授業と学校図書館

授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。

先生のひとこと

先生、司書さんはこんなことしてくれますよ!

2013-08-24 07:00 | by 村上 |


長崎県佐世保市立大野中学校 司書教諭 山本みづほ先生にインタビュー!

 今回は、事例を寄せてくださった長崎県佐世保市立大野中学校司書教諭 山本みづほ先生に、お話を伺いました。山本先生は、司書配置以前から、司書教諭として精力的に勤務校の学校図書館の環境整備と、読書教育に力を注がれてきました。写真左は、現在の学校図書館ですが、聞けば、それ以前の学校図書館は活発に利用されていたものの、狭くて使い勝手も悪かったのを、様々な方々の力を借りて、新しい図書館の実現にこぎつけたお話も実に興味深かったので、あわせてご紹介します。


―山本先生は、大野中学校は2度目の勤務と伺いましたが?

旧図書館の風景山本:はい、以前勤務していた時にも、図書館の改造に関して働きかけたのですが、うまくいきませんでした。3年前に再び大野中に異動になったとき、前回私が立ち上げたボランティア「パセリの会」のお母さんたちがまだメンバーで残ってくださっていて。再度、新図書館改築移転に挑戦しましょう!ということになり、PTAと市会議員を巻き込んで、4階隅っこの図書室に昼休み100人以上の生徒がごった返しているところをみてもらったり、戦略的に動きました。その結果、3階にある第2図書室なら2教室の壁を抜けるということになり昨年の夏1ヶ月の工事で新図書館ができました。引っ越しも「パセリの会」の皆さんが、計画的に準備してくださって、本当に助かりました。引っ越し当日は、全職員と部活動の生徒で大移動。その後の整理もボランティアさんが来てくださって。「パセリの会」のメンバーには、多才な方々が多くいらして、その後1月から始まった電算化も、大いに助けてくれました。そこまで準備が整って、4月に司書の梶川(旧姓:前島)さんが配置され。今しかない!という感じで頑張っているところです。(写真左は、かつての狭い図書館の様子です。)



― それは、素晴らしい!ではどのような経過で、佐世保市では試験的な司書配置が進んだのでしょうか?

山本: 平成17年度長崎県内に10名、県が半分人件費を持つので司書配置を希望する市町村はないか?との呼びかけに佐世保市が応募。予想外に希望が少なく佐世保市が4名の枠を手にしたのが始まりです。それ以前に、もちろん司書配置のための要望書を市や県のSLAから提出したり、さまざまな団体の動きがありました。県の事業が終わってからも市の予算で司書配置が進み、24年度18名まで増えましたが、昨年市内76校の小中学校の電算化にお金がかかり、4名減で本年度14名となっています。しかし、電算化で司書のいない学校は、貸出を始めとする図書館の運営が滞り、司書の配置を要望する声がさらに高まり、市もそれに応える形で来年度の配置を考えていると聞いています。

― 最初は山本先生の学校には配置の予定がなかったと伺いましたが。

山本: 教育委員会から、「大野中学校は、学校図書館が活性化し、貸出も多いですから、司書はいりませんね・・・と言われたので、「とんでもない、だからこそ、学校司書が必要なんです!」と声をあげて、なんとか配置をしてもらえたのです(笑)。

― 司書の募集時の資格要件を教えていただけますか?

山本:資格は司書、司書補、司書教諭のいずれかが条件です。1日7時間・年間200日勤務です。現在は一校専任ではなく、2校兼務で拠点校3日、兼務校2日の勤務となっています。

―司書の梶川さんが見えて、まず最初にお願いしたのはどんなことでしょうか?

山本:1年生のためのオリエンテーションのPP作り。季節の展示(部活動にまつわる本)  電算化によって、生徒の個人カードを年度末職員作業で作成した分のラミネートを図書ボラさんとやってもらいました。職員分も合わせて700枚以上なので、たいへんだったと思います。

授業風景―梶川さんが図書館にいるようになって、子どもたちに変化はありましたか?

山本: 週3日勤務なので、まだ慣れていない生徒もいますが、本を話題とした会話を楽しみ一度本を紹介してもらうと、必ず次を求めていきます。「司書がいる」と安心して休み時間に図書館をのぞいたり、教員の私では十分に対応できない、予約・リクエスト本が確実に手にできるようになり喜んでいます。こまめに展示コーナーを新しくしているので楽しみにしている生徒が増えました。3年生は単元が終わると、「梶川先生のブックトークはないんですか?」と聞きます。


― 校内にはこれまで図書館には、あまり関心がない先生もいらしたと思います授業風景が、梶川司書が勤務するようになり、先生方の様子は変わりましたか?

山本:学校司書との協働授業を見てもらうことで、「面白い!」「これやってみたい!」と思う先生方が増えました。資料が欲しいと依頼された先生に、誠心誠意資料を探して提供すると結構次に繋がります。読書好きの先生には、リクエストの小説を素早く購入して手渡すことで、図書館への信頼を得るようにしています。

―具体的にはどんな協働授業をお見せしたのでしょうか?

山本:1年生の「見方を変える」です。梶川司書がベスト電器の袋のBESTの文字がベージュに赤で書いてあり、よく見ると文字が見えるという説明をしたり、だまし絵の描き方を実際に4つのピースに分けた絵を組み替える方法で説明していたときに、美術の先生が通りかかったので呼び止めると、熱心に参観されました。また、俳句の授業での正岡子規の野球殿堂入りの話など国語科教員が思いつかない話をブックトークでしているところを見て、他学年の国語の先生もお願いしたいと言われています。

授業風景― 校内の先生たちは、梶川司書にどんなことを期待されていると思われますか?

山本:よりよい授業をするための資料の準備。授業の導入及び発展学習につながるブックトーク。生徒をうまく読書に導く選書と計画的な書架作り。他の先生たちとのコミュニケーションをうまくとり、信頼される図書館を構成できる力(人間力)でしょうか。

― 学校間の相互貸借や、公共図書館からの団体貸出制度、それに伴う物流などは佐世保市内ではあるのでしょうか?

山本:市立図書館にFAXで「○○に関する本」を何冊で、どんな授業をするということを伝えると、宅配便で1校60冊まで選書して送ってくれます。返却も着払いです。本校は、協力校なので無制限の貸し出し。先日も修学旅行のための京都の本を103冊送ってもらいました。本校に100冊、職員が40冊所有で224名に1人1冊渡すことができました。

― 大野中学校の生徒さんたちが、調べ学習・探究型学習に取り組む時に、ここが今後の課題だ…と感じるところはどんな点でしょうか?

山本: 「何を調べるか」に行きつくまでの訓練がなされていないので、やみくもに○ ○を調べたい!と突っ走り挫折することが多いです。国士舘大学の桑田てるみさんや慶應義塾普通部司書教諭の庭井史絵さんの本(『探究学習スキルワーク』『地理で学ぶ6ステップ探究学習』)から、きちんとワークシートを使って段階的に考えさせると、結構いいものができるのですが。他の先生方の意識が、「調べさえすればいいんです」という感じで、こんな調べ方がありますよ・・・というところを、梶川さんとレクチャーしたいねと話しています。

― 調べ学習・探求型学習が成立するためには、「読書習慣」や「読解力の育成」が鍵となりますが、この二つに関して国語教員と司書の専門性に違いはあると思われますか?

新図書館風景山本:「読解力」に関して国語科教諭は、「この作品をどう教えるか」「この作品は教科書の○○のどれと関連しているか」ということに重きを置いている感じがします。学校司書は「その作品自体の面白さ」「教科書と切り離したところでの魅力」をよく分かっていて幅広い思考ができるように思えます。「読書習慣」に関しては違いはないと思うのですが、「朝読」に関しては、勤務時間前の取り組みで、学校司書は手掛けにくいとの話もありました。

― 司書が常勤となった場合は、司書と司書教諭はどのように選書に関わるのがベストだと思われますか?

山本:司書と司書教諭で、生徒リクエストや職員の希望、授業に必要な本、読ませたい本を話し合いながら決めていけたらベストですね。先週は2人で店頭買いにも行きましたがお楽しみの本は、図書委員を連れての店頭買いもたまに行っています。

― 学校図書館を授業に活用することで、最終的にめざすことはなんですか? 司書の梶川さんにも伺っていただけますか?

山本:私は自分で考え自分で問題を解決しようとする人になって欲しいと思っています。アメリカ人のように、困ったらとりあえず図書館に行ってみよう!というそんな選択肢を持った人が理想です。

梶川:授業をして思ったことは、私自身が、紹介する本を「おもしろい」「紹介したい」と強く思っていなければいけないなということでした。ブックトークでは、流れも意識して組み立てるので、あまり読み込んでいない本でも内容が合うかな~というのを入れたとしても、生徒の反応は薄いです。一方で、自分もはまって読んだ本は、紹介しているときに熱が入り、それが生徒に伝わるようで、反応があります。生徒にたくさん興味を持ってもらうには、私自身がいろんなものに興味を持たないといけないなと思います。
 これから取り組みたいことは、調べ学習での支援です。本に興味をもつことを育てるのがブックトークなら、調べ学習は本を信頼することを育てると思うので、本で調べれば知りたいことがわかるという信頼を持ってもらえるようなことをしていきたいです。調べ学習のスキルを育て、自分で答えを見つけることができるようになることが、生涯教育の場としての図書館利用につながるのかなと思っています。 そのためにも、私自身が調べ学習の方法や、まとめ方、著作権についての勉強をしていきたいです。



 今回、インタビューをさせていただき、学校図書館の働きを十二分に理解している司書教諭と一緒に、やる気のある司書が仕事をすれば、かなり早い時期から確実な効果をあげることができるという実践例を見せていただいたように思いました。今は週3日の勤務ですが、これが毎日常駐となり、継続した勤務が可能となり、待遇面でも改善が図られれば、学校図書館は教育のインフラとして大きな力を発揮するに違いありません。
 電算化のための費用は確かにかかりますが、電算化されたからこそ司書を全校配置し、やる気のある司書教諭と一緒に学校図書館を学びのなかに根付かせ、すべての児童・生徒・先生へのサービスを可能にする取組が望まれます。

 


(文責 東京学芸大学附属世田谷中学校 村上 恭子)


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