授業と学校図書館

授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。

先生のひとこと

「チャレンジ!生徒授業」

2024-03-30 12:00 | by 村上 |

 本校の社会科教諭である篠塚昭司先生は、長く公立学校で教えられた後、附属世田谷中学校に異動され、2024年3月に退職をされました。単元の中で、図書館もよく活用してくださっていましたが、ここ数年毎年行なっていたのは「チャレンジ!生徒授業」、依頼時や、授業時間、また発表を見た後、そしてその後でもじっくりではないにしろ、授業内容や生徒の様子についておしゃべりを良くしました。実践事例はアップしてありますが、それだけでは伝わらない部分を、せひ「授業と学校図書館」に載せたいと思い、今回記事にしました。

 

「チャレンジ!生徒授業Ⅱ」

 中2の社会科を教えている篠塚先生からは、1学期に「今年も生徒授業をするので、よろしくお願いします」と声をかけられました。授業は2学期の終わり頃で、中部地方についてということだけ伺いました。この学年は、中1の同時期にも「チャレンジ!生徒授業Ⅰ」を行なっていて、その時のテーマは「ヨーロッパはなぜ一つになろうとしているのか」というものでした。いつも早めに指導案を持って図書館に来てくださるので、司書としては余裕を持って資料を集めることができました。

 

【まずは「中部地方○○SOS」】

チャレンジ生徒授業というのは、4~5人グループで20分の授業を実際に行うものです。グループ学習が成立するには、メンバー全員が主体的に関われることが重要です。そこで生徒授業の前にこんな課題が! 「中部地方○○SOS

「あなたの生徒授業班は、○○県の調査をするために山登りをしていました。ところがひどい嵐がやってきて遭難してしまったのです。必死で歩きますが」という設定で、疲労が激しく手元に残っていた15種類の物から5品しか持っていけない。どれを持っていくか必要な順に番号をつけてもらうのです。そしてお互い、自分がなぜこの順に選んだかを伝えることで、4人のメンバーでも考え方に相違があることに気づかされます。だからこそ、生徒授業も4人がそれぞれベストな案を持ち寄って、それをもとによりよい授業案をつくってほしいという先生の思いはきっと生徒にも伝わっていることでしょう。グループ学習を行う時は、その単元にあわせて、このような課題を考え、生徒に取り組んでもらっているそうです。

 

生徒授業は全体では11時間を予定しています。 チャレンジ!生徒授業Ⅱpdf

【生徒授業の流れ】

⓵中部地方は魅力度ランキングでは、最も高いのが石川県の9位、低いのは福井県の38位。そこで、単元の導入では「なぜ、中部地方各県の魅力度ランキングはあまり高くないのだろうか。中部地方の魅力を伝えよう。」という単元の学習課題を設定。

⓶4~5人のグループを、7つ作る。

③授業をする場所を決める。

⓸調査する。

⑤特色を見つけ、担当県の特徴を表す学習課題を作る。

⑥学習指導案をつくる

⑦グループ会議で学習指導案を完成させる。

⑧生徒授業をする(1時間の授業内で、2グループ)

⑨中部地方における一般的共通性と地域的特殊性を見出し、学習課題の答えを考えていく。

 

【図書館での調査】

 図書館で準備した中部地方関係の書籍は67冊。自校の蔵書に加えて、今回は附属竹早中学校からかなりの数を借りました。また、地域の公共図書館からも、複本であったほうがいい資料(例えば帝国書院やポプラ社などの授業に準拠した日本地理の本)を団体貸出制度を利用して、準備しました。資料はいつも分類順に並べて見出しを入れています。

 中部地方ブックリスト

 初日は情報源は「本」のみ。各班の班長が順に資料の中から3冊ずつ選び、2巡目は副班長がさらに3冊本を選びます。これだと、全体を見て何が必要かを考えて資料を手に取るし、元々調べる県が違っているので、そこまで最後の班が不公平ということもないので、こういう選び方はいいなと思いました。2日目は、インターネット上の情報も使用可とします。

 使えそうなサイトはあらかじめteams上からリンクを貼って司書から生徒に伝えました。(附属竹早中学校の司書さんが、「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」に、デジタル資料のパスファインダーをアップしてくれていたので、参考にさせて貰えてお大助かり!)もちろん、それ以外も自由に使うであろうことを想定し、気をつけるべきことは常に伝え、館内にも掲示してあります。写真左「いた人は誰か? がう情報とくらべたか? とネタは何か? んのために書かれたのか? つの情報か?」頭文字をつなげ、かちもないサイトに引っかかるなと覚えてほしいと。(出典『探究に役立つ!学校司書と学ぶ論文・レポート作成ガイド』(東京都立高等学校司書会ラーニングスキルガイドプロジェクトチーム編 ぺりかん社 2019

 

 授業はグループで行うのですが、調査はあくまで個人作業。担当する県の⓵自然環境・環境問題、⓶人口や都市・村落、③産業、⓸交通・通信、⑤生活、文化、歴史を、「地域の特色をとらえる視点」を意識しながら調べ、ワークシートにまとめます。そのうえで、一人ひとりがみんなに伝えたい○○県の特色を考え、学習指導案を作ります。指導案は、1年時に、初めて生徒授業をやった時に、すでに作り方を学んでいるので、今回はそれが参考資料としても配布されていました。指導案の完成は、冬休みの課題となり、休み明けは、グループ会議をします。お互いに作ってきた指導案から最も良いものを選び、さらに他のメンバーの指導案の良い点も取り入れ、学習指導案を完成させます。
 生徒のワークシート例(個人で調べたこと→個人の指導案→グループの指導案)

【生徒授業本番!】

 いよいよ発表です。一人一台の端末時代になり、どの教室にも大型ディスプレイがあるので、生徒はパワーポイントを上手に使って授業を進めていきます。導入にクイズをいれて生徒の興味関心を引き出そうとするグループもあります。グループでの話し合い、質問に対し挙手が上がらないときの対処のしかた、地図帳の使い方、ワークシートに書き込んでもらうときの机間巡視など、日頃篠塚先生がどのように授業を進めているかを考えながら、自分たちの授業を作っています。

 

 私が見学させてもらったのは、6つのグループでしたが、課題の出し方もよく練られていて、生徒の考えが深まる授業ができたグループもあれば、そこまでは及ばなかったグループもありました。けれどもお互いの授業を見合うことで、学んだことも多かったのではないでしょうか。授業の最後には、篠塚先生がそれぞれの授業の講評をします。そして、この生徒授業全体が終わった後は、なぜこのような生徒授業を行なっているかについても、きちんと伝えていました。

写真左上 地図帳で場所を確認   写真右 生徒が作ったワークシート

【生徒の振り返り】

 自分たちで20分の授業をすると言うのは、中学生にとっては簡単なことではありません。でもそこには多くの学びがあったことが、生徒の感想から伺えます。一部ですが、紹介します。

 生徒の授業振り返り感想

【篠塚先生へのインタビュー】

Q 先生が”生徒授業”をやってみようと思ったきっかけはあったのですか?

A   教員になって15年目ぐらいに、附属竹早中学校で生徒が授業をしているのを見たのです。ずっと、教師主導の「課題解決型」ではなくて、生徒が自分で問題を作り解決する授業ができないだろうかと考えていたので、これなら公立中学校でもできるかもしれない…と思いました。それがきっかけですね。

Q  当時勤務されていた中学校で取り組んでみていかがでしたか?

A  手応えを感じました。公立学校では、授業外の時間に1グループずつ呼んでアドバイスをしていましたが、どの学校でも、生徒は一所懸命取り組んでくれました。自分たちが担当することになった地域について調べるだけでなく、扱うテーマを疑問形にすることで、問題を発見する力がつきます。それから、単に調べて発表をするのとは違って、聞き手の望んでいることは何かということを考えるようになります。これは将来企業でプレゼンをしたりする時に、役立ちます。より良い授業を目指して、グループ内では、それぞれの得意分野を分担するようになります。

Q グループ学習というと、なかなか全員が主体的に関わるのが難しい気がしていましたが、最初にまず、グループで取り組む良さを実感できるワークを取り入れていることを、今回初めて知りました。先生なら皆、このようなことを意識しているのですか?

A  やっている先生もいると思いますが、皆ではないでしょうね。これは教育心理学的手法なのですが、参考にしたのは『グループエンカウンターで学級が変わる 中学校編〜グループ体験を生かしたふれあいの学級づくり〜』(國分康孝監修 教育図書 1996)という本です。社会科の授業だけでなく、いろいろな場面で使える手法です。(注 エンカウンターとはホンネを表現しあい、それを互いに認め合う体験のこと)現代は、人間関係が希薄になってきているだけに、お互いの気持ちを率直に語り合う機会を作ることは、学びの集団を作る上でも大切だと感じていますね。

Q 社会科の研修会で、先生の実践を聞いた公立学校の先生からはどのような質問を受けるのですか?

A  自分もぜひやってみたいけれど、11時間も授業時間を確保できない…と言われることはよくあります。確かに教科書の単元をこなすだけでも時間が足りないぐらいです。でも、そこはカリキュラムマネジメントの発想が必要です。1年間の授業全体の中で、どこに時間を割いたらいいかを考えることで、時間は確保できるはずです。それから生徒授業で触れられなかった知識に関しては、教員の側で補足もできます。

Q  このようなグループ学習の場合、評価はどのようにされているのですか?

A  個人で出してもらうワークシートもありますから、しっかり書けているかを見る事ができます。基本的には「チャレンジ!生徒授業」に意欲的に取り組んでくれているなら、みな合格点をつけています。

Q  学校図書館としては、このように調べることを授業の中に位置付けている先生がいてくださることは、とても嬉しいことです。学校図書館や学校司書は、どのような存在でしたか?

A  学校司書が常駐していて、いつでも相談に乗ってもらえて、調べるのに充分な資料を準備してもらえるのは、とてもありがたかったです。生徒が一人一台の端末を持つようになりましたが、図書資料とネットの情報を両方使える環境は大事だと思います。調べる最初の時間は、本からスタートすることで、基本的な情報を押さえられるし、切り口の面白い資料にも出会えます。もちろんインターネットでも調べて、最終的には情報の取捨選択をするわけですが、多様な情報源へのアクセスを可能にする学校図書館は大切な場所だと思っています。

Q  昨年度、学校司書が常駐する杉並区の中学校の先生が、「チャレンジ!生徒授業」に取り組んでくださったそうですね?

A  はい、とても楽しかったので、来年もやりますと聞いています。学校司書さんにもとてもお世話になったと言ってました。できるだろうか?と考えるよりも、まずはやってみてほしいですね。

 篠塚先生、ありがとうございました。篠塚先生は今後、東京学芸大学で、社会科教師を目指す大学生に教科教育法の授業を担当するそうです。この記事も、参考にしていただけたら嬉しいです。

(文責 附属世田谷中学校司書 村上恭子)

  


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