今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京大学教育学部附属中等教育学校

2024-09-11 10:33 | by 中村 |

 今月は、東京大学教育学部附属中等教育学校の学校図書館を、前司書教諭の勝亦あき子先生と学校司書の井上裕子さんにご紹介いただきます。今から8年前にもこのコーナーに登場している同校ですが、読書・情報・学習支援センターとしての機能がさらにパワーアップし、生徒・先生方の学びの拠点として活用されています。たくさんの素敵な写真とともにご覧ください。(編集部)



1.はじめに

 本校図書館の取り組みについては、2016年に一度記事にしていただきました(こちらを参照)。

 おかげさまで本校図書館の歩みは第54回学校図書館賞実践の部にて奨励賞をいただきました(※全国SLA機関誌『学校図書館』202410月号を参照)。今回は、図書館の中核となる基本的理念はそのままに、新しい風を取り入れて日々更新を繰り返してきた図書館の「今」の姿をできるだけ具体的な画像とともにお伝えしたいと思います。

次年度より数年間、本校の校舎はリノベーション着工のため、図書館を含めて校内の姿が大きく変化していきます。これに伴い図書館もラーニングコモンズとして今よりも学校の中心に近い場所に新たに生まれ変わる予定です。この学校図書館データベースに図書館の画像を残せる機会をいただけて、たいへん嬉しく心より御礼申し上げます。

学校司書が確かな理解とスキルを発揮し、工夫を重ねて図書館を「創る」姿は、次代を担う若手を確実に増やしていると思います。

 

2.「今」の図書館

「今」の図書館の様子を、3つの点からご紹介します。
 

   読書コーナー(コミックとゲーム) 

新着雑誌やコミックに加えて、オセロやけん玉なども楽しめる「読書コーナー」は、様々な学年の生徒で賑わう人気の場所で、昼休みにはこのコーナーを目がけて走りこんでくる猛者もいるほどの盛況ぶりです。空きコマのある56年生(高23)の中には、自習の合間にふっと立ち上がっておもむろにけん玉を始める生徒もおり、気分転換に役立っているようです。お手玉やけん玉が得意な生徒・教職員が多いことも思いがけない発見でした。懐かしい玩具を手にすると、不思議と誰もが笑顔に。手と身体を動かすうちに対話も弾んでいく好循環が、このコーナーで繰り広げられています。

本校の特色ある学習のうち、34年生(中3・高1)が取り組む「課題別学習」では、勝亦先生による講座「人間工学と読書バリアフリー」が図書館で開講されています。

読書バリアフリーやユニバーサルデザインを学ぶ中で、「一体オセロ」と「ルービックキューブ ユニバーサルデザイン」を受講生に体験してもらい、授業後は読書コーナーに常置しました。ユニバーサルデザインを身近に感じながら、手も頭もフル稼働で楽しむことができるため好評を得ています。

一人で静かに落ち着きたい時、友達と一緒に楽しく過ごしたい時。気分次第でいかようにも過ごせる「居場所」が学校図書館にあることの大切さを、カウンター業務の合間に生徒の様子を見守りながら日々感じています。

   

 


   授業支援・成果物

 本校図書館は授業でよく利用されるため(昨年度の授業利用回数:276回)、日常的に様々な授業支援を行っています。公共図書館の団体貸出を利用した資料準備や、生徒が主体的に情報を収集・選択できるようパスファインダーを準備するなど、学びのゴールに辿り着けるサポートを心掛けています。

また、館内あちこちに生徒が授業で取り組んだ作品を展示しています。天井からは、美術の授業で取り組んだヒンメリ(2年生)と立体モビール(4年生)が吊るされ、館内全体が賑やかで楽しい雰囲気に包まれています。友達の作品を見上げてじっくり鑑賞する姿や、かつて同じ課題に取り組んだ先輩からの「今年の〇年生スゴイ!」という声や、「こういうの作りたい!」と、次年度を楽しみにする後輩の声が聞こえてきました。

   「りんごの棚」は昨年度の課題別学習「バリアフリー2023」で取り組んだものです。

 受講した生徒たちが考える「読書バリアフリー」をコンセプトに棚作りに着手し、マルチメディアDAISYや画集、布の絵本などの展示を行いました。年度をまたいで「りんごの棚」は、常設の棚として本校図書館に定着しました。今年度の「人間工学と読書バリアフリー」受講生が「りんごの棚」を引き継いでアップデートするかも!?と期待しています。

このほか、卒業研究の優秀作品や、英語科、美術科、生活デザイン科(家庭科)の成果物を展示しています。全学年が利用する学校図書館は、生徒の学習成果物を掲示・展示するのに最適な場所です。

         
   

 
              

 

 

 

 

 

 

 

 


生徒の日常を全力サポート

レポートや卒業研究などを印刷して提出する際に活躍するのが、図書館前のコピー機です。

 混雑する昼休みや授業の合間の10分休みに駆け込んでくる生徒が多いため、すぐに作業できるよう館内2か所に印刷用PCを設置しています。BYOD導入後は図書館の開館状況に関わらず印刷が可能になったため、コピー機横の机にはスツールを置き、生徒が落ち着いて自分のPCから印刷作業が出来るようになりました。生徒が時間管理できるように、大きな時計も置いてあります。
 ※BYOD:「Bring Your Own Device」の略。個人所有端末を持ち込み、使用すること。

        

 
 図書館入口には、本校書道部の卒業生がしたためてくれた「あいてます」「しまってます」の「めくり」を掲示し、遠くからも開館・閉館状況が一目で分かる仕組みにしています。その隣の「今週の図書館・授業利用スケジュール」は、その週に図書館を利用する授業を記入して、生徒も教職員も把握できるようにしています(写真撮影時、夏休み中のため記入されていません)。OPACの「開館日カレンダー」にも授業利用スケジュールを更新しています。

館内にはOPAC専用のPC3台常時オン、カウンターにもOPAC専用のiPadが1台常時オン、文房具は使用頻度の高いものを厳選して印刷用PC付近にスタンバイ。文房具の横には、3代前の司書が導入した「東京スカイツリー ジャンボ身長計」ポスターが今も大人気で、帰りがけに友達同士で楽しそうに身長を測る様子をよく目撃します。いずれもちょっとしたことですが、忙しい生徒の日常を少しでもサポートできるよう、生徒の動きを観察しながら全力で応援しています。

放課後は待ち合わせ場所にもなるなど、開館から閉館まで終日ざわざわと賑わっています。

 生徒が足を運びたくなる、居心地と使い勝手の良い学校図書館作りに引き続き取り組んでまいります。

 

3.むすびにかえて

 本校では2014年度以降、図書館担当者間で年度初めに基本的な理念を確認し、あとは基本的に歴代の学校司書が自分の持ち味や個性を生かして主体的に図書館づくりを進めてきました。基本的な理念というのは、図書館が市民社会の基盤となる多様な情報を提供する場であること、そして学校図書館が読書や探究的学びや情報活用教育のための「開かれた拠点」であるということです。

一方、司書教諭は、学校全体の教職員の理解推進のため、校内周知にも力を入れ、長期・中期・短期毎の目標や選書基準を年度初めに周知し、全校理解に努めてきました。

 学校司書と司書教諭は対等の立場を尊重しながら信頼関係を構築し、異なる職種の強みを生かした協働を心がけるべきです。ただこれは言葉で表すほど簡単なことではありません。特に学校司書が非正規化した2014年度から2020年度前期までは試練の日々が続きました。残業を避け、勤務時間内でできるよう業務を厳選しても、図書館の授業活用が増えれば業務負担は一気に膨れ上がります。しかし授業活用を制限すると、図書館から人が一気に離れてしまうかもしれない。大きな不安やジレンマを抱えつつ、持続可能な働き方で図書館の必要性をアピールする日々が続きました。本校では2020年以降、少し状況が改善しましたが、働き方についてはまだまだ課題もあります
 
 今後も学校図書館が学校の内外で自らの存在意義をアピールする日々は続くことでしょう。そのためにも仲間内にとどまらず、積極的に外部発信し、理解者を増やしていくことをこれからも続けたいと思います。

     学校図書館改革の変遷については『学校図書館』2024年10月号に記述があります。
       そちらもぜひご覧ください。

  東京大学教育学部附属中等教育学校 国語科教諭(前司書教諭) 勝亦あき子
                学校司書 井上裕子


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