司書研修の報告

司書研修の報告

No.6 令和元年度東京学芸大学公開講座

2019-07-31 10:18 | by 井谷(主担) |

「学校図書館入門講座Ver.10;使える学校図書館を作ろう」

□ 令和元年629日(土)10時~16時     

□ 東京学芸大学附属大泉小学校 ランチルーム&マルチメディア室
           (参加者 38名,帝京大学サポーター&司書12名)

□ プログラム

2019.6.29学校司書入門講座プログラム.doc
□レジメ
学校司書配布資料(改訂分).pdf

●初めのことば   東京学芸大学 前田稔准教授

この入門講座も、今年で10年目となった。学校司書の方にとって、学芸大学の教員による最先端の教育学を学べる貴重な場と思う。今日も有意義な一日にしていただきたい。

 

 3-A 学校教育概論  5-A 学校図書館連携・協働論 小学校編

●学校司書のための教育学入門

   「学校図書館と子どもの学びとのつながり」

 

 講師 東京学芸大学講師 大村龍太郎先生


 午前中は、福岡で18
年間小学校の教員をされていた大村先生より、学校図書館と子どもの学びとのつながりを、各教科の特質を踏まえて具体的に伺った。

 教員は常に授業で使えるネタ()はないかと探しており、子どもがその素材に興味関心を示すと、深い学びにつながる。そのため、学校図書館は子どもにとっても教師にとっても「素材」の宝庫である。図書館の本に詳しい司書が授業に貢献するための可能性を、来年度からの学習指導要領に即した実践事例を基に提示していただいた。

  まず国語の「読むこと」では、例えば6年生の『カレーライス』()で登場人物の心情を捉える学習をした後、関連した物語(似た構成、同様のテーマ同作者)で比べ読みにつなげたい。司書から「こんな本はいかがですか?」と提示をしたり紹介コーナーを作ったりすると良い。「書くこと」では、例えば1年生の『うらしまたろう』の続きを書く学習から関連した昔話へとつながることなどが望ましい。国語の学習では図書館とつながる学習が日々行われている

 また、社会や理科では、単に知識を得て覚えるだけではなく、自らの疑問や不思議を楽しんで追究し、解決するために本が活用できると良い。ネットよりも情報の出所がはっきりし信頼性に優れた書籍で、発展的な内容を提供することが先生にも子どもにも有効である。

 その他のすべての教科でも関連する本、参考になる本、興味が広がる本を紹介することができる。(レジメを参照ください。) 学校図書館は自分の好きな本を自分のペースで読める、つまり決定権が自分にある校内でも特別な場所でもある。また「興味の宝箱」である図書館の価値に気づくことが生涯の豊かな学びにつながっていくので、「司書は素敵な仕事ですね。」と講義の最後を結ばれた。

 その後の質疑応答で「なかなか図書館に来ない高学年への対応は?」という質問に対し、「日々の先生との雑談の中から連携するきっかけをつかむといい」とご回答くださり、午後の吉岡前附属世田谷小学校司書による講義へと導く流れとなった

(文責:東京学芸大学附属小金井中学校 司書  井谷 由紀)


1-C 学校図書館活動概論】

●「小学校の図書の時間のつかいかた」

講師 前附属世田谷小学校司書 吉岡裕子氏

午後の前半は 長年附属世田谷学校の司書として勤務された吉岡裕子氏に、そのご経験を元にお話し頂いた。吉岡さんは日々学校を知る人を知るために学校探検をするといいと思っている。学級活動や板書を見、職員室での雑談を通して先生と親しくなる。垣根がなくなっていくので先生は頼みやすくなっていくそうだ。いつも笑顔で明るい雰囲気の吉岡さんには児童も先生も話しかけやすいのだろう。

日常の図書の時間では学校生活で大事な「読めること」「書けること」をサポートしていることを意識してきた。

「読めること」への実践例として、1年生の3学期『もりのてがみ』(片山令子/作、片山健/絵 福音館書店 2006年刊)の読み聞かせから身近なものへお手紙を書く取り組みや、5年生で岩波少年文庫を読んでまとめ、教室に掲示する取り組みや6年生でノンフィクションに取り組む実践がある。高学年にとってハードルが高い作品は頑張って読むことが励みになり「読むこと」の飛躍につながったという。

 また「書けること」への実践例として、附属世田谷小学校では読書ノートの取り組みがある。振り返ること、書くことの習慣化は、他教科でも書くことが楽になったという。

 活字を読むことがおっくうではない子ども、書くことが習慣化している子どもは「読める子」「書ける子」に育っていく。図書の時間を通して子どもたちがどの授業に於いても必要な「読むこと」「書くこと」を司書がサポートしてこられたことがよくわかった。

 質疑応答で「読書の習慣をつけたいが図書の時間で行ってきたことは?」という質問が挙がった。吉岡さんは「低学年は絵本を多く借りてほしいと12年生で必ず絵本を借りるように勧めてきた。絵本をたくさん読むことで想像力を高めてほしいと思っている。3年生以上には物語の本の読み聞かせを行っていた。すると続きが知りたいからと自分で読んでみるようになるなど、子どもの興味が伸びていく。読む習慣の基礎がつくられると考えている。」と回答された。

 講義の中で吉岡さんは「小学校の司書は1年生からずっと児童を見てきている、多学年・多教科を知ることができる人である。またどの教科においても「調べ方」を知っていて、伝えていくことができる人である。先生と協働することで、子どもの視野や興味関心が広がっていくのでは。」と司書の役割の大切さを丁寧にわかりやすく伝えてくれた。 

 

 

【2-A 図書館施設論  3-C 読書推進活動論】

●ワークショップ「一箱本屋さんをつくろう!」

進行:帝京大学共読サポーターズのみなさん

午後の後半は帝京大学共読サポーターズの活動の一つ「一箱古本市」から学校図書館のディスプレイとしても役立つ「一箱本屋さん」を作る、というワークショップを行った。

帝京大学共読サポーターズとは、帝京大学のメディアライブラリーセンター(以下MELIC)の読書推進プロジェクト「共読ライブラリー」を一緒に盛り上げる学生団体で、その活動はMELIC内のみならず学外へも意欲的に読書の魅力を発信している。2019年度は1年生~4年生まで66名のメンバーで活動している。

 「共読」とは、「読み合う、薦め合う、評し合う」という読書の形態を指し、共読サポーターズもMELIC内の書架づくりの企画・運営やビブリオバトルの企画・運営、青舎祭(帝京大学八王子キャンパス学園祭)への出展や図書館総合展での出展など活発な取り組みを行っている。

 「一箱古本市」は青舎祭で段ボール箱一つをそれぞれの本屋さんとし、店主はあるテーマとキーブック(一箱本屋さんのメインとなる本)を提示して古本を販売する、という本との新しい出会いを提案している。

ワークショップではいくつか課題を提示していただきながら10グループが一箱本屋さんづくりに取り組んだ。「○○に贈る一冊」をテーマに各自会場である附属大泉小学校にあるマルチメディア室内の本を選ぶ。今回は「読んだことのない、目次のある本を、中を見ないで」選ぶというルールが加えられた。「直感で、時間をかけずに選ぶこと」「本を開かず、読まない」という司書の仕事ではなかなか行わない、画期的なルールであった。

戸惑いながらもテーマに即した本を手にグループに戻り、まずは自分で選んだ本の目次や内容を読み、11分の持ち時間でグループ内にその本の紹介をする。その後話し合って本屋の屋号やおすすめポイントなどを出し合い一箱本屋さんを作り上げていった。

このワークショップでは、一箱本屋さんを作る過程の中に共読ライブラリーの掲げる「共読=読み合う、薦め合う、評し合う」がすべて含まれており、共読サポーターズの皆さんの構成力に圧倒された。

ワークショップを行って、参加者の皆さんの目が輝いていったのを感じた。本を通じての活動は、好奇心が膨らみ、次の仕事につながっていく。そのきっかけに出会える場となったなら我々も嬉しく思う。

                       (文責:東京学芸大学附属小金井小学校 司書 松岡みどり)

 

帝京大学「共読ライブラリー」

https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/tosho/tos-kyodoku.html 

(下の写真:参加者の皆さんが作成した「一箱本屋」の一部)



 

 



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