授業と学校図書館
授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。
先生のひとこと
共に学び合う空間をつくるために
2011-07-29 08:53 | by 村上 |
町田市立成瀬台中学校 国語科 司書教諭 小寺美和先生
町田市成瀬台中学校にはとても素敵な学校図書館があります。その学校図書館で、学校司書の協力のもと多様な学びを実践し、また司書教諭としても先生方に学校図書館の活用を働きかけている小寺先生にお話を伺いました。
村上(以下M):小寺先生が「学校図書館」に関わるようになったきっかけは何ですか?
小寺(以下K)::初め私は小学校の先生でした。毎日読み聞かせをしたことがきっかけですが、ものづくりも大好きで、子どもたちといろいろなものをつくりました。アサガオの観察日記を書いて、一冊の本にしたり、ボール紙を使った織物でチョッキを作ったり。絨毯をみんなでおりあげたときは、そのうえでお話をしたりしました。あの頃の私は、自分がたくさんのことを知り、その中からチョイスしたものを、子どもたちに広げていく、そういう教師でありたいと思っていました。小学校から中学校に移って、町田市に図書指導員が入った時に初めて一緒に仕事をした司書さんは、どんどん授業に関わってくださる方だったんです。今まで一人で選んでいた資料も、二人で選ぶと幅も広がり、視野も広がる。それは資料に限らず、子どもへの見方も複眼的になる。これがとても新鮮だったのです。
M:先生は国語が専門ですが、国語の教師として図書館を活用してつけたい力は何ですか?
K:国語教師としてというより、一教師としてですが、やはりことばを読みとる力をつけて欲しい。言葉の後ろにある真実をつかみ取ることができるようにと、いろいろな授業のあり方を模索しています。以前は、そのための教材をつくることに力点があったのですが、今は、どうやって学び合う空間を作っていくかに、シフトしています。
M:学び会う空間としても、成瀬台中学校の図書館は素敵ですよね。
K:以前は4階にあった図書館が今は1階のとてもいい位置にあります。この経緯についてお話すると長くなってしまうので省略しますが、広くなり、蔵書も増え、センスのある図書指導員さんのおかげで、本当にいつも生徒で賑わっている図書館となりました。
M:学び会う空間として、小寺先生はどんな授業をされているのでしょうか?
M:たとえば、1年生は「ことわざミニ本」を作って、図書館に展示しています。ことわざを学ぶにしても、たくさんのことわざの中から自分が気になることわざを調べて本にまとめるという作業は、教師から一方的に教えられるよりずっと心に残るのではないでしょうか。宮澤賢治の「オツベルと象」を学んだあとは他の宮澤作品の紹介カードを書いたりもします。3年生の国語では「ウミガメと少年」(野坂昭如)を皆で読みあったあとに、絵本を通して戦争を考えるという総合学習に繋げました。「戦争と平和」をテーマにした絵本を60冊、図書指導員さんと一緒に選定しました。一人で選ぶのではなく、二人で話し合うことで、新たな気づきもありました。公共図書館からも借りてきてもらって、指導員さんにはブックトークをお願いし、その後ひとりひとりが絵本をしっかり読むことで、戦争について考える良い機会になったという手応えを感じました。
M:こんなふうに、使っていただけると、本当に司書としては嬉しいですね。小寺先生は司書教諭でもいらっしゃるので、積極的に先生方に学校図書館の活用をアピールしてくださっていますよね。
K:図書館と授業をつなぐ役目があるかと思い、定期的に本の紹介をしたり、司書さんが英語の授業でしてくださったブックトークの様子を、教員向けの広報で伝えています。最近は職員室で本の話題がたくさん上がるようになりましたね。
教員向け広報紙 Wind from the library 12号.pdf
M:そのように教員集団に働きかけてくださるのは、学校司書の立場からはとてもありがたいことだと感じます。学校司書の多くが、職員室に席がなく、会議にも出ない、勤務時間も短いという環境の中で、なかなか先生に働きかけづらいのが現状ですから。
K:先生たちも実際に教科で使ってみる、あるいは複数の先生と一緒に子どもたちと総合学習に取組んでみることを薦めています。自分ひとりでやるより、司書さんや同僚の先生と一緒にやるとずっと面白い。なにより、子どもたちの目が輝いていき、子どもへの見方が変わります。
M:先生って、どうしても一人で教えることが多いので、もしかしたら誰かと一緒に教える経験が意外とすくないのかもしれませんね。でも、やってみたら楽しいと思ってもらえるなら、私たちも積極的に働きかけていいのかもしれませんね。
K:以前、若い先生に、「総合でどうして図書館を使わなければいけないんですか?」と聞かれたことがあります。その先生は、一冊の本をじっくり読んで、それをまとめて発表すればいいと思っていたようです。でも、子どもたちと一緒に活動していくうちに、図書館を使うことで学び合う面白さに気づいてもらえたような気がします。
M:一冊の本をじっくり読むことはもちろん大切です。でもその一冊にとどまらず、その一冊から広がる世界を知ってほしい、そのためにこそ総合で学校図書館を活用してほしいですね。
K:総合的な学習は一週間に2時間、火曜日は1年、木曜日は2年、金曜日は3年というようにしていますが、私はできるだけ図書館の使える日に総合をしたいので、他の先生に融通を利かせてもらい、時間割りを変更したりしています。これがけっこう大変なんです。
M:町田の場合は、学校司書さんが毎日始業から終業までいるわけではないですからね。
K:そうなんです。やはり、いつでも図書館が開いていて、そこに専任の司書がいるという環境は不可欠だと思うのですが、なかなかそこに至らない。忸怩たる思いはありますが…。
M:小寺先生のその思いが、町田の教員共通の思いに広がっていかないいちばんのネックはなんでしょう?
K:本当の意味で、学校図書館が学びに役立つという実感を持てる先生がまだまだ少ないからではないでしょうか。図書館を外から眺めるだけでは、やはり本の魅力は伝わりません。授業で使わなければ、本を開き目次を見て、本文を読んでみる・・・というところまでいきませんし、発見もありません。それと、具体的な図書館での授業のイメージが持てない先生が多いのだと思います。
図書館を使うには、図書資料を使って学ぶための新たな授業準備が必要になります。連れて行って好きにどうぞというわけには行きませんし、準備する時間や子どもたちへの実際の対応などを考えると、エネルギーのいることです。最初の一歩を踏みだすための司書の存在は大きいと思います。
図書館を使うには、図書資料を使って学ぶための新たな授業準備が必要になります。連れて行って好きにどうぞというわけには行きませんし、準備する時間や子どもたちへの実際の対応などを考えると、エネルギーのいることです。最初の一歩を踏みだすための司書の存在は大きいと思います。
M:そう言っていただけると、何をどこまでしたらいいか迷っている現場の司書も一歩を踏み出す勇気がもらえます。最後に、まだ図書館の良さを知らない先生に向けて一言をお願いしたいのですが。
K:図書館に足を運んで、いろいろな本に出会う機会を多くして欲しいと思います。そうして、子どもたちの声をキャッチしながら、アンテナを高くして、子どもの好奇心をくすぐる種を探せるといいと思います。図書館での何気ないおしゃべりが、授業のヒントになることってたくさんあります。自分自身の「授業」そのものへの発想の転換もまた大切になってくるのかもしれません。
お話をして、私自身も自分の実践を振り返ることができ、とてもよい機会になりました。ありがとうございました。
お話をして、私自身も自分の実践を振り返ることができ、とてもよい機会になりました。ありがとうございました。
M;私たち司書は、学校図書館を、生徒だけでなく、先生の好奇心も刺激するような場にしていくことが大切ですね。今回はインタビューのみでしたが、ぜひデータベース事例にもご協力いただければと思っています。本日はどうもありがとうございました。
(「図書館の見取り図」は、成瀬台中学校HPから引用させていただきました。 インタビュー・記録 村上 2011.7.30)