授業と学校図書館
授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。
先生のひとこと
大学の司書教諭科目における活用例
2012-09-09 00:45 | by 中山(主担) |
大妻女子大・駒沢女子大学非常勤講師 野口久美子
筆者は,駒沢女子大学人文学部で司書教諭科目「学校経営と学校図書館」を担当している。学生には,毎年,授業を始める前に小学校,中学校,高校時代に学校図書館を使った授業や調べ学習の経験を聞いている。しかし,毎度返ってくるのは,そういった授業を受けたことはない,あるいはあっても具体的な記憶がほとんどないという声であった。そのような中で,いくら詳細に学校図書館の活用を説明したとしても具体的なイメージは沸きにくい。ましてや,教員として自ら学校図書館を使った授業をすることはとても想定できない状況にあった。
そこで,2011年度から「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」(以下,学校図書館活用データベースとする)に収録されている授業事例を教材として使うことにした。方法は,受講生それぞれの専門教科(中学校・高校の国語科,外国語科等)の授業事例を一つ取り上げ,授業内容や学校図書館からの支援内容,授業者や司書のコメントから気づいたこと,面白いと思ったことなどをまとめて報告するという形式を取った。
2012年度の受講者は4名で,取得予定免許は全員国語科(中学・高校)であった。事例調べを事前課題としたところ,以下の二つの事例に集中した。これらはフィールドワークや創作といった学習活動を伴うものであり,そういった点に学生は興味を惹かれたのだろう。
① 中学校国語「詩の創作を楽しもう」(東京学芸大学附属世田谷中学校)
授業終了後の学生の感想を見ると,学校図書館を活用した授業にいくつかのポイントを見出したようである。3つに分けて紹介する。
l 学校図書館では幅広い教材を用意できること。必要に応じて,資料やブックリストの提供を受けられること。例えば,①を選択した学生は「用意される本が,詩画集だけでなく,書の本,色鉛筆の本などもあることで,絵の不得手な人でもイメージを作りやすい」と述べている。
l 学校図書館という場の可能性。例えば,①を選択した学生は「図書館で本を読む,調べるために利用するのではなく,創作する場として利用したこと(中略)にとても興味を持った」と述べている。②を選択した学生は図書館で行う授業のメリットとして「(図書館の資料を通して)世界(中で起こっていること)や過去にも遡れ,イマジネーションが広がる」「図書館の狭さがイマジネーションを引き出してくれる」ことを挙げている(括弧内は筆者補足)。
l 学校図書館だからこそ引き出せる力があること。①を選択した学生は「この課題では自分で情報を集め,何かを作り出す能力が身に付くと思います」「図書館の資料を利用することで具体的かつ個性的な作品が出来上がったことに興味を持った」と述べている。
学校図書館活用データベースでは,学生に馴染みのある指導案に近い形で授業事例が提示されている。授業者と司書・司書教諭双方のコメントが示されており,学校図書館活用のイメージを持ちやすかったようである。学校図書館からの支援があれば,自分たちの授業の幅が広がることに気づいたことも収穫であった。そのような発想を教育実習に行く前に持っておくことは重要である。
なにより国語科教員を目指す彼女らにとって,普通教室で行う座学形式以外の授業を国語科で実施できるということが新たな発見であった。通常,教職の授業で座学以外の授業形態を考え,実践することは必ずしも多くはないだろう。彼女らも国語科の授業とはそういうものだと思っている節がある。学校図書館活用データベースの事例は,教室以外の場での授業も可能であり,なおかつ学校図書館で行う授業には多くの可能性があることに気づかせてくれた。図書館は創作の場としても向いていること,学校図書館の適度な狭さがかえってイマジネーションを引き出すことなど,学校図書館の秘めている力を学生自ら見出したことに,筆者も思わず唸らされた。
学校図書館活用データベースは2009年に活動を開始して以来,着実に授業事例を蓄積している。ただし,教科によって偏りがあることも否めない。例えば,2011年度は,受講生の中に外国語の免許取得を目指す学生がいた。その際も同様に授業事例を調べる課題を課したが,当時,外国語の授業事例は2件しか登録されていなかった。当然のことながら,事例は沢山あればあるほど良い。国語科以外の教科の授業事例も意識的に収集することが望まれる。また,大学の司書教諭課程,教職課程,司書課程における学校図書館活用データベースを使った授業事例も今後,サイトを通して共有できれば幸いである。