読書・情報リテラシー
図書委員会のICT活用と新教科『メディア・コミュニケーション科』
2013-01-15 21:50 | by 中山(主担) |
京都教育大学附属桃山小学校教諭 山川 拓
1.ICT機器を活用した図書委員会の活動
1.京都教育大学附属桃山小学校のICT教育環境について
平成12年に策定された「e-japan構想」に続き,平成21年には「スクール・ニューディール構想」が打ち出され,全国各地の小・中・特別支援学校に,電子黒板はじめICT機器が次々と導入されてきています。また,平成22年には新学習指導要領に対応した「教育の情報化に関する手引き」が作成され,ICT利活用や情報教育の一層の充実が謳われるようになってきています。
新たな情報機器が導入され,変化する教室環境の中で,子どもたちは旧来の鉛筆とノートという授業のスタイルにとどまらず,新たなスタイルで学習に臨んでいくことが期待されます。
京都教育大学附属桃山小学校においても,ありがたいことにこれらのさまざまな政策を通じ,校内LANが整備され,デジタル放送対応の大型テレビの導入に加え,普通教室と特別教室に電子黒板とそれを操作するコンピュータを1台ずつ整備されました。また,子どもたちが自由に使えるデジタルカメラも整備することができ,「子どもが活用していくICT機器」の環境を整えることができました。これまでにも,実物投影機やプロジェクターを活用した教育を行ってきていますが,今回の整備により,さらにICT機器を活用した教育活動が可能となりました。
私たちはICT機器を活用した授業のあり方を模索しながらも,本校の理念を根幹とした「自立と共生の力」をもった子どもの育成を目指し,平成22年度よりパナソニック教育財団の助成を受け,子どものもっている可能性を探り,研究・実践を進めてきました。
2.ICT機器を活用した図書委員会の活動 ~読書週間を通して~
電子黒板などのICT機器を子どもたちの学びの中でいかに活用していくか。私たちは,日々の授業にとどまらず,様々な場面での子どもたちの機器活用に着目しながら研究を進めてきました。
その中で,主に図書委員会が行ったICT機器を活用した活動について紹介したいと思います。
【電子黒板を活用した『大型絵本』の読み聞かせ】
11月の読書週間中に,本校の図書委員会の活動として低学年に朝の読み聞かせを行っています。図書室など,広いスペースで読み聞かせをすれば,子どもたちを読み手の周りに集めて読むこともできますが,朝の会の前に行うということもあり,教室を訪問して読むことになります。そのため,委員会の子どもたちが持っている本の大きさでは,どうしてにくくなってしまいます。そこで,電子黒板の画面キャプチャ機能やスキャナ機能を使い,絵本の画像を取り込んでおくことで,絵本を拡大し,絵を見ながら読み聞かせを楽しむことができるようにしました。あらかじめ画像を取り込んでおくことで,読み手には自分の手元に 読む資料があり,聞き手には大きな画面を見ながら絵本の世界を楽しむことができます。絵があることで物語の様子をイメージ化しやすく,お話の世界に入りやすくなったようです。
【校内ネットワークを活用して,録音したスライドを使った本の紹介】
給食週間と読書週間のコラボレーション企画で,絵本に出てくる食材を給食に使用してもらい,その献立の日に絵本の紹介をする企画も行いました。全学級に絵本の紹介をしにいくことができないので,事前にボイスレコーダーを使用して絵本の内容を吹き込み,プレゼンテーションソフトを活用して紹介を行いました。学級指導の時間などを有効に使い,その日のうちのどの時間でも本の紹介を聞くことができる点で有効だと考えます。今回はスライドショ―を活用した紹介に取り組みましたが、動画を撮影したりするなど、様々な方法があるので、どの方法が一番わかりやすいか、伝えやすいかに着目しながら、紹介の方法を模索していきたいと思っています。
3.子どもの学びにつなげるICT機器の利活用
ICT機器のよさを引き出していくためには,ただ教師が使っているだけではなく,子どもたち自身が機器に親しみ,活用していく姿を求めていくことが大切だと考えています。
今回紹介しました実践も,図書委員会の子どもたちの「たくさんの人に本に親しんでもらいたい」という思いから出発しています。
子どもたちはICT機器を使っていくにつれ,どんどんと新しい使い方や活用の方法を発想し,実行していく姿があちこちで見られました。本校では,今回紹介した実践のみならず,さまざまな場面で子どもたち自身がICT機器を活用した学びを展開しています。ICT機器の利活用も,子どもたちの学びを助ける一つの道具なのです。
図書委員会としての活用実践はまだまだ少ないですが,子どもたちの今回の学びを次の委員会活動に引き継ぎ,学校内で「みんなが読書に親しんでもらうためにどういったことができるか」を子どもたちが常に考えていけるようにしていきたいと思っています。
2.新教科「メディア・コミュニケーション科」の開発研究
1.本校の研究から見えてきたもの
教育環境が激変する中,私たちはICT機器を活用した授業のあり方を模索しながらも,本校の理念を根幹とした「自立と共生の力」をもった子どもの育成を目指し,平成22年度よりパナソニック教育財団の助成を受け,子どものもっている可能性を探り,研究・実践を進めてきました。この研究の中で,ICT機器はあくまでも触媒であり,子どもたちが「ひと」「もの」「こと」との関係を見つめ直し,再構成するために有益な働きをするということが分かってきました。
一方で,各教科・領域の中で鉛筆や消しゴムと同じようにICT機器を使っていくときに,扱う情報機器の系統性や,情報モラル,情報活用のための学びなど,情報教育そのものの重要性がさらに浮き彫りになってきました。各教科・領域にとどまらず,学校教育全体の中で,ICT機器を利活用していくためにも,その根幹となる「情報教育」に目を向けていかねばならないということを改めて感じたのです。系統的な情報に関する学びを行っていくためには,各教科でのICT機器の利活用を充実させるだけではなく,「情報をどのように扱うか」「情報を通してどのように考えるか」といった,情報を中核とした「新教科」の開発が必要であると考え,文部科学省の研究開発指定を受けることにしたのです。
豊かな社会力を身に付けるための基本は,人と関わる力です。メディアを選択し活用して,自分の思いや考えを伝え合うことができる力を育てるため,わたしたちは文部科学省の研究開発指定を受け,新教科「メディア・コミュニケーション科」の教育課程・指導目標,内容,方法の研究開発を行っています。
「豊かな社会力」とは,「自ら必要とする社会を創り出す力であり,周りの人たちとの価値観の違いを認め合い,人として尊重し合い共に生きていく力である」とわたしたちは過去の研究から定義してきています。
2.研究の目的
情報やメディアに関する項目として,現行の学習指導要領(平成20年改訂)総則において,
(9)各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。 (学習指導要領「第1章 総則 第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項)より) |
と明記されています。この項目を足場として,各教科・領域でそれぞれに情報に関わる活動が行われてきています。しかし,実際においては,情報やメディアに関する体系的なカリキュラムが存在せず,各担任の技量や学校の設備に関わってくるところが大きくなってきています。
また,豊かな社会力を身に付けるためには,人との関わり合いで互いの価値観を理解し,認め合うことが必要と考えています。また,情報の氾濫する今日,情報に流されず,主体的に情報を収集し,批判的にとらえた上でその価値について自らの考えを創造することが重要となってきています。
わたしたちの研究の目的は,新教科メディア・コミュニケーション科を創設することにより,各教科・領域において行われている情報の操作的活動の中核を担い,カリキュラムを作成することで情報の取り扱いに関する系統性を持たせることです。そして,各教科・領域で行われる言語活動と関連させながら「コミュニケーション活動」の学習を全体構想の中で再構築し,情報教育・メディア教育を「補充・深化・統合」してそれぞれの教科・領域に資するものとし,情報活用能力およびコミュニケーション能力の育成をはかり,情報社会を生き抜く子どもたちの礎となる教科となるべく研究を進めていきたいと考えています。
3.メディア・コミュニケーション科で子どもに育てたい力と新たな「情報活用能力」
情報教育の目標である「情報活用能力の育成」にとは,平成9年に
A |
情報活用の実践力 |
|
「課題や目的に応じた情報手段の適切な活用」 「必要な情報の主体的な収集・判断・表現・処理・創造」 「受け手の状況などを踏まえた発信・伝達」 |
B |
情報の科学的な理解 |
|
「情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解」 「情報を適切に扱ったり,自らの情報活用を評価・改善するための基本的な理論や方法の理解」 |
C |
情報社会に参画する態度 |
|
「社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響の理解」 「情報モラルの必要性や情報に対する責任」 「望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度」 |
と3観点8項目で説明されています。
この情報活用能力が定義され15年の歳月を経た現在,社会に目を向けてみると,ソーシャルネットワーキングサービスはじめ,個人が情報通信ツールを活用して直接世界に情報を発信する機会がますます増えてきています。急速に情報化が進む今日において,子どもたちが身に付けるべき情報活用能力そのものの定義を再検討する必要があるのではないかと私たちは考えたのです。
そこで,実際に目の前にいる子どもたちがこの情報と向き合う時,どのような流れで学習に向かい,力をつけていくかを考え,その結果,新しいメディアや課題との出会いから,最終的に発信・表現していく過程を必要と考える力で切り分けた時,
①相手を意識する力 ・・・相手の存在を意識し,その立場や状況を考える力 ②メディアや情報を選ぶ力 ・・・メディアの持つ特性を理解し,必要に応じて得られた情報を取捨選択する力 ③批判的に思考する力 ・・・批判的に情報を読み解き,論理的に思考する力 ④目的に合わせてメディアを活用する力 ・・・情報を整理し,目的に応じて正しくメディアを活用していく力 ⑤責任をもって発信する力 ・・・情報が社会に与える影響を理解し,責任を持って適切な発信表現ができる力 |
の5点があるのではないかという結論に至りました。
私たちの考える「子どもに育てたい力」の5点は,旧来の情報活用能力に示す観点を網羅しつつも,15年前にはあまり取り上げられなかった「相手意識」について強調されています。つまり,個人が直接情報をやり取りする機会が増えた今日の社会において,今まで以上に「相手意識」に重きをおくことが必要であるということなのです。
4.MC(メディア・コミュニケーション)科の目標
社会生活の中から生まれる疑問や課題に対し,メディアの特性を理解したうえで情報を収集し,批判的に読み解き,整理しながら自らの考えを構築し,相手を意識しながら発信できる能力と,考えを伝えあい・深めあおうとする態度を育てる。
5.メディアとコミュニケーションの関係
6.教科における子どもの学びの姿
右の図「学びのイメージ」は,これらの考えをもとに,メディア・コミュニケーション科における子どもとメディアの出会いや学びの流れをイメージ化したものです。
疑問や課題と出会い,自らすすんで情報を集め,比較・整理・分析をしながら自らの考えを構築し,メディアを活用しながら発信・表現し,討議を通してさらに考えを深めていく。この一連の活動の中で,メディアを効果的に活用し,相手の考えを共感的に理解しながら,自らの考えを深め,発信していける子どもの姿をこの教科を通して探っていきたいと考えています。そして,わたしたちの理念でもある「子どもの側から教育を発想する」ことを,この新教科にも求めながら,日々の授業実践を行っているところです。
6.実践研究発表会について
メディア・コミュニケーション科の開発研究は,文部科学省の研究開発指定を受けて2年目になります。今までの実践の成果と,今後の情報・メディア教育の課題について,平成25年2月8日(金)に全学年公開の実践研究発表会を予定しております。
実践研究発表会の詳細・申込み等につきましては,本校HPを参照ください。
http://www.kyokyo-u.ac.jp/MOMOSYO/kennkyuu-gennzai.html
写真は 効果音を使った学び(2年生)