今月の学校図書館

こんなことをやっています!

〜神戸市の学校図書館は今〜

2024-08-05 07:23 | by 村上 |

 学校図書館法に「学校司書」という言葉が明記(第6条)されるようになり、全国各地で「学校司書」の配置は、確実に進んでいます。学校司書が入ることで、人がいなかった学校図書館は大きく変わります。それがわかるだけに、全校配置を急げば予算との兼ね合いがあり、神戸市のように当初の1校専任から大規模校を除き2校兼務体制に変えざるを得なかったり、初めから1校の勤務日数を2日から3日に抑えている自治体も少なくないように思います。

 今月は、神戸市の学校司書 菅野佳代子さんに、1校専任から2校兼務に変わるということは、具体的にどのようなことなのかを執筆いただきました。この記事を読み、様々な条件のもとで学校司書が働いている現実があることを理解していますが、どの学校にも1校専任の学校司書が毎日いて欲しいとつくづく思います。(編集部)


専任のち兼務NOW

兵庫県神戸市立中学校司書 菅野佳代子

「学校司書」が「学校図書館法」で法制化された平成26年度(2014年)に神戸市は、小学校20校、中学校10校に初めて学校司書30人を専任で配置し、私はそのうちのひとりとして現在に至っています。

 令和3年度(2021年)まで歌敷山中学校、横尾中学校と専任でしたが、翌4年度から横尾中学校と高倉中学校の2校兼務となりました。そして、4月からは2校とも異動になり、東落合中学校と須磨北中学校の2校兼務の学校司書として勤務をしています。

 最初30人からスタートした学校司書は150人になり、小中学校と義務教育学校243校中専任は57人、2校兼務は93人となっています。(令和4年度現在)つまり、神戸市内の小中学校、義務教育学校243校に150人の学校司書で全校配置を終えたということになります。

 全校配置のための兼務への移行について、全体研修で説明がありましたが、「公教育に不公平は許されない」という言葉が非常に心に残りました。確かに、学校司書の未配置が続いた高倉中学校の生徒は本当に気の毒でした。「ザ・未整備の図書館」ということだけでなく、元々読書の好きな生徒が多い学校でもあり、廃棄されてもおかしくない本を最近まで借りていた形跡を発見したときには胸が痛んだことを今でも覚えています。

 神戸市の学校司書は、専任も兼務も年間勤務できる時間数は同じなので、兼務の学校は学校司書が週の半分しかいません。私の場合月曜日・火曜日は東落合中学校、木曜日・金曜日は須磨北中学校で、水曜日は交互にというシフトを両校の管理職の了承のもとで勤務をしています。

  そのような体制で昼休みの開館がどうなっているのかといえば、学校司書不在の日は閉館か、先生方の当番制での開館か、ボランティアの方が見守ってくだるなかで貸出・返却作業を生徒図書委員が行うなど、各校の事情でバラバラの対応になっています。読書の重要性が謳われながら、朝読の時間がなくなった学校が増え、昼休みが20分から15分になるなど、「本に親しむ」活動は危機に瀕しているといってもいいでしょう。

 専任なのか兼務なのかは学校規模で決められていますが、2校の学校図書館を担当しているということは、職務として選書や注文書の作成、各種報告書などすべて×2ということになります。また職員会議への出席は必須となっていませんが、職員会議資料だけでも読んでおかないと教育活動の流れは理解できませんし、学校図書館からの支援の機会を失することもあり得ます。 

 かつてこのデータベースに授業実践を掲載していただいた経緯もありますので、授業支援についての現状もお伝えします。

 今更ながらですが、授業支援は授業者である先生のねらいをもとに資料・情報を学校司書が提供し、どのような授業ができるのかを計画するところから始まります。打ち合わせの内容は、授業の流れだけではなくお互いの準備の進捗状況や細かい変更など、短い時間であっても顔を合わせて打ち合わせをするのがベストですが、やむを得ずメールでということもありました。

 また授業後の振り返りの共有はほぼできているものの、提供した資料・情報が適切だったのか、学びを深めることにつながったのかを生徒の発表等を聴いて・見ての検証は、現状では難しいです。いまだ図書館を使った授業へのハードルが高いなか、半分の日数しかいない学校司書との打ち合わせが進まないのはある意味自然ですし、体制が整わないなかで学習指導要領の求める「計画的な学校図書館の利活用」は道遠しといえます。

 さらに授業日をどこに設定にするのか、授業計画と学校司書の勤務曜日をにらみつつ決めますが、昨今の大雨による警報発令で課題図書のブックトークが飛んでしまったとか、調べ学習をやりたかったけれど勤務日と合わなくてとか、学校司書不在のまま図書館での授業を実施したとか、不都合や不公平はすでに発生しています。こんなとき、先生と必ず口をついて出てくるのは「専任ならね」という言葉です。(課題図書については、Microsoft Teamsに資料をアップし、紹介しましたがブックトークとは別物です) 

 そんな中でも、昨年度(2023年度)横尾中学校の3年生が「世界を動かした植物―チャ(茶)を中心に」の調べ学習を、高倉中学校では7件の授業支援を実施、そのうち4件が初めての単元・テーマでした。(若い先生たちのやる気に感謝!)なんだ兼務でもできるのではないかとは絶対に言っていただきたくはありません。すべては、専任のときに先生たちと積み上げてきた授業支援の実績と先生たちの授業改善への意欲、そして何よりお互いの信頼関係がベースにあったからこそできた実践なのだと今でも思っています。

 横尾中学校では、社会科が図書館での調べ学習を1年生から継続的に実施してきたこともあり、生徒はいろいろな形態での調べ学習を積み重ねてきていました。が、「チャの歴史」の提供資料のなかに、中学生の調べ学習ではあまり使用しない新書の必要性を授業者、司書教諭と共有しましたので、新書を読みこなすための新たなスキルの指導「点検読書」を司書教諭が実施しました。(使用する新書は用意しましたが、授業に私は参加できていません)なお、「点検読書」については『知りたい気持ちに火をつけろ!探究学習は学校図書館におまかせ』(岩波ジュニア新書 木下通子著 岩波書店)を参考にさせていただきました。 

 16世紀から19世紀までの世界史を「チャ」を通じてまとめるという壮大なテーマに、生徒たちはこれまで学習したことを頭の中から引っ張りだしながら、本や端末を使って調べ、グループでパワーポイントにまとめていきました。紅茶・コーヒーをブラックで味わい、その後砂糖を入れて味の変化を実感するというおまけ付きの学習は、生徒の記憶に残るものになったと思います。実際「大変だったけど楽しかった」という多くの生徒の感想をMicrosoft Forms上で目にすることができました。

 

   この原稿を6月に書いていますが、おかげさまでようやく新しい2校での勤務に慣れてきました。本音のところでいえば異動は1校でも大変なのに、2校は本当に大変です。しかし「住めば都」という言葉通り、お気に入りの場所がすでに何か所かあって、そのひとつが写真にある須磨北中学校の正面玄関のホールです。まず入ってまっすぐ正面に図書館があり、理科室・音楽室も一画にありますので、生徒の実験の様子や歌声が時々聞こえてきます。時を告げるボンボン時計にコゲラが木をつつくドラミングの音がかすかに耳に届くこの空間は本当に心地良いものです。そして日の光が燦燦と降り注ぐ吹き抜けを見上げていると、図書館の「知」の広がりを実感したときと同じような感覚に陥り、なんだか勇気をもらえるようなそんな不思議な空間なのです。

 さて、学校図書館の存在意義や学校司書の職務についてどれぐらい理解が進んでいるのでしょうか。「図書室」で本を貸し出す人、授業支援のための本を集める人としか思われていないのではないでしょうか。 

 本を集めるだけであればこれからの世の中、ロボットでも可能でしょう。子どもたちの読書欲や知識欲に子どもそれぞれの実態に合わせて資料・情報を手渡していけるのは、学校司書がもつ専門性のひとつです。世間一般、このことについて理解されていると感じたことはなく、学校は保護者会や学校運営協議会等で機会をつくって紹介をしていって欲しいものです。また、紙媒体のみならず、インターネットの情報も当然学校図書館で活用するのですから情報センターのバージョンアップは待ったなしです。これからもひとつでも多く、そして多くの先生たちと実践を積み上げていこうとあらためて考えているところです。


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