本だけ?どんな形式で記録?
・レポートはどんな内容に?
・授業の時間数、流れ、どの場面で使うのか、最終ゴールはどんな形にしたい?など・・。
・その授業だけでなく、1年・・3年間のスパンで、どこの場面で図書館を使うか、ということ。
・今回の活用は、本当に必要か?話して、この単元の方がよいのでは?
図書館での授業の仕方は、大学でも、外部研修でも、どこにも学ぶ機会がないので、本当に先生方自身も図書館活用初心者なんだろうなと、毎年感じています。ということは、何年経っても、そういった図書館の研修を受ける機会がなかったら、その他の先生も初任の先生と同じ状況だということになります。
授業を行った先生に話してもらおうと考え続け、若手・ベテラン・超ベテランの方にお願いしようと思い、初任者の社会科の先生、ベテランの主幹教諭・英語科の先生、超ベテランの保健体育科の3人の先生に、取り組まれた授業内容だけでなく、「なぜ図書館を活用した授業をするのか?授業で大切にしていることは何か?」という授業の芯の部分を必ず話してもらうようにお願いしました。
<研修内容>
①研究主任より指導の重点、金沢教育事務所制作の動画視聴「各教科の目標と具体的取組」
→研究主任の先生から、「探究」が大切になる、という話もあり、その流れで図書館の研修につなぎました。
②図書館活用研修
・学校図書館法、学習指導要領・白山市の指導の重点(図書館に関する部分)
・図書館の仕組み・使い方
・各教科の授業実践などの報告(英語、保健体育、社会)
・学校に関わる著作権の話、原口直さんの「著作権ナビ」紹介*視聴予定だったので、原口さんに許諾済
・formsでのアンケート・感想記入 「どんな場面で図書館を活用してみたいか」
<授業の実践報告をされた英語科の先生のコメント> 生徒にとって英語を学ぶことが新しい世界や価値観を知ることにつながればよいと思っています。知らなかった物事の考え方や価値観、新しい文化にふれることができる時間にもなるよう単元デザインを考えるようにしています。その中に、図書館での学びを入れ、司書の方の力を借りることで、生徒の知る範囲がより広がると思っています。図書館での授業を入れると、生徒の取り組み方や英作文の内容が変わってくるので、面白いです。単元の話を読んで終わりではなく、その背景についても考えるようになったり、自分の常識が他でも同じではないとわかり、驚きながらも理解を深めようとしたりとそれぞれが単元の最初より変容していく姿を見ることができます。また自分自身にとっても、司書の方からの提案は本当に視野を広げてくれるものなので学びになります。今後も続けたいです。 |
<研修後の先生方の感想より> ・私は今まで、何のために授業で図書館を使うのかをそこまで深く考えずに使ってきました。ただ単に調べ学習のための材料として本を選んできました。ですが、他教科の先生の、生徒にその単元に興味をもってもらうために使っているという話を聞き、いつか自分もそんな形で図書館を利用したいと思いました。 ・図書館を授業で活用していくことによって、子どもたちが自分の学びたいことに合わせて、本を選び、情報を選びながら学べるというのがいいなと思ったので、活用する機会を見つけて活用したい。さらに自分自身の知識や経験の幅を広げるためにも積極的に図書館に来たい。 ・授業での活用事例を聞いて、図書館で学習することで教室では広げられなかった視点を持つことができ、意図せず得られるものもあるのかなと感じました。 ・授業の中で図書館を活用することで、生徒の興味・関心を高めることになり、自分が教えるだけでは足りないようなことも学べるので、図書館をどこで活用していくか積極的に考えていきたいと感じました。また、著作権についても気をつけながら使えるようにしたいと感じました。 |
4、模擬授業で図書館授業を具体化
3年目の校内研修(2回目、2024年8月28日 若プロ対象者・希望者 約30名)場所:図書館
<研修内容>
①前回の校内研修内容のおさらい(学習指導要領・白山市の重点・著作権)、前回の研修感想の紹介
②前回、保健体育科で授業実践などを報告した先生による図書館を使った授業(レポート作成)の模擬授業、先生方は生徒になったつもりで、2年保健体育のレポート作成のテーマを考え、グループ交流。
*教科部会での実践の継続、積み上げ。調べ学習の指導で、大切にしていること。図書館での授業の仕方。
③数学科での授業実践報告 *個別最適を意識した実践。教室ではない図書館という場としての活用。
<研修後の先生方の感想より~同じテーブル内の他教科の先生同士で、図書館を活用した授業プランについて話し合いました。~> ・本やタブレットなどを使ってレポート作成をする際、調べたことをまとめることがメインになってしまう生徒もいるので、最初に疑問を見つけたり、自分の生活の中での課題を見つけたりするという時間を設けることが大切だと感じました。 ・いろいろな作品のアイデア出しにつまづく生徒が多い。こんなときこそ、図書館利用なのかと思った。2学期以降、活用したい。テーブルのメンバーで美術についても考えてもらい、その活用例もわかりやすく、視点が広がりました。 ・教科書に書かれていることから、さらに踏み込んだ内容を学習できるきっかけになると思いました。他教科とのつながりを意識しながら、古典だと史実に基づいたことにも言及できていいなと思いました。 ・図書館を使って、当時の時代背景を調べたり、他教科とコラボしたりできたら、おもしろいなと思いました。 |
<模擬授業をした保健体育科の先生のコメント> 毎年保健体育の授業では、レポートを書かせています。学習をした内容から自分事としてとらえ、疑問や知りたいことを考えさせ、そのうえでテーマを決めテーマに合った図書を選択し、自分の課題を解決していく形でレポートを完成させています。そのレポートには今後の生活に生かせることをまとめとして書かせることが多いです。参加した先生方が保健体育の授業を受ける側となり、生徒と同じようにテーマ作り、テーマの書き方、図書選び、紙面の使い方を体験することで、授業の構成の仕方を共有できたと思います。保健体育の授業で練習したことを自分の教科に落とし込んで活かしてほしいと思います。教科は違っても、「何でだろう」「どうしていけばいいのか」など疑問に思うことや、「わからなかったことがわかるようになりたい」と思うことは学習の原点だと思うので、課題解決学習の中で、図書を利用した授業を考えていってほしいと思います。 |
④「先生のための授業に役立つ学校図書館データベース」の紹介と、それを参照した上で、授業での図書館活用プランの検討。同じテーブルの他教科の先生たちと交流。
先生対象の図書館模擬授業の様子です。 |
5、社会科の採用2年目の先生の実践
<授業をした社会科の先生のコメント> 「中部地方の産業が50年後も輝くためには、どのようなことが大切か?」を単元を貫く課題として設定し、中部地方の各県の産業について調べ学習を行いました。調べ学習は班で1県を割り振りし、その県の特徴的な産業やその産業が50年後も輝くために大切なことを考察するようにしました。授業の終盤では、調べて分かったこと・50年後も輝くために必要なことを全体発表し、最後は個人で単元を貫く課題に対する答えをレポートにまとめました。図書館の資料は「中部地方の産業」を中心的に調べることができるものを選び、生徒たちは「〇〇県といえば~」「〇〇県って意外と~がすごい!」という視点で調べ学習を進めていました。全体発表では、一つ一つの県の特徴を知り合うことで北陸・東海・中央高地という地域的な共通性や相違点、中部地方全体の共通した課題などに気付くなど、学びの幅が広がったことが感じられました。 実践してみた成果としては、多くの生徒が単元を貫く課題に対する答えを自分なりにまとめることができていたことです。課題は、調べ学習の時間設定が甘く、想定よりも授業時数が多くかかってしまったことにより、意見交流などがあまり盛んに行われないまま発表になってしまったことです。より効果的な学習の動機づけがあると、調べ学習が意欲的に進むのではという意見もあり、その視点で今後、授業改善していきたいです。 |
6、社会科部会でのオンライン学習会(2024年12月26日)
<社会科の先生のコメント> 中部地方の学習は、東京学芸大学の学校図書館データベースで紹介されていた篠塚昭司先生の「チャレンジ!生徒授業」を参考に授業を組み立てました。そこで疑問に思ったことや参考にしてみての感想を篠塚先生にメールで送ったところ、詳しい話をオンラインで学べることになり、冬休みに、学習会を開催しました。テーマは個別最適化学習についてだったのですが、カリキュラムマネジメントやグループ作成の際に気を付けることなど、普段の授業での悩みや疑問についても、学ぶことができました。 参加した先生方は、個別最適化学習に限らず一つ一つの学習活動を明確に言語化し、ねらいをもって授業を組み立てていくことが大切だと話していました。 |
7、北星中学校図書館学びんぐマップ
コロナ禍で研修が減り、一方で、GIGA端末が導入され、図書館も変化していく中、何とか白山市の学校司書全員の研修の機会を確保したくて、東京学芸大学附属世田谷中学校の司書・村上恭子さんに相談し、オンラインでの研修を始めて、3年目になります。世田谷中学校にも伺って、いろいろと学ぶことができました。実物も拝見し、オンライン研修でも話題に挙がった世田谷中学校図書館でしている「学びんぐマップ」に感銘を受け、自校でも4月から始めてみました。図書館を活用した授業を可視化する取組ですが、記入ボードは、図書館前にあり、先生方もよく足を止めて見ていて、他学年・他教科での利用が、一目でわかるので、「じゃあ私も・・」という会話になります。学校に来られた外部の方も、足を止めて見て、「これはわかりやすい!」と好評です。それ以前に、物忘れの激しい自分自身の記憶にもひそかに役立っています・・。毎月、前月の図書館を活用した授業について、職員会議で報告はしていますが、時系列で、教科、学年ごとの活用がわかる一覧表の掲示は、インターネットにはない新聞のような魅力があります。生徒もよく足を止めて見ていて、司書と「こんな授業したね~」と会話しています。
8、おわりに
様々な切り口から校内で取り組んでいますが、なかなか継続が難しいのが、図書館を活用した授業です。毎年、教科部会で利用計画を見直し、管理運営計画で明記しても、「人」に付いている図書館授業も多く、先生が異動したら、この授業はなくなったということも多々あります。「どうしたらいいんだろう・・」と常に思います。そんな中で、少しでも定着するように、先生方が他地域・他校に異動しても、頭の片隅に「図書館を活用した授業もできる」と覚えていて、授業を創るときのアイデアとして、図書館が心の中に浮かぶように、と思いながら、研修をしています。
研修のきっかけは、分掌部会での会話、研究主任の先生の「やってみたら?」という何でもないひとことでした。ひとことですが、とてもうれしかったのを覚えています。日頃から、先生方とよく話し、会話からニーズを感じ、話しやすい関係を作っておくことが、図書館を活用した授業を活発にしていくベースとして、とても大切だと思います。先生方の拠点は教室であり、自分の場所ではない図書館で、それもしたことがないことに挑戦するのは、勇気の要ることだと思います。「一緒にやってみましょう!」と、先生に寄り添って、一緒に図書館の授業を創っていきたいです。また、司書としての専門性・力量を自分に蓄えることも重要だと思います。資料についてはもちろんですが、ブックトークや提案など、話す力・伝える力を身につけていくことが、とても重要だと思っています。最近は若手の採用10年目までの先生が、職場の約半数を占めています。新しい先生方と毎年、出会い、自分自身も「ねばならない」に固執せず、変わっていきながら、働いていきたいと思っています。