読書・情報リテラシー

「生徒の主体的探求学習を支えるパスファインダー」を目指して

2020-09-01 13:51 | by 村上 |

 今回は、2019年9月の「今月の学校図書館」に登場いただいた、世田谷区立瀬田中学校の学校司書、衛藤北斗さんに、自作の工夫をこらしたパスファインダーを活用した生徒への支援について執筆いただきました。公立中学校の学校司書として、ここまできめ細かい支援をされていることに驚く一方で、瀬田中学校の生徒さんたちは幸せだなと思いました。他校のいい実践はどんどん取り入れ、自校にあったものに変えていけたらいいですね。衛藤さんに許可を得て、提供いただいたファイルはダウンロードできるようになっています。(編集部)



1.コロナ禍でも生徒の活動を支える


 2020年は、図書館という施設に何が出来るのかを特に考えさせられた年になりました。利用者と距離を保ちながら交信するツールとして有効だったものの一つが、パスファインダーであったと感じています。 


 同じ発行物でも、図書だよりでは楽しく読書活動をしてもらえるよう広く情報を扱いました。たとえばステイホームのために電子書籍で購入できるかどうかや、インターネット内にある諸組織の公式動画のアドレス紹介などです。それに対して「パスファインダー」は、一つの単元やごく狭いテーマを深掘りする助けになるよう心がけました。臨時休校中に動画で授業配信がされ課題も出されていたとはいえ、やはり対面して助けを得られない事で生徒や保護者が不安を感じている様子が伝わってきたのは私だけではなかったでしょう。パスファインダーは学校図書館でレファレンスに次いで学習を支える助けとなり得るという事は容易に想像がついたので、これを活かそうと考えました。


2.学校図書館全体をベースアップする媒体として

 特定の主題についての探求を助ける「パスファインダー」の作成は、私がこれまでに関わった学校の多くで提供してきた図書館サービスでした。中学校の各教科全単元と、校外学習に添ったテーマ(奈良・京都、歌舞伎など)については過去に作成済みです。作り手から見て、こうした発行物の良さはストック性にあります。図書担当教諭や司書が変わってもサービスの質を維持できる可能性が高いですし、作った本人にしてみれば次に担当する学校でもある程度の質を保ちつつ再スタートできます。学習指導要領や学校の指導方針、学習単元に変化があっても、一度作ったことがあるテーマの原稿は微修正で済むことがほとんどです。 


 もちろん前任者の制作物があったとしても、司書は著作権への理解が深いので丸写しやコピー利用はしないでしょう。多かれ少なかれ修正を加えてから発行するに違いありません。それでも、書架を見ればその学校が経てきた活動が読み取れるように、パスファインダーが最近の様子や特徴を引き継ぐ際の有用なメッセージになるのではと考えます。


 今回例としてあげさせていただいたものは公立中学校の生徒に向けて編集していますが、世の中には専門的な研究の手がかりとして耐えうるレベルのパスファインダーも見られます。個人的には、レファレンス共同データベースと同じくらいにパスファインダー共同データベースが欲しいくらいです。

3.利用者に寄り添うレイアウト

 統計を取ったわけではありませんが、公共図書館では紙の片面ないし両面にそのまま項目を列挙して印刷したチラシタイプが多く見られるように思います。紙面のすべてを一覧できて、地域の広報などと一緒に設置できるので利用者の目につきやすく、手に取りやすくなるからでしょう。

 私が作成しているのは、A4紙を半分に折りたたんで冊子のように見せるリーフレットタイプです。これは本と一緒にコーナー展示をしていることと、サイズが小さくなり見た目がより可愛らしく感じられるためです。特に小中学校では、親しみやすさは重要です。小学校では漢字を使う際は総ルビにしたり、対象学年までに習う常用漢字のみを使用して文字を大きめにするなどの工夫もしていました。また生徒の用途として、必要に応じて紹介本リストの部分を切り取ってノートの片隅に貼るといったアイデアも推奨しています。学習単元や課外活動に絞ったテーマで作成している意義が、ここで表れます。

 情報をコンパクトにまとめるにあたっては、博物館・美術館の展示案内やスーパーマーケットで配布されている料理レシピのレイアウトが参考になりました。POP作りがお好きな方は、パスファインダーにも力を発揮できるのではないでしょうか。


4.探求の門に掲げる道しるべ

 教科単元に添う場合、中学1年生向けパスファインダーの表紙には次のような解説を載せています。

「Pathfinder(パスファインダー)とは、あるテーマについて調べる方法や役立つ資料を紹介した『調べ方の案内リーフレット』です。今回は1年生で習う○○の学習に役立つ情報源の一部を紹介します。実際に本棚に足を運んだら、もっとすごい発見があるかもしれません。ぜひ図書室に来て使ってみてください。」

 入学時のオリエンテーションで説明はしているのですが、「パスファインダー」「レファレンス」などの専門用語は図書館側で使っているものですから、これから情報を調べようという生徒の頭にいきなり「??」が浮かばないよう気をつけています。むしろ説明を載せることで「何か特別な、変なものがあるぞ」と認識してもらえる効果があるようにも感じます。
 慣れてきた2・3年生になるとサンプルPDFのように学習を振り返るための図を載せたり、枕草子や徒然草のパスファインダーでは文中の一節を記すといった工夫をしました。走れメロスのパスファインダーでは資料リストに長距離を走るコツの本や古代ギリシャ文化の本を載せるなど、内容に遊び心をもたせつつ教科横断を試みました。司書それぞれのアイデアで可能性が無限に広がるのも、学校図書館で作るパスファインダーの良さです。
 
走れメロスパスファインダー.pdf


 調べるための手順をできるだけ追うために、構成の軸を「きっかけの発見」「テーマの認識」「分析」「表現」となるように心がけています。特に校外学習や課外活動のパスファインダーでは、メモ欄を付けてワークシートのように使える仕掛けをしたこともありました。学問・研究としては本来これに加えて「ふり返り・再検証」が望まれますが、パスファインダーの役割が授業支援の手前あるいは導入部分にある場合には、あえて内容を欲張らずに作るのも大事だと考えています。

 特定の主題をターゲットにするという性質から考えても、もし再検証が必要になったら「ふり返りに役立つパスファインダー」を発行すれば良いでしょう。資料リストすら省いて、調べる手順だけを紹介するものがあっても構いません。そもそもパスファインダー内では多くて十数冊しか資料を紹介できませんので、可能ならば追加で量のみを重視した参考資料リストを用意するのがベストです。公立の小中学校でおよそ1万から2万冊弱、私立中高などで数万冊、公共図書館なら十数万冊は所蔵があるのですから、状況に応じた逐次発行を想定するくらいが良いと思います。

5.主体的で対話的な探求のために

 生徒は、興味さえ持てば周りが何もしなくても主体的に深く探求しはじめます。学校司書としては、時に的を絞って、時に多角的に資料を紹介しながら生徒を探求の旅に送り出せることが楽しみです。生徒の興味を拡げることに成功したら、あとは旅の無事を祈るばかり。

 前述の通り2・3年生の教科単元パスファインダーの表紙には「学習ふり返り図」を載せています。裏表紙にあたる最後のページには公共図書館のホームページアドレスやインターネット利用の注意書き、司書の小話を載せました。これは、ふとした時に先生や保護者、地域や学校の司書と対話をするきっかけになればと思ってのことです。学習の話題は、そのまま教科や担任の先生との対話のきっかけになることがあります。インターネット情報の取り扱いについては先生やご家庭の考え方が影響しやすく、パスファインダーを作成する際に教科や課外活動の担当教諭へのインタビューでネット利用を「推奨」するか「制限」するか編集方針が真逆になることさえあります。インターネット利用の可否は情報の得かたに大きく関わりますので、リテラシーを含めてサポートの仕方も自ずと変わるでしょう。

 一方的に提示する発行物にとどまらず、道に迷った時は何度でもパスファインダーに戻って周囲の助け(他者との対話)や自問自答(自己との対話)をする手がかりにもしてもらえたら、という私なりの制作意図をもって取り組んできました。

 パスファインダーの成果は、探求の旅をした生徒たちが記した冒険譚(レポート)に帰結すると言えます。成果を知る機会が得られ、さらにそれを後に続く人たちに紹介できたなら、学校司書としてこれほど嬉しいことはありません。

文責:世田谷区立瀬田中学校司書 衛藤北斗

参考:鹿島みづき/著『パスファインダー作成法:主題アクセスツールの理念と応用』樹村房
   石狩管内高等学校図書館司書業務担当者研究会/著『パスファインダーを作ろう―情報を探す道しるべ
 (学校図書館入門シリーズ (12))』全国学校図書館協議会
   桑田てるみ/著『思考を深める探究学習: アクティブ・ラーニングの視点で活用する学校図書館』
全国学校図書館協議会



 以下はサンプルとして衛藤さんからいただいたPDFファイルです。(「今月の学校図書館」で紹介したファイルも含まれています。)

  絵本をつくろうパスファインダー.pdf      
  走れメロスパスファインダー.pdf
  式の展開・因数分解パスファインダー.pdf
  過去形・過去進行形パスファインダー.pdf
  校外学習お助けシート.pdf
  マンダラチャート.pdf
  マインドマップ.pdf
 

 さらに、この記事を読んで、実際にパスファインダーを作ってみようかなと思った人のために、すぐに使えるワードファイル(=パスファインダー マトリクス)も、衛藤さんから提供いただきました。
こんなパスファインダー作っていますよ!という紹介や、今回新たに作ってみました!という情報をぜひ編集部までご連絡お願いします。衛藤さんのおっしゃるように、パスファインダーのデータベースが作れたら素敵ですね。

  
パスファインダー マトリクス.doc

 衛藤さん、ありがとうございました。(編集部)



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