授業と学校図書館
授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。
先生のひとこと
学校図書館・学校司書による授業支援について伝える
2024-11-03 05:33 | by 村上 |
「授業と学校図書館」で紹介した”チャレンジ!生徒授業”を本校でされていた篠塚昭司先生は、2024年の後期から、東京学芸大学で地理・地歴教育法の授業を担当されている。対象学年は大学2年生。1年後には附属学校で教育実習をすることになる。毎年、教育実習に来た社会科の学生さんたちには、司書の私から学校図書館について1時間、お話をさせてもらっている。篠塚先生は、その話を、教育実習がこれからという2年生のうちに聞くといいのではと思われたらしい。そこで2回目の授業の前半25分ほどをいただき、オンラインで学校図書館がどのような授業支援をしているのか話をさせていただいた。
私の話は、要約すると以下のような内容である。
本校の生徒の多くが、本校の学校図書館は、「狭い空間に雑多な本がひしめく居心地のいい場所」と感じていて、昼休みはたくさんの生徒がやってくる。漫画や将棋・チェス・オセロなどもあって、本を読まない生徒も気軽にやってくる。けれども、貸出はここ10年以前の半数ほどに激減。もともと中学生になると興味や関心が広がるので、読書から遠ざかる傾向にはあるが、スマートフォンの登場が、それに拍車をかけている。読めるけれども読まないなら、読まない自由はあると思っているが、読まなければならないときに、読めないとしたら…。「読む」ことは、学び続けるためには必要なスキルの一つだと思う。同じ思いの先生方には、できるだけ授業で学校図書館を活用してもらっている。
私が考える先生が授業で図書館を使うことの良さは次の4つだ。①生徒が本に触れる機会となる。②読む本を自分で選べる。③授業のなかで、読む意義を実感できる。④調べる以外の本の活用ができる。
ただし、授業利用が可能な図書館であるためには、日頃から生徒がよく図書館を利用していることや、授業に使える資料があること、授業がしやすい空間になっていることが大前提。資料に関して言えば、小さい学校図書館だけでは足りないので、附属学校の図書館から借りたり、公共図書館の団体貸出制度も利用して、1クラスの生徒が十分に使える資料を用意している。資料の準備にはある程度時間が必要なので、先生たちは余裕を持って司書に依頼をしてくれる。
かつては、知識注入型の授業が一般的だったが、今は生徒が自ら課題を見つける課題解決型や探究的な学びも求められている。情報活用能力はどの教科でも必要な、汎用的なチカラと言える。学校図書館で授業をしてもらえると、先生方がその重要性を伝えてくれるので、司書からも補足することができる。また、それぞれの教科の特性に合わせた学びが可能となる。
国語の先生が、中学1年生の授業を図書館で行ったときに、「世中の国語は、自分のことを自分の言葉で語れるようになることを目指しています。自分を知るためには、自分の外側にあるものに出会うことが大事です。図書館でぜひたくさんのものに出会ってください」。また、ノンフィクションを読む授業の時は、「私たちは、自分の人生を一度しか経験できません。でも、本を読むことで、別の人の人生を擬似体験することができます。今年の夏は、ぜひノンフィクションを読んで、思惟する夏にしてください。」 まさにどちらも司書が伝えたいと思っていることだ。
篠塚先生に、社会科は何を目指しているのかを伺ったら、「自分で考えて、自分で行動できる人になること。主権者教育が社会科の目指すところですね。」という答えが返ってきた。考えるためには、情報が必要だ。特に社会科では、自分が手にした情報が、誰がどんな立場で書いたのかを常に意識しながら、複数の資料を比較検討し、自分たちの意見を作っていくことが求められる。社会科で1冊の本を読んで鵜呑みにしない生徒を育ててくれるから、図書館に色々な本を置くことができる。学校図書館にある本は、全て良書であると勘違いする生徒がいるが、本の良し悪しを決めるのは、読んだ本人にしかできないこと。もちろん、図書館が紙の本だけにこだわる訳ではなく、ここを入り口にして、デジタル情報にもアクセスすることで、両方の長所短所を知り、適切に使える人になってほしい。
ちょうど今、公民で「日本の民主主義の問題点を考える」という授業を、パネルディスカッションを取り入れて行うところなので、民主主義に関する本を74冊用意した。こういった本は、授業がないとなかなか手に取られない本だ。ネットの情報ももちろん活用するが、先生は最初の1時間は本から、2時間目以降はネットも使っていいという方針だ。生徒に本を使う利点を聞いてみたら、「ネットは思いついたキーワードから情報を得ることはできるけれども、思いつかない情報は見つけられない。その点本は、想定外の情報に出会うことができる。あと、みんなで見るのに適していると思う。」と答えてくれた。(写真は、用意した本の一部)
(写真左下は、公民の授業で資料を探す生徒たち 写真右下は、パネルディスカッションの様子)
「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」には篠塚先生が、昨年度まで行っていた「チャレンジ!生徒授業」についてインタビューしてまとめたものが載っているので、ぜひ後で読んでほしい。チャレンジ!生徒授業というのは、生徒が自分たちで指導案を作り、実際に20分間の授業を行うものだ。どのような授業を行ったらいいかという課題の設定の時から図書館を使ってもらっている。インタビューして初めて知ったのは、最初にグループ活動の意義についても納得できるようなちょっとした課題に取り組んでいることだ。実際の授業も見学させてもらったが、生徒は、大変ではあるけれど、楽しく活動に取り組んでいたのが印象的だった。
本校で10年ほど教えて公立学校に戻られた社会科の先生の、”社会科というのは、読む文化のない子どもたちに、読む文化を伝えられる唯一の教科”という言葉が、心に残っている。皆さんが、先生になったら、ぜひ学校図書館を授業で活用してほしい。使われることで、司書は鍛えられるし、図書館の棚も充実する。先生には、そういう責任もあることを知っていてほしい。
この授業の前日が、衆議院議員選挙だったので、篠塚先生が、選挙のようなタイムリーな話題は、授業に活かせること、教科書の内容だけに拘らず、自分でカリキュラムをマネジメントできることも伝えていた。
受講していた90名の学生の感想が送られてきて驚いたことは、わずか25分程度の拙い私の話に対して、こちらの意図をとてもよく理解してくれたことだ。それを読むことで、なぜ学校図書館を授業で使うという発想を教員志望の学生の多くが持っていないのかを、考えてみた。
最も多かったのは、学校図書館についてよく知らなかった、今回このような話を聞くことができてとても良かった…という感想だ。今回は、社会科の学生さんに絞って話をさせていただいたので、そこも響いてもらえたようで、社会科で学校図書館を活用する意義についても、共感を持って聞いてもらえたようだ。情報リテラシーを育む意味でも、社会科の授業で学校図書館を活用することはとても有効だと感じてもらえたし、学校司書が授業を創るときに頼りにできる存在だと気づいてもらえたことが嬉しかった。読書に苦手意識を持っていたため読書から遠ざかってしまったせいで、今自分がとても苦労しているので、教員になったら、生徒がそうならないような授業を工夫したいという感想もあった。
なぜ、学校図書館を使うことに思い至らなかったのだろうという素朴な疑問もあった。これは学校図書館の側の問題でもある。小中高と、当たり前に学校図書館を活用した授業が行われていれば、学校図書館に対する認識も当然違ったものになっていたに違いない。先生の意識が変わるのと同じように、学校図書館を運営する側も授業利用を意識した学校図書館運営が必要だし、そのためには専門性を持った学校司書の常駐が欠かせない。資料の充実や人の配置には当然予算が必要になってくる。
待っていてもすぐには改善できないのであれば、今できることを工夫することも大切だ。幸い、図書館はネットワークを持っている。自治体なら、公立学校間のネットワークや公共図書館の団体貸出制度もある。地域の博物館との連携も可能だ。このデータベースには、そのような連携を実際に行い、主体的・対話的な深い学びが実現した実践事例も掲載されている。
最後に、地理・地歴教育法を担当している篠塚先生にも、感想をいただいた。
毎年、世田谷中に来る社会科教育実習生の学生に対し、学校司書の村上さんには「学校図書館と社会科授業」についてのお話をお願いしていました。感想を聞くと、多くの学生から「学校図書館の大切さを知りました」「この実習中もチャンスがあれば図書館を使ってみたいです」といったことばと同時に、「教育実習前に聞いておきたかった話でした」という声も聞きました。もちろん、大学の授業の中でも学校図書館について学ぶ機会はあったかもしれません。ですが、やはり実際に授業準備をする段階で学ぶことで、学校図書館を活用するモチベーションが上がっていくことは当然のことだと思います。
そこで、今年度から、学芸大学2年生の社会科教育法を担当させていただくことになったため、村上さんに「学校図書館と社会科授業」の講義をお願いしました。結果、予想にたがわず、「学校図書館を利用する授業を構想したい」とか、「司書の先生と授業作りの相談をしてみたい」というように、教育実習までの今後1年間における学校図書館との連携に対する前向きな反応が多くみられました。
学校図書館だからこそ、単に本好きの生徒が集まる場にとどまることなく、探究学習で求められる問題発見力や情報収集力を高められる場となるよう、今後も先生方と司書の方の連携が深まっていくことを期待しています。
(文責 東京学芸大学附属世田谷中学校 村上恭子)