授業と学校図書館
授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。
先生のひとこと
文学教育と読書活動 ―狛江市立緑野小学校の取り組み
2014-12-16 15:48 | by 小野寺(主担) |
東京都狛江市立緑野小学校は、学校図書館活動が盛んな小学校です。活発におこなわれている探究型学習の際にも、読書力が必須という考えのもと、さまざまな読書活動が学校全体で展開されています。
今回は、そのなかでもとくに、国語の授業における読解と、学校図書館における読書教育のつながりについて、
司書教諭の田揚江里先生と司書の丸山英子さんにお話を伺いました。
―― まずは、緑野小学校の学校図書館の概要をご紹介ください。
「学校図書館の宝を子どもたちに」をテーマに、下記の4点を学校図書館運営の基本方針としています。
(1)教育課程の展開に寄与する図書館をめざす。
(2)探究型学習の縦系列の表を作成し、全ての教師が指導している学習段階を把握できるようにすると共に担任と
連携を図りながら情報活用のスキル指導をより充実させ、教科学習に活かせるようにする。
(3)本に親しみ、図書館でのマナーを自然に身につける。
(4)心和む施設の充実を図る。
―― 「緑野文庫」という取り組みがあると聞いています。「緑野文庫」のご紹介と始めたきっかけを教えてください。
児童全体の読書の質を向上させるために、「緑野文庫」を設置し、完読を進めています。
低学年の時期にかなりの冊数の絵本を読む児童でも、放っておくと学年が上がるにつれ「軽めな読書」に流れてしまう傾向は否定できません。読書の質を上げるために機会があれば本を勧めていますが、全ての児童に十分に働きかけられるとは限りません。
そこで子どもたちが本を読む目安となる「緑野文庫」を平成21年度2学期から設置しました。 狛江市では、平成18年に小学生の読書リスト『本の森』を作成し、2年生以上の児童に配付してきました。本校でも『本の森』コーナーを設け、リストの本を全て配架しました。「緑野文庫」はそれらのリストを学年に分け、各学年33~36冊を選定したものです。各学年で完読すると、6年間でほぼ200冊読むことになります。
1・2年生は正確に読み取ったり行間を読み取ったりすることの練習に、全冊について「緑野文庫クイズ」が用意されています。今年度は3年生からも要望があり、クイズを作り始めました。
緑野文庫は、選書に困っている児童や、軽めの読書に走っている児童にとっては有効といえます。手の届くところに本のある学校生活をつくるために、各学級にも1セット配架をしています。
また今年度からはリストに工夫をして、「本は心の栄養」というところから「緑野文庫ランチボックス」という形にし、文学がご飯、ノンフィクションや詩・言葉遊びなどがおかずのイメージでレイアウトしてみました。読んだものには本のイラストのついたシールを貼っていきます。
読書力の個人差が大きくなる高学年については担任からの要望でリストを3枚に分けました。3年の緑野文庫までさかのぼり、「これだけは」というものを取りあげて少しずつレべルアップして読み進められるようにしました。5・6年生は三段弁当のリストです。
―― 「緑野文庫」以外に、子どもたちの読書活動を支える図書館活動や学校全体での取り組みがあれば教えて
ください。
学校図書館メディア活用能力育成のための指導内容として、以下のようなものがあげられます。
(1)図書館資料を活用する授業
学習情報センターとしての学校図書館の資料を活用し、学習を豊かにする。
(2)学校図書館メディア活用能力育成のためのスキル指導及び読書指導の授業
①教科学習の中での指導
教科の学習課程の中で図書館資料の利用法を学習する。
②学級活動の中での指導 年間2~3時間
図書館の利用技術を身につけ、教科の学習や読書の学習の基盤を培う。
③読書指導 (教科学習と関わらせて)
☆読み継がれ親しまれている図書や国語科の読書単元から、読書案内をする。
☆簡単な感想を書く読書の記録をつける。
読書の振り返りに必要なことを指導し、活用する。
1学期 読書週間の取り組みとして読書傾向を知り幅広いジャンルから読もうとする意欲をもたせる。
2学期 読書週間の取り組みとして下学年への本の紹介、ブックトーク作成時に活用する。
3学期 本の帯作りで活用する。
☆動機づけの工夫をする。
読み聞かせ、アニマシオン、チャレンジ読書、ブックトーク
学校全体の取り組みとしては、年2回の読書週間があげられるでしょう。
*春の読書週間… 1・2年生「すきな本をみつけよう」
3・4年生「すきなシリーズをみつけよう」
5・6年生「すきな作家をみつけよう」
*秋の読書週間…「ノンフィクションを読もう」
「ノンフィクションをよもう」に取り組み、カードを書いている1年生(左)と5年生(右)
「ノンフィクションをよもう」で、『道は生きている』に取り組 み、グループごとにまとめたことを発表している6年生
どちらも本を読んだあとカードにまとめ、全校分昇降口に掲示して子ども同志や来校者が読めるようにしています。
また、春には全教職員による「読み聞かせバザール」、秋には高学年による「全校読み聞かせ集会」(縦割り班の6年生が3・4年生に、5年生が1・2年生に読み聞かせを行う)を行っています。
秋の読書週間の「全校読み聞かせ集会」で3・4年生に
読み聞かせをするためにグループで練習している6年生
具体的な日々の活動は、特にこの秋からこまめにホームページにアップしていますので、ご覧ください。
ようこそ!緑野小学校図書館へ
―― 教科学習と関わらせた読書活動もおこなっているということですが、教科としての国語の文学教育・読解指
導が果たす役割と、学校図書館が果たす役割は、どのように結びついていますか? また、どのように結び
つくとよいとお考えでしょうか?
・語彙力がない
・単語のみの会話
・想像力豊かに読みとれない
・自分の言いたいことを筋道立てて伝えられない
・筋道立てて考えられない
子どもたちのことばの問題として、このようなことがよく指摘されます。
そこで一つには読書活動を通してことばの力を育てようと考えられています。
しかし、その前に絵本や児童文学を読むことは今を生きる子どもたちにとってどんな意味をもつのかを、私たちは学校図書館の立場から考えなくてはならないと思います。
私たちの目の前には家庭の様々なひずみや生きづらさを抱えている子ども、人間関係のもつれに悩み、気づかいの中で生きる子ども、自分を客観視する力をなかなか育てられない子どもなど様々な子どもたちがいます。
ある子は、絵本や文学の追体験を通し、今まで言葉にならなかった自分の心の有り様がはっきりし、そのことにより周りの人間関係や自己の気持ちが見つめられるようになります。
ある子は、読書を通して様々な価値観に出会い自分のものの見方や考え方が豊かになったりするでしょう。
1冊の本によって自分が癒されたり救われたりすることもあります。読書は子どもたちの生き方を励ますものであり、さらに内言を育て自己内対話の力と共に、子どもたちの内面を育てる可能性をもっています。
読書がもつこれらの世界を、子どもたちに手渡す仕事の中心が学校図書館ではないでしょうか。
しかし、これら読書の力は自然に育つわけではなく、常に子どもたちにはたらきかけてこそ育つものなのです。
そのために学校図書館は様々な取り組みをするわけですが、担任が個人の実践として読書教育を行うこととの違いは、組織として取り組むということです。
そのことにより以下のことが考えられます。
・どの学年でも指導がおこなわれる。
・学校図書館が、発達段階に即した指導を学年と相談しながらおこなう。
・仲間と読み合う楽しさを経験させることができる。
では国語の文学教育ではどうでしょうか。
文学教育はことばで書かれた世界を、想像力を働かせて読むことですが、その過程で子どもたちは自分の考えと友だちの考えをつき合わせて、自分の考えを確かめたり修正したり深めたりしていきます。
書かれていることばや文に即して想像力を豊かに働かせて読みながら、作品の世界を深く味わい、人間の真実や人間らしい姿をその作品世界の中に見いだして、その感動が読み手の子どもたちを育てるのだと思います。この授業の展開は、個々の読みの並列的な発表を指すのではなく、友だちの発言に耳を傾けることによりその人間性や感性にも触れることを含みます。
読みとる力、ことばの力が育つことは、学力の土台がしっかりしたものになることであり、人格を育てることにも
なると考えます。
そしてその力は、図書館の時間の読書指導にも相互作用するといえます。
―― 最近、国語の授業でポップの作成やブックトークなどの活動、関連作品を読むという事例をよく目にします。
こうした授業が広まる一方で、緑野小ではどのような授業がおこなわれていますか?
緑野小では、国語の授業では今のところそういった学習活動はないようです。教材の作者、レオ・レオニ、アーノルド・ローベル、斉藤隆介、あまんきみこなどの作品を、発展学習として学校司書がブックトークをしたり、学年に貸し出すことはよくあります。
図書館の時間に6年生が選書、台本つくり、練習をし、5年生にブックトークを行ったり、3年生以上が1年間読みためた本の中からお気に入りの一冊を選び本の帯をつくって展示したりはしています。
―― 緑野小では、子どもたちの読書力を育てたいという思いを、学校全体で共有していることがよくわかりまし
た。もし、学校図書館が孤軍奮闘しているという学校に対して、教職員でこの思いを共有するためのよい
アドバイスがあったら、ぜひ教えてください。
本当に難しいことですね。学校図書館が教育活動の中に存在しない、「蚊帳の外」にいるような感じを多くの学校司書や司書教諭の方がおもちだと思います。それは学校図書館が必要と考えるような学校体験を一人一人の教師たちがもっていないからだと思います。
しかし「読書は大切である」という認識は、学校のもつ文化として存在します。そこに依拠することが大切だと考えます。緑野小では前任の学校司書の時から、20代から30代の教師に学校司書が絵本や児童文学、ヤングアダルト向きの本を勧めていました。子どもたちに読むと熱中して聞いてくれる本から、教師自身が楽しめる本まで様々です。
つまり、子どもの本の世界にはまってもらう作戦です。たてまえで「読め、読め」と子どもに言うのではなく、本音で勧めたくなるような本との出会いを先生方に体験してもらうのです。そういう先生方を増やしていました。
読書好きの先生の子どもたちはやはり読書が好きな傾向にありますから。図書館の時間の「読み聞かせ」も学校司書がするだけでなく担任にもしてもらう。当事者になってもらうと学校図書館に対する認識に変化が見えてきます。
もちろん基本のところでは「学校図書館運営計画」などを作成して会議にかけ合意を図ることもしますが。
―― どうもありがとうございました。
(聞き手:東京学芸大学附属大泉小学校 司書 小野寺愛美)
追記:いまも活発だった学校図書館の様子を学校HPで見ることができます。(2021年9月22日中山)
図書館だより まなびの広場☆学校図書館
【資料】
緑野小学校図書館計画2014.pdf
運営計画 読書指導2012.pdf
読書指導の工夫と緑野文庫.pdf