司書研修の報告

司書研修の報告

No.7 みんなで学ぼう! 学校司書講座 2019

2019-08-05 10:04 | by 岡田(主担) |

   令和元年度 東京学芸大学学校図書館運営専門委員会 司書部会
        「学校司書講座」


□令和元年7月29日(月)•7月30日(火) 10時〜16時
□東京学芸大学附属世田谷小学校集会室
□プログラム 2019年度学校司書研修プログラム.docx

令和元年729日(月)第1講 (参加者  23名)
【2-B 図書館情報資源概論 子どもの本・メディア論】

□レジメ みんなで学ぼう!学校司書講座2019(配布資料)DB.ppt

電子書籍と電子図書館

         ~これからの学校図書館を考えるために~

講師:専修大学教授 野口武悟先生

学校図書館も、ICTを活用できる環境づくりが必須の時代になりつつある。その中でも、特に今、注目されている「電子書籍」について、その可能性と課題、電子図書館との関係、及び、学校図書館が今後目指すべき方向性まで、具体的な事例を交えつつお話いただいた。

   すでに広く普及している電子辞書は、「電子書籍」という言葉が生まれる前の1970年代に登場した、「専用端末(内蔵)型」の電子書籍といえる。また、マルチメディアDAISYのような、通常のパソコンでCDCDROMのデータを再生する「パッケージ型」の電子書籍は、これまでも学校図書館は資料として扱ってきた。しかし、最近の主流であり、特にこれから考えるべきは、インターネットを介して利用する「クラウド型」の電子書籍である。これは、「電子書籍サービス」または「電子図書館サービス」という名で大学図書館や公共図書館での導入、サービス提供が急速に進んでいる。しかし、学校図書館での導入は、まだ緒についたばかりである。導入実績があるのは、LibrariERakuten OverdriveSchool e-Library3種のみである(詳細は資料参照)。

   電子書籍には、①中・高校生の読書のきっかけづくりや、②紙の本での読書に困難のある人の読書機会拡大の可能性がある。①については、不読とされる層に、電子書籍ならば読んでいる中高生もおり、紙の本の読書のきっかけになる可能性がある。②については、20196月施行の「読書バリアフリー法」により、整備が進む方向が明確になりつつある。

 一方、課題もまた山積みである。子どもの視力の低下などへの影響が懸念されることに加え、学校向けのコンテンツ(作品)が充実しているとは言い難いことなどが挙げられる。

 加えて、「クラウド型」の場合、物としての実体がないその特性上、予算執行、館内での取り扱い、専門的知識・技能の習得といった面で、今後、新たな対応が必要である。また、「学校図書館」のイメージが、未だ紙の本を提供する場所との認識に留まっていることも課題である。校務分掌上、コンピュータ室等を管理する「情報」分野と学校図書館が切り離して考えられる傾向も強い。両者が統合されぬまま「電子書籍については情報分野で対応」となれば、学校図書館はますますICTから取り残されてしまう恐れがある。

 従来の図書館機能を、電子メディアによって、とりわけネットワークを介して提供しようとするのが「電子図書館」である(資料参照)が、日本で、図書館機能の全てが電子的に提供されるようになる可能性は当面低そうだ。紙か電子かの議論になりがちだが、そうではなく、今後目指すべきは、紙とデジタルの両方の資料を提供できる「ハイブリッド型」の学校図書館である。

 講義を通し、「電子書籍」について、現状と可能性、そして課題が整理されただけでなく、学校図書館そのものがもつ課題と、その「情報センター」としての役割も改めて確認することができた。

(文責  東京学芸大学付属大泉小学校  富澤 佳恵子)

 

令和元年729日(月)第2講 (参加者  22名)
4-B情報サービス論/利用者ガイダンス論】
□レジメ  2019長谷川先生講義.pdf 関連資料 しらこばと通信352号(抜粋).pdf

書籍とデジタル情報を駆使したレファレンス:県立図書館司書に学ぶ

講師:埼玉県立久喜図書館 長谷川優子氏

 埼玉県立図書館は、全国の公共図書館におけるレファレンスサービで回答の質・量共に非常にレベルが高く、国立国会図書館のレファレンス協同データベースには、数多くのレファレンス回答事例を提供している。情報化社会の現代、従来の書籍資料に加えインターネットを駆使したデジタル情報は、レファレンスの迅速な調査、回答をするうえで欠かせないツールとなった。しかしインターネットはすべてがフラットになるWEBであり、情報の評価は常に読み手に委ねられ、その判断は非常に難しい。

現在埼玉県立図書館のデジタル情報源としては、無料のデータベース、有料のデータベース、デジタルアーカイブを活用している。「情報はタダではない」と言われるが、無料でも目的が合致すれば使えるものはある。まさに国立国会図書館サーチは情報の入口、窓であり、公的機関のデータや統計は信頼性の高い情報源といえる。Wikipediaにも出典や参考文献が多数明記され、推奨されている記事もあるが、あくまでも調査段階の記録にとどめ、最終的に参考文献として掲載することはない。一方有料データベースは他では見られない質の高い情報が得られ、迅速なレファレンス調査を可能としている。埼玉県立図書館では、23種類のオンラインデータベースを利用することができ、利用者は無料で検索をすることができる。しかし有料データベースの契約は高額で、継続的な経費を要し、図書館の所蔵資料ではないために、契約が切れた時点で図書館には何も残らないの実状である。

 いずれにしろ情報の評価は読み手に委ねられるため、1.信頼性の高い情報源、2.評価のポイント、3.異なるメディア、の3点で支えることが非常に重要である。この評価のポイントを生徒に伝える場合、「いなかもち」(埼玉県立久喜図書館情報の探し方講座「健康情報の目利きになりましょう」より)の5文字で紹介してみてほしい。

「い」→いつの情報?  「な」→何のために書かれ    「か」→書いた人は誰? 
    「も」→モトネタは何? 「ち」→違う情報と比べたら

 

 講義のあと、グループごとに過去の具体的なレファレンス事例を題材に、iPadを使って調べ、調査経過を発表するワークショップがおこなわれた。

(文責  東京学芸大学附属国際中等学校  渡邊 有理子)

 

令和元年7月30日(火)第3講 (参加者 22名)

3-A 教育方法論   3-B 発達心理学
□レジメ 訂正版生きる力を育む教育(7.30伊藤さん).docx

  

生きる力を育む教育

      〜東大ROCKET(異才プロジェクト)の学びからの気づき•

         ひとりひとりの「探究」にとことんつき合う伊那小学校

講師 文筆家 伊藤史織氏


 1部では、『異才!発見』(岩波新書)の著者である講師から、東大ROCKET(異才発掘プロジェクト)の活動について詳しく伺った。

異才発掘プロジェクトとは、公教育の枠からはみ出した特化した能力がありながらも不登校気味の子どもの、欠けている部分を無理に埋めるのではなく、良いところをより引き出す活動である。学校の授業では、1時間ごとに区切りがあるが、ここでは教科書も時間制限もなくとことん追求できる。例えば、北海道で炭窯を再生して炭焼きをしたり、古い車のレストアに挑戦し、エンジンのしくみを理解したり、キャドを使ってフォルムを再生したりする。また、ぶどうジュースを作ることから流通や歴史を学ぶなどの様々な活動がある。アウシュヴィッツやインドをめぐる海外研修では、どう生きるかを考える機会にもなる。

このようなプロジェクトは、今までは全国からの応募の中から数十人を選抜して行っていたが、今年からは地域の教育委員会と協力し、地域に根ざした活動へとステップアップしている。

2部では総合学習という形で、一人一人の「探究」を深める伊那小学校の実践例を伺った。信州大学農学部と協働で山羊や牛を育てたり、地域の特産物・産業を考えてのお弁当作りなど、ユニークな総合学習がもう30年以上も続けられている。

最後にROCKETや総合学習などのアクティブラーニングの様子から、図書館の重要性についても言及された。そして、子どものころに植村直己の本を図書館で読んで冒険に興味を持ち、世界を代表する冒険家になった人の話から「図書館から生まれる冒険」もあるのだと講義を結ばれた。


                            (文責  東京学芸大学附属小金井中学校   井谷 由紀)


 

令和元年7月30日(火)第4講 (参加者 22名)

3-B 発達心理学   4-B 情報サービス論

□レジメ思春期年表2019 のコピー.xls        


□レジメ資料A研修ブックリスト2019.7.30 のコピー.xls


□レジメ資料B ネガティブ・ケイパビリティ.docx


□レジメ資料Bウラ面 子どもに本を読み聞かせる効果.docx   


□レジメ資料Cがん教育.docx


□レジメ発達障がいブックリスト.xls     


学校図書館と医学情報を結ぶ

           

講師:静岡県立こども病院医学図書室司書 塚田薫代氏

 

 

 

  静岡県立こども病院図書室の仕事の一つに、病気のこどもへの支援がある。小学校低学年までのこどもは、「自分が悪い子だから病気になった」と考えがちな点を、正しい病気の知識とともに、決してそうではない事を伝えなければならない。こどもには基本全員に治療の前に告知を行うようにしている。同時に家族のケアも必要となる。告知当初は不安で、医師の説明が3割しか記憶に残らない親への寄り添いも図書館は行う。Be There(共にいる)事を大切に考える。ナラティブ(患者さんの語り)資料があってこそのエビデンス(医学根拠)であり、それが患者や家族のレジリエンス(立ち直り)へとつながっていく。

 学校への医療情報活動では「Iは勝つ」等のブックトークを行っている。アイは「愛」であり、自分自身の「I」であり、インフォメーションの「I」でもある。正しく知る事はどんな年齢でも大切な権利である。

 こどもは病院図書室が大好きである。図書室は病院で唯一「痛くない」場所であり、「選択肢の自由」がある場所である。

  院内学級では学習する権利を保証し、補い、復学の不安を取り除き、入院中から学校とのつながりを維持する取り組みを行っている。個別の学習支援として静岡大学特別支援教育専攻の大学生と連携している。

 CCU(循環器集中治療室)においても絵本によるこどもへの朗読を行っている。こどもの喜ぶ姿は「なにもしてやれていない」と無気力感に苛まれている親の生きる活力となる。ナイトブックでは夜8時から消灯までベッドサイドで本を読むボランティアを行っている。本を通してこどもたちを励まし寄り添うことの有効性を感じる活動の一つとなっている。皆さんのような司書の方達にも関わっていただけたらうれしく思う。

  (文責  東京学芸大学附属高校  岡田 和美)




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