司書研修の報告

司書研修の報告

No.3 学校司書入門講座 2018.6.23

2018-07-02 10:57 | by 村上 |

平成30年度東京学芸大学公開講座
「学校図書館入門講座Ver.9;使える学校図書館を作ろう」

□ 平成30年6月23日(土)10時~16時        

□ 東京学芸大学附属小金井中学校 図書館

□ プログラム

 【2-B 図書館情報資源概論 / 3-A 学校教育概論】

●教育学図書出版の現場から

講師:東京学芸大学教授 藤井健志氏

 はじめに
 2001年「教育の良書を出したい」という創立者故池田義人先生の思いを引き継ぎ、東京学芸大学出版局が設立され、事務局長を引き受けることになった。

 1.本の値段 本をめぐるいくつかの仕組み

 教育関係の書籍は売れないと、どこでも冷たくあしらわれるが、実際学校の先生は本を買わない。出版局は独立採算制をとっているため、お金の苦労も多い。書籍の値段は一般的には制作単価の3倍を想定しているが、制作単価も組版や紙質など様々なヴァリエーションがあり、印刷部数との兼ね合いで決まっていく。
 出版社がつぶれるのは、返品が自由という流通のしくみが影響している。アマゾンは定価の60%で買い取るため、出版社の利益は少ない。

 2.本を作る作業-編集
 本は著者だけが書いているわけではない。良い本を出すためには編集者の存在が不可欠。本の信頼性の構築が編集者の仕事。優れた編集者の手を経た本はデジタル教材より信頼性が高い。閉鎖型のデジタル教材(有料で会員制等)は、不都合な情報を流さないようにできるため、多様性に欠ける。多様性と信頼性の両立は厳しいのではないか。

 3.本を読むということについて
 本に書かれている情報は、情報自体から働きかけることはなく、静的であるのに対し、スマホの情報は読み手に働きかけてくる。読書とスマホなどのデジタル機器から情報を得ることは、異なる身体的行為といえる。身体的行為は習慣的なもので、家庭では幼児の時から身につけやすい。デジタル機器を本格的に操作するのは小学校入学時頃。そのため行為としての読書を小学校で教えることは意味がある。

おわりに
 日本という国は、国として教育を軽視してきたように思う。国家が積極的に教育に投資したのは、一部の特権的大学のみ。現場の教師が一生懸命に教育に従事し、日本の教育を支えてきたのだと思う。

 以上お話いただいたことを、簡単にまとめたが、本づくりの現場から興味深い事柄をたくさんお聞きすることができた。


【3-C 
読書推進活動論】

●子どもと本を結ぶ手だて             

  1.附属世田谷小学校での取り組みから    吉岡裕子(前附属世田谷小学校 司書)



 小学校司書として、子どもと本を結ぶために、どのようなことをしてきたかが具体的に語られた。
 小学校にふさわしい蔵書をつくり、1年生から6年生までそれぞれの発達段階と、個々の子どもたちの育ちによりそいながら、本を手渡してきたこと。また教員と一緒に授業をつくっていくことで、学校図書館の可能性をさらに広げていったことが伝わる内容だった。




 参考文献
 『協働する学校図書館 小学校編―子どもに寄り添う12か月』吉岡裕子著 少年写真新聞社 2010
 『学校図書館はじめの一歩』 みの会編/東京子ども図書館編集協力 2015
 『サンカクくんと問題解決!学校司書・司書教諭・図書館担当者のための学校図書館スタートガイド』少年写真新聞社 2015
 『学校司書って、こんな仕事―学びと出会いをひろげる学校図書館』 学校図書館問題研究会 かもがわ出版 2014


  2.おはなし       岡島玲子(附属竹早小中学校 司書)

  金の腕 『おはなしのろうそく22』より 東京子ども図書館

 おはなしは、1.想像力を育てる。2.考える力を育てる。3.聞き手と語り手、あるいは聞き手同士の人間関係を育てる。4.ことばの力を育てる。5.お話を楽しむ力を育てる。(字の読めない子も文学を楽しむことができる。)

 よい語りとは、3つのS Simply簡潔に Slowlyゆっくりと Sincerely誠実に
「お話は、子どもに喜びをあたえるだけではありません。かれらを文学にふれさせ、ことばの中にある音楽に耳を傾けるようにしむけるのに、お話以上によい方法はないのです。」アイリーン・コルウェル

 参考文献
『レクチャーブックスお話入門1から6 お話とは』 松岡享子 東京子ども図書館
『子どもたちをお話の世界へ』 アイリーン・コルウエル著 こぐま社
『新装版 お話のリスト』『おはなしのろうそく』 東京子ども図書館
『読み聞かせ・語り聞かせ』 草土文化社
『ストーリーテラーへの道』日本図書館協会
 

  

  3.よみきかせ      富澤佳恵子(附属大泉小学校 司書)

   『だいくとおにろく』 谷川俊太郎訳/思草社


 〇選び方
  ★まずは読み継がれてきた本を
  ★見開き1ページに一つの場面
  ★遠目がきくこと
 〇読み方
  ★物語を語る気持ちでゆっくりと
参考文献
 『えほんのせかい こどものせかい』 松岡享子著 日本エディタースクール出版部
 『絵本の庭へ;児童図書館基本蔵書目録1』



 4.音楽ブックトーク    岡田和美 (附属高校 司書)


 高校の音楽の授業で行ったブックトークを実演
 「授業で自分の音楽史を生徒に書かせるにあたり、音楽との出会いを深く認識するためのブックトークを行ってほしい」との依頼を受ける。そこで、音楽教員とじっくり話をし、なぜそのようなことを望んでいるのかを理解したうえで、学校司書は、「私にとっての出会い」というテーマで、ブックトークを組み立てた。




 この日紹介された本は下記の6冊
 『石を聞く肖像』木之下 晃飛鳥新社 2009年
 『跳びはねる思考』東田直 イーストプレス 2014年
 『ジ・アート・オブ・シン ゴジラ』庵野秀明 カラー 2016年
 雑誌 『こころ』収録 「絵本のことなんて何もしらなかった」
                    筒井大介 平凡社 2017年
 『韓国の美術 日本の美術』鄭于澤 並木士 昭和堂 2002年

 参考文献
 『学校ブックトーク入門―元気な学校図書館のつくりかた』高桑弥須子著 教文館 2011
 『ブックトークのきほん―21の事例つき』 東京子ども図書館 2016

 5.児童・生徒を図書館に誘う手立て   井谷由紀附属小金井中学校 司書


 会場校でもある井谷司書より、主に以下の3点
 ①図書通信
 ②ブックリストの作成 (仕事に関するブックリストを附属司書で作成)
 ③図書委員会活動
 について、実物をみながら話した。

 参考文献
 『学校図書館に司書がいたら』 村上恭子著 少年写真新聞社 2014
 『鍛えよう!読むチカラ 学校図書館で育てる25の方法』桑田てるみ監修 明治書院 2012
 『発信する学校図書館ディスプレイ』吉岡裕子・遊佐幸枝監修 少年写真新聞社 2015

●ミニワークショップ

 リテラチャーサークルを体験!   進行 金澤磨樹子(附属世田谷小 司書)

  リテラチャーサークルとは、3~5人で同じ本を同じペースで読む。その際、役割を決めて読み、読んだ後で話し合いをするもの。何回かにわけて、役割を変えながら、最後まで読んで話し合いをするもの。
 役割は小学校なら、思い出し屋&質問屋&イラスト屋&段落屋&言葉屋。中学校なら、コネクター&クエスチョナー&イラストレーター&サマライザー&ワードセッター等。
 今回は中学校版で実施。
 用意した本は以下の5冊(いずれもテーマはLGBT)
  『ドレスを着た男子』ディヴィッド・ウォルアムズ著 福音館書店
  『ジョージとひみつのメリッサ』アレックス・ジーノ 偕成社
  『超・ハーモニー』 魚住直子著 講談社文庫
  『サイモンvs人類平等化計画』 ベッキー・アルバータリー著 岩波書店
  『パンツプロジェクト』 キャット・クラーク著 あすなろ書房
   
 以上、様々な子どもと本を結ぶ手立てについて学ぶ研修となった。


(文責 附属世田谷中学校司書 村上恭子)



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