読書・情報リテラシー

―AI 時代 の教育実践と学校図書館 ― 

2019-04-29 23:07 | by 村上 |

学校図書館の学び講座 VOL.2
     
―AI 時代 の教育実践と学校図書館 ― ~平成の末に 考える 読書の 意味~

   今回は東京学芸大学司書部会が後援した講座に参加しての報告をします。12月22日(土)の文科省事業報告会では、帝京大学教授 鎌田和宏先生に「AI時代の教育と読書・学校図書館活用〜学校図書館ガイドラインで創る学習環境と教育リテラシー〜」というタイトルで講演をお願いしました。(この日の講演内容は、「みんなで使おう!学校図書館VOL.10」に収録しています。)たいへん興味深いお話でしたが、まだまだお聞きしたいことがたくさん! そこで、今回の講座が開催されました。



学校図書館の学び講座 * Vol.2参加報告記

 ―AI 時代 の教育実践と学校図書館 ― ~平成の末に 考える 読書の 意味~

日時:2019年3月16日
会場:東京都立多摩図書館セミナールーム
講師:帝京大学教授 鎌田和宏氏


   
  40名の参加者が都立多摩図書館のセミナールームに集合。会場は4人ずつのワークショップスタイル。テーブルには4色のポストイットと、マジック、模造紙が準備されている。まずは同じグループになった同士で、青いポストイットに今抱える悩み事を書いて自己紹介がわりのアイスブレイク。気持ちがほぐれたところで、講演がスタートした。





 最初に、今日の主旨説明がパワーポイントに映し出された。それが次の言葉である。

 

   参加者は、話を聞きながら、自分の色に決めたポストイットに、気になる言葉があったら、書き留めていくよう言われた。鎌田先生のお話は、個人的には以下の言葉が印象に残った。


 2019年正月の新聞は各紙ともAI特集を組み、『AIが人類を支配する日;人工知能がもたらす8つの未来予想図』(前野隆司著 マキノ出版 2018)では、単純労働だけでなく、専門的分野もAIに取って代わられる時代がやってくると言う。内閣府が作った「Societ5.0=超スマート世界」という5分ほどの動画は、来るべき超スマート社会を、テクノロジーの進化がもたらすバラ色の未来として描く。しかし、本当にそうだろうか?落下の危険と背中合わせのドローンによる宅配サービス。医師の過剰労働や検査の数値のみで人を見ない診療につながる恐れもある遠隔医療サービス。過疎地には救世主となりそうな自動走行車だが、事故が起こった時の責任の所在が決まっていない。小売店への電子決済システム導入の裏には、政府が洩れなく徴税する仕組みを作りたいという思惑が透けて見える。介護ロボットの登場は、現場の加重労働緩和と介護される側の心理的負担の軽減が期待されるが、介護従事者の待遇改善なしには、今抱える社会的な問題の解決はないだろう。

 超スマート社会の教育分野を見てみよう。人材育成への期待として、異質性を伸ばす方向性、リテラシーを身につける必要性、文理断絶からの脱却は評価できるが、トップエリート人材の育成、リーダシップ人材の育成は、経済重視の能力主義ではないか。実際の教室では多様性のある子は排除されている。AIには代替できない芸術や音楽の時数は減らされている。体育や健康についてもっと学ばなくていいのか。中央教育審議会の答申をもとに作られた新学習指導要領は、今までやってきたことを減らすことなく、新たなことをやれと言う。1日は26時間になったのか?新たな教員は採用されたのか?現場はあっぷあっぷしている。


 Societ5.0に向けた学校Ver3.0は、学びの時代と位置付けられ、能動的な学び手を育てることが求められる。学校は社会に開かれ、そこでは個別最適化された学びが行われる。たとえば学びのポートフォリをデジタル化することで、能力のある子はどんどん先に行く。ではそうでない子はどうなるのか…。能力主義、経済優先の学校Ver3.0は、かつての中曽根康弘時代の臨時教育審議会のレポートの現代版ではないのか…。

 来るべきAI社会を牽引する人材育成に、共通して求められていることの一つが、文章や情報を正確に読み解き対話する力である。今まで以上に読書は大切になるはずである。物語を読むといった楽しみの読書を否定するものではないが、情報を得るために読むことの大切さをこれまで主張してきた。しかし、この二つは両方大切であり、明確に分けられないことに思い至った。この二つは、生き方を育てる読書へと統合されていく。

 教科書が読めない子どもたちに対して「リーディングスキル学習」を行えば、読解力がつくであろう。しかし、それで本当の意味で「読める」ようになるのだろうか?求められ、つけたスキルは常用しないと剥落するものである。必要感に基づき、使い続けること(=読み続けること)無しには読めるようにならないのではないか。 だからこそ読み続ける人を育てなければならない。何か困ったことがあったら、まず読む、調べる。本は、読み手の力によって読み取れることが変わっていくものである。

 私たちのコミュニティは、様々な人に支えられている。これからの10年にはたくさんの課題がある。与えられた知識だけでは解決できないからこそ、読んで調べて、吟味し代案を考えることが必要である。調べること、読むことは今まで以上に大切になる。



 文科省報告会では、鎌田先生は、読書の定義を見直そう、「知識を得る読書、情報を得る読書」も読書と考え、教科の学びの中に「読むこと」を取り入れていくことの必要性を話された。しかし今回は、どちらか一方ではなくどちらも大切であり、それらが統合され生き方を育てる読書となっていくと話された。そのどちらも扱う学校図書館にとって、とても納得のいく言葉だった。

 休憩後、グループごとに書きためておいた付箋を①これからの社会、②これからの学校、③これからの読書・学校図書館のことに分けて貼りながら、それぞれの気づきを話し合い、1枚の図にまとめる作業をした。それぞれの持つ問題意識が、鎌田先生のお話を伺うことでよりクリアになり、どのグループでも活発な話し合いが行われていた。


    最後に全員が、今日の振り返りを、できるだけ短い言葉にして提出した。まさに平成の終わりに、あらためて読書の意味を考える機会となった。

 



























 
 「読む」こと、「読み続ける」ことは、考えること、考え続けることでもある。何が求められるかわからないからこそ、デジタル、アナログに関わらず、古今東西のコンテンツにアクセスできる学校図書館が、学校の中にあることの意味を多くの人たちと共有したいと思う。

                 文責 東京学芸大学附属世田谷中学校 村上恭子



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