読書・情報リテラシー

高校1年「大学をめざす君のための図書館利用講座」

2014-01-19 11:24 | by 村上 |

  都立国分寺高等学校では、高校1年生を対象に、「大学をめざす君のための図書館利用講座」を図書館司書が行っています。近年それが定着し、教員による新たな試みも始まりました。そこで、今回は、司書の宅間由美子さんに、この講座について執筆をお願いしました。

本校では、1年生HRの時間に行われるCG(キャリアガイダンス・進路指導)の年間プログラムの中で、各クラス1時間、図書館利用講座を行っています。CGは1学期には適性検査や進路講演会、夏休みにはオープンキャンパスの課題などがあり、2学期後半に進路遠足と呼ばれる希望分野別コースに分かれた大学訪問が行われます。進路遠足の前には大学や学部について各自調べ、遠足後はプレゼンテーションの発表があります。その後3学期には具体的に進路志望学部や学科を考え、志望理由書を書く実習などがあります。進路遠足の時期や分野別コースの形態は年度によって異なりますが、図書館の講座は進路遠足後の時期に、各クラス1時間ずつ確保されていて、図書館に来て授業形式で司書が行います。

 内容は「自分が大学生になってレポートを書くとき、どのようにするか」という擬似体験をするという設定で、レポートの書き方のルール、図書館の請求記号・分類のしくみ、検索方法、資料や情報の種類、参考文献リストの書き方、等について学びます。オリジナルの説明プリントを使い、ワークシート1枚の作業をしながら進めます。


  最初に進路遠足で自分が行った大学の学部、あるいは自分が進もうと思っている専門分野についての本を1冊、館内で探してもらいます。その際「今日はその本を実際読んだり調べたりはしないので、自分が大学生になったらこんな専門書を読むのでは、というつもりで難しめの本を選んでくるように」指示します。各自1冊選んだら、「それでは今日はみんな大学生になってその本を使ってレポートを書く、という擬似体験をしてもらいます」と言って作業を開始します。

 まず、レポートの書き方について説明。必ず複数の資料を使い、必要なものを選択すること、自論をたてること、参考文献リストをつけること、を強調します。そのために本を探すのに役立つのが図書館の分類のしくみである、として、司書が持ってきた心理学の本をモデルにして請求記号のしくみ、分類のしくみを説明。生徒は自分が選んだ本の分類番号がNDCのどの分類かを調べてワークシートに記入します。その際、自分の進みたい分野がどのような学問体系の下にあるかも意識してもらいます。

 次に、資料の検索法について説明。コンピュータで検索する際には件名が役にたつことを強調します。高校生は書名や著者名で検索できることは知っていても件名検索のことは案外知りません。ヒットした資料の表示画面の見方を説明、特に大きな図書館では「配架場所」に注意するように強調します。大学図書館には利用者が入れる開架書架よりもずっと大きな書庫があり、みんなに見えていないところにも図書館は広がっているのだと意識してもらいたいのです。本校は閲覧室から司書室を通して書庫の扉が見えるので、当日は扉を開けておき、あそこが本校の書庫だ、と言って少し見せます。

 その後、レポートを書いたら最後に参考文献リストをつけることを説明。その際に必要な書誌事項は奥付から得ることができること、それを一定のルールで参考文献リストの形に書くことを説明。ワークシートに自分の本の書誌事項を記入してもらいます。WEBサイトを参考にする際のルールについても司書から説明をします。続いて情報の種類について、出版物からインターネットまでの情報の特徴と利用上の注意点を説明、特にウィキペディアについては注意が必要なことを話します(これは担任サイドから入れてほしいという要望がありました)。




  最後にレポートを書くのに使った本にも、著者が使った参考文献リストがついていることを説明。各自の本の参考文献記載ページを探し、ワークシートにそのまま写すよう指示をします。選んだ本に参考文献が載っていない生徒には、参考文献がたっぷり載った本を用意しておき、それを使ってもらいます。「英語の本なら英語で、ロシア語の本だったらロシア語を写して!」と言うと、生徒たちは、参考文献欄に並んだ本の多さに「こんなに書けない~」と悲鳴を上げます。「みんなもレポートや卒論を書くときには、このくらい多くの資料を使って調べるようになるんです」と言って、講座を終わります。

  各クラス40名の生徒が選んできた本を最後にブックトラックに返してもらって眺めるとなかなか興味深いものがあります(プリントには書架に返してくるように書いていますが、実際そうすると本が乱れてキケンすぎなので、集めてこちらで書架に戻しています)。このクラスは案外理系が多い、とか理系かと思ったら文系だった、とか。写真を撮って担任の先生に送ってあげることもあります。

 

 ワークシートの裏面に以下のようなアンケートと感想を書いてもらっています。
  ①図書館の本の請求記号(ラベルの番号)のしくみを知っていましたか
  ②図書館の検索のやり方を知っていましたか
  ③本の「奥付」を知っていましたか
  ④レポートには「参考文献リスト」をつけなければならないことを知っていましたか
  ⑤感想

  ①の請求記号のしくみについては、「学校で習った」という生徒が年々少しずつ増えていると感じています。今の指導要領では図書館の分類等についての指導が授業で扱われているため、知識としては教わるようになってきたのではないかと思います。

  それに対して②の検索については、「図書館を使っているうちにわかった」という生徒が多いようです。小中学校の図書館を見ると、実際に生徒に検索機(あるいはカード)を使わせて請求記号から書架にたどりつけるように整備されてはいる所は多くありません。検索については学校ではなく公共図書館の端末を使ったときの経験でやり方を覚えているのではないかと考えています。

  アンケートでは、「レポートを書くのは大変なんだということがわかった」「大学でレポートを書くのに役立てたい」「参考文献が多いので驚いた」等の声があります。
 

  ワークシートは添削して返却します。本校図書館は分類は基本3桁なのですが、4桁展開している分野の本を選んだ生徒に対してはその説明など書き加えて返します。また心理学希望の生徒が精神医学の本を選んでいるような場合やスポーツ栄養希望の生徒が体育の本を選んでいるような場合も、○○番の所にも関連の本があるよ、と書き添えます。


  2013年度1年CG利用指導 13.pdf

 


  この利用講座は、レポートの書き方や資料の使い方を教える内容になっていますが、実は本当の目的は別にあります。それはCGの流れの中に設定されているとおり「自分の進路・進みたい分野を意識させる」ということです。自分の進みたい分野の専門の書架の前に立たせる、専門的な内容の本を手に取らせる、どんなことがどんな風に書いてあるか中身を覗かせる、そして少しでも読んでみようかなあという気を起こさせる、というのが真の目的です。 

 

 本校では年間を通じて読書課題が多く出されます。それも「本校図書館の新書から自分の興味ある本1冊選んで読む」「国語教科書の近現代文学史年表の作品1点選んで読む」など各自で読む本を選ばせることがあります。図書館利用講座が終わった後のある時期の読書課題では、「各自の志望学部学科の内容に関連する本を1冊選んで読む」というものがありました。一度見ている書架なので、スムーズに本を選んでいる生徒が多く、効果を感じました。国語科の教員からも、以下のような感想をもらいました。

  高校一年生「大学をめざす君のための図書館利用講座」の指導を受けた後は、自分の興味を持った書架をのぞき、その中から選書をしてくる生徒が、たいへん多くなった。指導を受けずに、なかなか、自身の興味を持っている分野の書架をのぞくという行為はしない。また、自分の興味、関心を持った内容についてのレポートをするため、内容の厚みが変化してきた。指導の効果が目に見える形となって現れており、たいへん効果的な講座であると実感した。」      (司書教諭・国語科  神 尚子)

  司書として、関心を持った分野の本を実際に読んで理解を深めてほしい、特に進路選択時、受験する大学や学部を決める際には、偏差値や得意科目だけでなく、関連図書を読み、学問の内容を知って決めていってほしいと願っています。


都立国分寺高校司書 宅間 由美子

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