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まぼろしの謎解きブックトーク

2020-03-23 14:47 | by 村上 |

まぼろしの謎解きブックトーク

元国分寺市立第二中学校学校司書 杉本ゆかり

 勤務校では毎年3月、卒業を控えた三年生向けに普段授業をもたない先生方からの特別授業が行われる。

 特別授業①は校長先生の授業、
 特別授業②は副校長先生の授業である。
 特別授業③では、例年卒業生へのはなむけとして学校司書がブックトークをすることになっているということを、年が明けてから初めて知らされた。


  私の前任の学校司書は、月一回のブックトーク研究会に参加し技を磨いてきた方だったので、勤務校では年に一回全学年でブックトークが行われてきていたのだ。

 生徒たちは、市内でも優秀な子どもたちが集まっていると評判で、この一年私は色々な面で驚かされることが多かった。そういった15歳の子どもたちにどんなテーマでどんな本を届けようかと悩む日がしばらく続いた。過去に自分で作ったブックトークの台本や参考にしていたブックトークの本を片端から読み返したが、テーマひとつとってもなかなか、決めることができない。

 学校司書として卒業していく生徒たちに何を届けたいか? 最初の問いに立ち返った時、二つの答えが見つかった。ひとつは、人生において役に立つ情報として様々な本があると伝えたいということ。もうひとつは、義務教育の中での最後の図書館ですごす「図書の時間」を楽しんでほしいということだった。

 そこで、聞く人が受け身になりがちな「ブックトーク」ではなく、参加者で場をつくっていく「アニマシオン」の資料の中から、その二つの目的を同時に実現できそうな謎解きブックトークのアイデアを使わせていただくことにした。 岩辺泰吏先生の提案されているものである。

 『子どもの心に本をとどける30のアニマシオン』(かもがわ出版)中で紹介されている謎解きブックトークとは次のようなものである。

準備として
 ①図書館の中から広範囲におよぶ本を数種類選び一覧表をつくる。
 ②それぞれの特徴を書き出したカードをつくる。
進め方は
 ①会場にあらかじめ一覧表にある本に番号札をつけて並べる。
 ②4〜5人程度にチームをつくる。
 ③アニメーターは次のように説明。「私が読み上げるカードは次の中のどの本を説明しているでしょう。それぞれどの本か相談して回答欄に記入してください。迷ったときは
相談コーナーにいって確認することができます。」
 ④アニメーターはカードを読み上げていく。迷ったときに本を確かめる時間もとる。
 ⑤各チームが答えを発表していき、理由などを述べる。
 ⑥アニメーターが正解を発表する。


 この謎解きブックトークにつかうために私が選んだ本は以下のような本である。

 卒業後の学びにおいて活用できる様々な本として、参考図書からは、『日本国勢図会』と『理科年表』。今後、学びを続ける上でも生きていく上でもとても大事な著作権のことを知ってほしいことから『正しいコピペのすすめ』。現代的な課題についての『くじらのおなかからプラスチック』と難民となった少女の旅をとりあげた絵本『The Journey』を。15歳という二度とない青春の時を悔いなく生きてほしいとの願いを込めて『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』と『十五の夏』を。人と社会の問題をしかと受け止めて前向きに生きる若い世代を紹介したくて『孤独は消せる』『グレタたったひとりのストライキ』などの本を選んだ。

 選んだ本の自己紹介カードと、書影入りのブックリストを作り、本番の準備をしているときに、突然の全国小中学校の臨時休校の要請のニュースがテレビより流れてきた。勤務校の自治体も春休みまでの長期休校が実施されることになった。そして、特別授業はみな中止になった。

 学校司書の特別授業③謎解きブックトークも、できなかったが、紹介しようと思っていた本のブックリストを卒業生に贈るしおりとして印刷した。幸い、三年生は卒業式前に、感染などをさけるためにクラスごとの登校日があり、そのときにしおりを三年生に配布していただくことができた。

   
2020卒業おめでとうございます。なぞときブックトーク完成.pdf

 卒業式までの間、図書館の本を借りていた三年生は、一人、そしてまた一人と学校図書館に本を返しにきてくれた。休校中の静かな学校図書館の中で、静かに彼らひとりひとりと言葉をかわすことができたことは、たぶんこの学校でのわすれられない思い出になるのではないかと思う。

 本のリストは渡したが、学校の本は卒業までに返却し、市内の公立図書館は閉館になり、都立多摩図書館も臨時休館になってしまった状況で、書店はあるとはいえ、中学生と高校生のはざまにいる彼らはいったいどこで、本をかりることができるのだろうかと、このことが重しのように胸に残った春休みだった。

(編集部から)
  中学3年生の顔を思い浮かべながら作った謎解きブックトークを行うことができなかったことはとても残念ですが、せめてこのデータベース上で、皆さんと共有できたらと思い、杉本さんに原稿を依頼しました。全国各地、予定していたことができなかった学校司書さんも多いかもしれません。またいつもの日常がもどってきてほしいですが、子どもたちに本の魅力を伝える方法も工夫しだいなのかもしれない!と新たなヒントをいただけた原稿でした。ありがとうござました。

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