授業と学校図書館
授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。
先生のひとこと
図書館力はホントにすごい!
2011-02-09 21:23 | by 村上 |
目的は以下の2点です。
1考える手順を習得する
2.伝える力を習得する(パワーポイントの作成・発表)
授業計画は
探究型学習とは 1時間
情報とは(含むインターネット) 2時間
探究型学習の進め方 8時間
レジュメ作成 1時間
パワーポイント作成 3時間
発表 2時間
評価 1時間
探究型学習の取組は以前からも行ってはいましたが、昨年ビック6スキルズという考え方に出会い、その時紹介された『中学生・高校生のための探究型スキルワーク』(桑田てるみ他著 チヨダクレス株式会社発行)は思考を目に見える形で確認するために使えると感じました。今まで、授業の中で「考えなさい」と子どもたちに言ってきたけれど、ではどうやって考えたらいいかのノウハウを充分に伝えていなかったのではという反省にたち、考える手順を明らかにし、テーマをどうやって決めていくか、というところと、自分たちの課題をどのようにまとめて、発表するかという最初と最後のところを重点的に指導することにしたのです。
家庭科ですから、大きなテーマは 「食べる・育つ・住む・着る」の4つです。各グループで、このどれかのテーマを選び、その基礎知識をマンダラートに書き込みます。さらに一つに絞り、それをもう一度マンダラートを使って深め、必要な資料をどんどん集め、情報カードに書いていきます。そのうえで自由な発想をマッピングして、整理し自分たち独自の切り口を見つけるというのが、テーマ決めまでの流れです。(この欄下の、参考資料をご覧ください。)
ところが、です。これまでは担任として1年生から学年に密に関わるなかで家庭科や総合の授業のなかで探究型学習を行ってきました。それが今年は学年付きとして、いきなり初めての2年生に家庭科を教えることになったことで大きな誤算が生じました。私との関係が充分に築かれていないため、要求した課題に対する真剣度が足りないのはもちろん、1年生の時に意図的に図書館を活用してこなかったため、生徒はマンダラートやマッピングで何を求められているのかわからない。図書館の使い方、司書への質問のしかたも身についていなかったのです。探究型学習の前半は、授業終了後毎回司書とため息をついていました。
以下が 各グループのテーマ一覧です。
2010 J2 情報
A組 1班 民族衣装の模様
2班 1日の中で朝食が及ぼす影響
3班 発展していくことは本当によいことか
4班 日本のホスピス医療とアメリカンのホスピス医療の比較
5班 紙おむつと布おむつの比較
6班 フアースとフードの新メニューから考える時代の流れ
7班 火災の要因
8班 木は燃えやすい?
B組 1班 学校の制服事情~in the waorld~
2班 日米ファッションの比較~
3班 こ食の今、昔
4班 スポーツ選手は本当にたくさん食べるのか
5班 テレビは悪者か!?~昔と今の比較~
6班 仕切りが生みだす人間の心理
7班 親子が似る要素
8班 遊びが変わる 子供が変わる~昔と今の遊びを比較して
C組 1班 流行は生まれる?つくられる?
2班 ユニクロ現象が世界に広がるわけ
3班 三大食事作法からわかること
4班 マックがなければ生きていけない?
5班 床材が生む人間関係の違い
6班 長屋と町屋の構造の違いで生まれた人間関係
7班 日本の子どもはなぜ寝ない?
8班 コラーゲンはなぜ人気なのか?
D組 1班 戦争と服の関連について
2班 マクドナルドはなぜロッテリアより人気?
3班 同じ経度における家屋の比較
4班 遺伝子組み換え食品は私たちの味方か?
5班 下着は着るもの?
6班 チョコレートは本当に特別か?
7班 住みやすさの比較~6大陸を比べて~
8班 義務教育の年数からわかること
筋道を考えさせる
現在の自分の位置を確認する
思考・作業を整理する
妥協をしない
司書につなげる
ということでした。
テーマが決まったグループは、必要な情報を集め、その情報を分析し、まとめる作業に入っていきます。自分たちのテーマにあった1冊の本を要約するような発表は不可です。生徒にはよく「この本に書いてあることをまとめただけだったら、あなたたちの拙い文章を読むより、この本を読んだ方がいいに決まっているでしょ。」と言います。そうではなくて、複数の資料をもとに、自分たちのテーマの論点を理論づけしていくことができるよう、まとめかたの部分は丁寧に指導をします。生徒の発表内容には下記の6点を求めています。
まとめよう
1.テーマを選んだ理由
2.テーマの説明(背景)
3.立場の主張(なぜなら、それに、また、さらに)
4.反論に対する主張(しかし)
5.結論
6.参考文献
資料として特に役立つのが、豊富なデータが載っている白書類です。官公庁のデータはインターネットでも調べられるので、こちらもよく利用しています。探究型学習に資料の充実は欠かせませんが、この授業全体に司書の方々にはいろいろなところでバックアップをしていただいています。
具体的には
授業分担…情報メディアとしての図書の特性についての説明
授業支援…NDCマップを使っての分類への意識付け
資料紹介
をお願いしました。
課題のために休み時間・放課後にも情報センターに資料相談に訪れる生徒がたくさんいますが、その時に教員の意図を察し、適切な対応をとってくれる司書の存在が大きいことは言うまでもありません。
このような探究型学習で身についた力は
・図書館を利用する力(場・資料)
・司書の先生に聞く
・論文のテーマを絞れる
・論文を組み立てる
・資料を使う
・論文をまとめる
これらの力は、これから求められる普遍的な力ともいえます。特に本校では、中学3年生で修了論文、高校生になると小論文を書き、グループ研究を行うため、中学校でこのような力をつけることの必要性を多くの先生が感じています。以前担任した学年が、大学進学を迎えた時に、実は例年以上の進学実績を出すことができました。その理由は、面接で彼女たちが自分の言葉で自分の思いをきちんと伝えることができたことと、論理的思考が一般受験に役立ったと知りました。
考える力を身につけた生徒は、自分の言葉を語れる人になる。そういう人に育ってもらうためにも、この探究型学習をさらによりよいものにしていきたいと思っています。ぜひ司書のみなさんのご意見も聞かせてください。
参加者からの質問コーナー
Q このような探究型学習は、家庭科だけでなく、どの教科でもできることだと思われますか?
A 教科の制約もあり、すべての教科できるとは思いません。本校の場合は、情報の授業を私が担当することになったこと、私自身が図書館が使えることを知っていたことで実現しやすかったというのはあります。ただ、こういう力が必要だということは、どの先生も否定はしないと思いますね。
Q. 探究型学習は、教師の予想を超えたテーマ(専門外の事柄)を生徒が調べて発表するため、教師の負担が大きいと聞きます。調べた内容の真偽などについて、先生はどのぐらい時間をかけておられるのでしょうか?
A. 生徒が使おうとしているデータが信頼性の高いものであるか、取り上げた説がひとつの情報だけによるものではないか?といったことをチェックすることで、少なくともそう大きく誤ることはないだろうと考えています。ですから、彼女たちの調べた内容を個別にチェックするということはしていません。
Q いきなり2年生に「探究型学習」はハードルが高かったと感じようですが、今後どのような対応を考えていらっしゃいますか?
A 図書館力をつけるには、学校全体でいつどんな教科でどのような活動ができるかを考えていく必要があると感じています。探究型の前段階としての「調べ学習」を1年生の時期に実施できたらと思いました。ただ、かなり詰め込んだ今回の学習でしたが、先日発表したグループが、「もっと調べたかった」と悔しそうにつぶやくのを聞いた時は、グッときましたね。司書さんはウルウルしてましたしね(笑)。
以上玉川聖学院の澤田先生の探究型学習の一端を紹介させていただきました。尚、DBには玉川聖学院で澤田先生と学年を組み、この探究型学習に刺激を受けた社会科教諭安積先生の実践事例を掲載させていただく予定です。
(文責 東京学芸大学附属世田谷中学校 村上)