読書・情報リテラシー

『それゆけ!論理さん』(筑摩書房)国語科と論理の学び

2019-04-06 06:05 | by 村上 |

学校図書館の学び講座Vol.1 新しい学習指導要領の理解のための学習会  その2



前回に引き続き、「学校図書館の学び講座」第一回の報告を掲載します。この講座では、学校図書館の理解、運営や活用、実践のために、学んでみたいと思うテーマをその都度取り上げて、学習会「学校図書館の学び講座」を行なっていくことを予定しています。

第一回の午前の部では、2018年10月に発刊したばかりの『それゆけ!論理さん』(筑摩書房)の著者、仲島ひとみ先生をお招きしました。論理学の入門のお話と、あわせて高校国語科のカリキュラムについてお話ししていただきました。

 参照:高校生のための論理学入門漫画教材 2012/こちらにもとになった4コマ漫画の一部が掲載




学校図書館の学び講座 * Vol.1 参加報告記 午前の部 
        

 『それゆけ!論理さん』(筑摩書房)国語科と論理の学び
   日時:2019年2月24日 9:30~12:30
   会場:筑波大学附属小学校図書館

    講師:仲島ひとみ氏 (国際基督教大学高等学校 国語科教諭)


 仲島先生からは、1「自己紹介」、2「論理って何だろう+学習漫画『それゆけ!論理さん』の紹介」、3「新学習指導要領と論理」、4「これからの国語科と図書館と論理の学び」の流れでお話をいただきました。


1「自己紹介」

仲島先生は、大学院生時代は日本語学を専攻していたそうです。院生時代に非常勤で学校教員をしていた際に、教えることが好きだと自覚し、修士課程修了後教員になりました。初任校の同期にはaskomaさんがいらっしゃいました。昨夏発刊されたaskomaさん翻訳の『イン・ザ・ミドル』(三省堂)(*1)でも、一部仲島先生がイラストを描いています。初任校ののち、国際基督教大学高校(以下、ICU高校)に移り、日本初となる高校の「ライティングセンター」(*2)を立ち上げました。


  *1 ナンシー・アトウェル著/小坂敦子・澤田英輔・吉田新一郎 編訳
   
『イン・ザ・ミドル』(三省堂)2018年8月

  *2 ICU高校ライティングセンター


2「論理って何だろう+学習漫画『それゆけ!論理さん』の紹介」

1) 論理学とは

仲島先生のお話によると、「論理」とは「論」が言葉で、「理」が道を意味していることから、話の筋道のことであり、「他者と共有可能な対話の土台」であると。狭義には「前提結論」と展開しながら揺ぎ無い結論を導き出す流れ(「演繹」)です。しかし、広義には他の可能性もある「推測」を含み、国語が扱うのは、もっぱら広義の論理(おおむね「ムリの無い進め方」)になるそうです


2) ICU高校での実践

ICU高校の2/3は帰国生、あとの1/3の中にも小学時は海外で生活していたなどの隠れ帰国生が含まれていて、国語を苦手とする生徒が多いこともあり、それらの生徒が国語にとっつきやすいようにマンガを用いることにしました。その題材として、野矢茂樹『論理トレーニング101題』(*3)をベースとした4コママンガを授業プリントとして作成し、授業を行ってみたところ、生徒にも好評で手ごたえを得ました。加筆や修正をくり返すうちに定番教材ができ、他の教員も用いてくれるようになり、今では学校で共通に用いる教材として扱うようになっています。

 この仲島先生のマンガを使った教材で論理を教える国語の授業を、ウェブサイトでいちはやく紹介したのが「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース(以下、「学校図書館活用データベース」とする)」(*4)です。

*3 野矢茂樹『論理トレーニング101題』(産業図書出版)2001年5月

*4 学校図書館活用データベース>読書・情報リテラシー> 2012/10/13「高校生のための論理学入門マンガ教材」 


3) 書籍化へ

マンガ教材を用いた授業の紹介記事を「学校図書館活用データベース」に掲載することになり、マンガの元となった『論理トレーニング101題』の野矢先生に許可をとろうとしたところ、野矢先生の元に出入りする編集者の方の目に留まり、仲島先生著、野矢先生監修として書籍化する運びとなりました。子どもの頃よりマンガ家を目指していた仲島先生は奇しくも、このような形でマンガ家として著作を出すこととなったわけです。

ところで論理学は、「論理学入門」と題していてもなかなか難しい場合が多いです。そこで野矢先生と相談し、入門より手前の「門前」論理学を目指して作成することにしました。具体的には大学一年生の授業で使えるレベルを目指しました。そのため、高校の授業プリントよりは、広い範囲を扱うことになりました(その結果、マンガはほぼ書きおろすことになったそうです)。

書き進めながら、当初は無かったキャラクターを設定することにし、野矢先生モデルのカメキ先生が誕生しました。カメキ先生は『それゆけ論理さん!』の前に出版された野矢先生の『大人のための国語ゼミ』(*5)に先だって登場していた四人の高校生たちとともに、新キャラクターとしてデビューを果たしました。

余談ですが、マンガが大好きなカメキ先生(野矢先生)は、『それゆけ論理さん』の内容だけではなく、マンガのネタや絵にもご意見をたくさんたくさん出されたそうです。

そして、夢のマンガ家デビューを果たした仲島先生(*6)としては、マンガ部分に関しては、ぶっちゃけ「笑ってもらえればいい」と思っているそうです。『それゆけ!論理さん』は発行後、マンガ部分は小学生でも読めると好評で、論理を身近なものとして捉える入口の本としての役割を果たしつつ、まさに「マンガ」としての価値を持つ本として、子どもたちにも読まれています。

*5 野矢茂樹著『増補版 大人のための国語ゼミ』(筑摩書房)2018年10月

 


3「新学習指導要領と論理」

 さて、平成30年7月に高校の新学習指導要領改訂について告示がされました(*7)。

仲島先生の指摘する国語に関する改訂のポイントは、主に下記のとおりです。

 ・現代文・古典という時代区分ではなく、論理か文学かといった内容で分けること。

 ・「読むこと」の偏重から脱却し、「話すこと・聞くこと」「書くこと」を充実させること。

 ・実社会に必要な国語の位置づけを重要視すること。

 ・「現代の国語」や「論理国語」の科目で、情報や論理に言及していること。

 また、それらの問題点を、大きく二点指摘いただきました。

 ・単位数の問題:「論理国語」「文学国語」「古典探究」「国語表現」各4科目×4単位からの選択になる。授業時数の関係で、4科目すべて履修するのは難しいため、「古典探究」プラスもう1科目となった場合に「論理国語」か「文学国語」の選択を迫られる。受験のために論理国語選択の学校が増えると見られ文学軽視の批判が多い。(実際はフタを開けてみないとわからない。)

 ・内容の問題:科目が論理と文学が分けられたように、書くことと読むことの区分、フィクション・ノンフィクションの区分を明確にすることが求められている。相互の行きつ戻りつができない。また、実社会に役立つことを強調され、グラフ表の読みと合わせること、契約書等の読みを例示されるが、それが、実社会における「読み」のチカラとなるかどうかの問題がある。

*7 文部科学省>高等学校学習指導要領解説(2018年7月)

 


4「これからの国語科と図書館と論理の学び」

  「現代の国語」は実社会寄りで、「論理国語」は学術寄りの内容になっている。学術寄りの「論理国語」では、高大連携を視野にいれたアカデミック・ライティングへの接続を求められ、情報を収集し、評価し、自分の考えを展開していく力が必要になるそうです。

それを踏まえて「論理」を学ぶという観点では、『それゆけ!論理さん』が目指す入門レベルの論理学を、ワークで学んでしっかり身に着けていく授業に発展させたい。また学校図書館で行われてきた探究学習の蓄積が生きると共に、今後いっそう重みを増していくと結ばれました。

 

質問&感想タイム

何より多かったのは、苦手意識の強かった「論理」が今日のお話で身近に感じられるものになったという内容でした。

また、ICUのライティングセンターの具体的な取組の中身(スタッフや、サポートの内容等)について詳細にうかがう質問もあがり、関心の高さがうかがえました。

  自身の学校や立場にひきつけながら、情報科における「論理」、数学科における「論理」、国語科における「論理」の異なりや共通点や、それらの教科横断的な連携(カリキュラムマネジメント)を含め、図書館における可視化やハブの役割の問題、発達と学びの体系化の問題、情報リテラシー・メディアリテラシーの育み方育てる担い手の問題等があげられました。


生まれたての『それゆけ!論理さん』のイキイキとした誕生秘話(と示された「論理」の理解)で十分に楽しくお腹いっぱいになる内容でしたが、それに加えた後編のお話から、新学習指導要領の内容にあたりながら、これからはじまる教育現場の変化を見据えて学校図書館は何ができるのか、考える好機を得ました。

個人的には、『それゆけ!論理さん』の続編や、拡大バージョン、発展バージョン、より小さい子向けバージョン等々、次なる展開を心ひそかにわくわくと期待しております!

 

報告 筑波大学附属駒場中学校高等学校司書 加藤志保



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