授業と学校図書館

授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。

先生のひとこと

エルマーすごろくをつくろう!

2009-10-29 16:10 | by 入力者 |

先生の実践から その1 「エルマーすごろくをつくろう!」(小1・総合学習)

東京学芸大学附属世田谷小学校 松本大介先生

Q.松本先生は、昨年1年生を担任していたときに、「エルマーすごろくをつくろう」という授業に取組みました。この実践のきっかけは何だったのでしょうか?

A.すごろくをつくるという取組は、ストーリー性や順序性、空間認識など、中学年以降の社会科学習に必要な要素が入っています。担任したクラスの子どもたちは工作が好きということもあり、できれば学校の中や駒沢公園、学校周りなどを探検してすごろくを作ってみたいと考えていました。しかし、それだとあまり1組の子どもの活動の流れに沿っていないような気もしていました。一方で、11月半ばから『エルマーのぼうけん』の読み聞かせをしていて、子どもたちは物語の世界をとても楽しんでいました。そのことを知っていた司書の吉岡先生が、偶然都内の書店でエルマーのぼうけんすごろくを見つけてくれました。さっそく購入して、子どもたちと本を読んだあとですごろくで遊ぶうちに、物語の世界をすごろくにするのも面白いなと思うようになったのです。

Q.「すごろくを作ろう!」という言葉は子どもたちから出てきたと伺っています。子どもたちの中からそのような言葉が出てくるために先生が密かにしていたしかけはあるんですか?

A.山のようなしかけをしました(笑)。エルマーの本を読みながら、エルマーすごろくをして遊ぶ。エルマーは全部で3巻あるのですが、本を読んでは、エルマーのぼうけんすごろく、エルマーとりゅうすごろくで遊ぶことを繰り返しました。ちょうどお正月明けだったので、すごろくを楽しむにはいい時期でもありました。『じごくのそうべえ』をはじめ他の物語のすごろくも、子どもたちは楽しんでいました。そして3巻目の『エルマーと16ぴきのりゅう』が読み終わったときに、当然このすごろくもあると思っていた子どもたちに、3巻目のすごろくはないと伝えると、がっかりしたけれど、すぐに「じゃあつくろうよ」という声があがったのです。すごろくの楽しさ、『エルマーと16ぴきのりゅう』の物語の楽しさを充分味わってきた子どもたちは、すぐにこの作業に没頭していけたのです。

授業のようす(その1)

Q.一人ひとりが自分のすごろくをつくったわけですが、その途中の話し合いがとても面白かったそうですね。

A.すごろくをつくるという意識がない時期に、実は毎回本を読んでもらったあとで、心に残ったエピソードをメモ書きさせていました。最初は何を書いたらいいか戸惑っていた子どもたちに、「読書ノートで毎回書いているようなことでいいんだよ」と伝えると、すんなり書けるようになりました。そして、いざすごろくを作る段階ではこのメモがとても役にたったのです。まず最初にそのメモを見ながら子どもたちにはミニサンプルの設計図を書いてもらったのです。すごろくはマスが大事だよと伝えて、書いてもらったのですが、正直この段階ではマスの内容が深まっていませんでした。もちろん工夫した設計図を書いている子もいました。そこで、アイディア交流をしようということになったのです。お友達のいいところをどんどん真似しようと。真似されるということは、君のアイディアがそれだけ素敵だからだよと伝えました。この交流が結果的にはとても良かったのです。たとえばエルマーがスポットライトに追いかけられるシーンを、海に逃げてルートからはずれたので戻るととらえた子もいれば、追いかけられたことでスピードアップしたから先に進むとした子もいました。また、物語にはないけれど、寂しくなってお母さんに会いたくなり振り出しにもどるという設定に、子どもたちはなんとなく納得してしまうのがいかにも1年生です。同じ話を聞いても、多用な解釈があり得ることを学べたのはとても良かったと感じました。

授業のようす(その2)

子どもたちの作品

子どもたちの作品(その1) 子どもたちの作品(その2)

Q.この実践の中で松本先生は、子どもたちにどんな経験をさせてあげたいと考えていたのでしょうか?

A.すごろくを作るということは、お話を再構成する力が求められます。好きな場面や、心に残った場面を再現するためには、子どもたちはどうしてももう一度本を読み返す必要が出てきます。聞きっぱなし、読みっぱなしではなく、もう一度読むという経験をして欲しかったというのもあります。また、すごろくはストーリーをそのままなぞるのではなく、一人ひとりが想像力を働かせてつくらなければなりません。作品としてのすごろくの出来ばえよりも、つくる過程で得ることができた経験に意義があったと思っています。

Q.子どもたちがすごろくをつくるうえで、メディアセンターや司書の吉岡先生の存在はどのような意味があったと考えますか?

A.今回の実践をするうえで、司書の吉岡先生に直接何かしてもらったということはありませんでした。しかし、たとえば毎回図書の時間に書いている読書ノートが、子どもたちに書く力をつけていたこと、メディアルームで出会うたくさんの絵本や物語が、本って楽しいよね…という思いを育ててくれていたことを、あらためて感じました。子どもたちの学びの土台となっている、この土台が教員の実践を支えているのだと言えます。

Q.本の持つ力や、学校図書館が持つ力に気づいていない先生に伝えるとしたらどんな言葉ですか?

A.私自身も、この実践を通して気づいたわけで、なかなかひとことで言い表すのは難しいです。だからこそ、自分の実践を伝えることで、他の先生方にも、その良さに気づいて欲しいと思っています。いろいろな機会をとらえて教師として発信していきたいですね。

ありがとうございました。
(記録 2009.10.27)


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