授業と学校図書館

授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。

先生のひとこと

♪ひとりじゃないって素敵なことね~♪

2009-11-29 07:54 | by 村上 |

先生の実践から その2 「オペレッタ じごくのそうべえ」(小3・音楽)
                                
                              前東京学芸大学附属小金井小学校
                              現東京学芸大学附属世田谷小学校 
音楽科 齊藤豊先生
 
Q.齊藤先生がこのデータベースにもある「じごくのそうべえオペレッタ」の実践を思いつかれたきっかけはなんだったのですか?

A.それはこの本「オペレッタじごくのそうべえ」に出会ったからにつきます。でも、このオペレッタは、楽しい地獄を描いています。ぼくは、子どもたちに怖い地獄も知って欲しかった。そこで、当時勤務していた附属小金井小学校の学校司書中山さんに相談したのです。
 
 
Q.子どもたちの中の地獄のイメージを膨らませてほしいという最初のねらいは見事に実現されたわけですね。

A.子どもたちは、先に図書の時間に地獄の本のブックトークを聞いていたのですが、そのことと音楽室での授業がつながったことがとても新鮮だったようです。音楽室には中山さんが集めてくれた地獄の本やそうべえかるたを置くコーナーを作りました。位置的に対角線上にある、音楽室と図書館が地獄というキーワードで結ばれたことによって、子どもたちの生活全体にまで影響を及ぼしました。表現活動をするうえで、それはとても意味があったと思いますね。
 
 
Q.オペレッタ「じごくのそうべえ」は場面を分けグループごとに役を決め、各場面をつないでいく手法をとったそうですが、劇をつくっていくうえでどんなことに工夫をされたのでしょうか?

A.体や感覚をほぐすために、伝染ゲーム・ハイパー進化じゃんけん・手の中のこびと・ストップ・ジェスチャーなどをしたのですが、その他に、なりきりプロフィール紹介というのをしました。物語からわかることのみならず、その役の年齢、身長、体重、好きなものや趣味、職業や得意なこと、そして秘密の過去などを創作して用紙に書き込み掲示しました。これを皆の前でその役になりきったつもりで自己紹介したのです。同じ役柄を数人で演じるため、ばらばらになりがちな役のイメージが、この自己紹介によって共有することができたこと、また仲間のなりきりぶりに刺激を受け、自分の表現を工夫する姿も見られるようになったことは大きな収穫でした。自分たちがやりたくてやっているという思いを持って、表現活動に取組んでほしいのです。
 
 
Q齊藤先生は表現活動をするうえで大切なものは“感じ取る力”だとお書きになっています。この実践は、まさに子どもたちが感じ取る力を全開にして、大いに楽しみながら取組んだように感じました。学校図書館が果たした役割もやはり大きかったのでしょうか?

A.“感じ取る力”を育むということでは、低学年の時にたくさんの絵本に親しむことは、とても大切だと感じています。ぼく自身も絵本は大好きです。我が子と書店や公共図書館に行くとつい絵本の棚に目がいきます。絵本に限らず、図書館という場は子どもたちにいろいろな世界と出会わせてくれるのが魅力です。実は音楽も、様々なジャンルや楽器があり、とても奥が深いものです。広い世界から、君が好きなものに出会ってほしいという点は本の世界の道案内の司書さんとスタンスは似ているかもしれません。それと、ぼくが絵本好きといっても、それほどたくさんの絵本を知っているわけではありません。学校図書館は、まず選択眼を持つ司書さんが、たくさんの絵本のなかから蔵書にふさわしいものを選んでくれているわけです。そのうえで、「こんなことをしたいのだけれど?」とちょっと通りすがりに相談すると、ぼくの意図するイメージを的確に汲み取って本をセレクトしてくれる・・・専門性を持った学校司書がいるってこういうことなのですね。
 
 
Qいろいろな場面で低学年の子どもたちの発想の豊かさには驚かされますが、新たな知識がその豊かさをかえって阻害するということもあるのではありませんか?

A.多くの言葉や知識を持たない時期のほうが豊かな感受性を持っているということは確かにあるかもしれません。でも、教師がその矛盾を知りつつ、教える立場にいることを自覚することは必要です。ただ、絵本というのは子どもたちが言葉や知識を獲得していく過程で、その背後にある豊かな感性も一緒に感じ取れるものなのではないでしょうか?今回子どもたちの感想のなかに、「地獄は怖いけれど、知ることができて良かった」というものがありましたが、うすっぺらな知識としてではなく、ある手応えを持った知識として地獄というイメージが子どもたちの心のなかにストンと入ったのだと思いますね。
 

Q.先生は、低学年を担任することが多いそうですが、子どもたちにどんな力を育てたいと考えていらっしゃいますか?

A.低学年の子どもたちには、自分のしたいことを実現するために必要な人をキャッチする能力を育てたいと思っているんです。誰に何を求めたら必要なものを手に入れることができるか、それが考えられる子になって欲しいと思います。司書の先生も、子どもたちにはそういう意味で、必要な情報を伝えてくれる大切な存在です。ぼくは最近“つなぐ”存在としての教師という部分に注目しています。自分の中にある知識を教える存在だけではなく、人と人、あるいは人とモノをつなぐ存在としての教師というのもあっていいのではと。そういう部分では教師も司書も似ている存在ですね。
 
 
Q.では最後に、学校図書館をあまり利用したことのない先生に何かひとことお願いします。

A.「♪ひとりじゃないって~♪ 素敵なことね~♪」です。目の前の子どもたちの成長を一緒に喜んでくれる人がいるって、とっても嬉しいことじゃないですか。まして、授業にいろいろな形で関わってもらえるわけですから。授業の途中経過を聞いてもらえる楽しさもあります。子どもたちは、いろいろな人と関わるなかで成長していくのだから先生もひとりで抱え込まないで、子どもたちを一緒に育てていく視点を持ったほうがいいと思います。

ありがとうございました。

                                          (記録2009年11月29日)


 
 
 

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