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「これならできる自由研究」〜丸山英子さんの仕事から〜

2021-08-03 06:59 | by 村上 |

編集部より:東京都狛江市は、早くから学校司書を配置し図書館教育に力をいれてきました。その中核となって活躍し、他の自治体からも講師として呼ばれることも多かったのが、学校司書の丸山英子さんです。その丸山さんが、病のために急逝されたのは、2017年3月9日のことです。それから4年、丸山さんと一緒にお仕事をされたみなさんが中心となって、追悼の思いを込めた冊子が出来上がりました。全ての方々に、手にとっていただきたい貴重な内容ですが、今回はそのなかに掲載された「これならできる自由研究」の部分を、丸山さんと一緒に取り組んだ、元狛江市立緑野小学校司書教諭 田揚江里先生にご執筆いただき、あわせてテキスト部分もPDFファイルで提供いただきました。


 この学校図書館データベースで何回か実践を紹介させていただいた東京都狛江市立緑野小学校の学校司書であった丸山英子さんがご病気で亡くなられて4年になります。コロナ禍で1年遅れになりましたが、この3月に「私、この仕事が大好きです 子どもと本をつないだ~学校司書・丸山英子さんの実践記録~」の冊子が出来上がりました。

 丸山さんの仕事について実践資料を基に学校司書や司書教諭、公共図書館司書がまとめたものです。彼女と関りのあった方々からの寄稿と合わせてお読みいただき、彼女のめざした「学校図書館」をお伝えできたらと思います。また子どもと本をつなぐ学校図書館、学び方を学ぶ学校図書館をつくるために日々悩みながら奮闘されている学校司書の方々に役立つ資料も加えました。

 丸山さんは勤務校の学校司書としてだけでなく、求められれば他区の学校でブックトークの授業を行ったり、他の自治体で教育委員会が実施する学校司書研修の講師を務めたり、日本子どもの本研究会の会員として機関誌の「子どもの本棚」や親子読書地域文庫全国連絡会の機関誌「子どもと読書」にも度々執筆しておりました。ご自身も全国各地で開かれる研究大会などに足を運び、学んだことを取り入れることにも熱心でした。

 今回は冊子の資料の中から「これならできる自由研究」について紹介させていただきます。

「これならできる自由研究」ができるまで   

 緑野小学校は学校図書館の利活用がかなり進んでおりましたが、系統的に探究型学習のスキルを学ばせるには至っておりませんでした。「課題のたて方」指導には着手出来ていても、まるごと探究型学習について学校図書館で指導することはなく、どのようにしたら全ての子どもたちがスキルを身に付けられるかをずっと考えていました。

 教師たちは何気に、「何でもいい、自分の関心のあることをやってみよう」と課題に出しますが、子どもたちや保護者にとってはかなり重荷の「この自由研究を使わない手はない!」と考えました。学年の先生方に「自由研究の方法を指導したいがどうでしょうか」と提案すると「是非!」と賛成していただけました。

 はじめの年は4年生から6年生を対象に行いました。栽培や飼育、見学などの体験から生まれた疑問は「どうしても知りたい」という気持ちが長続きするものですが、「自由研究」のように机上で考えた、または考えさせられたテーマは、ちょっとした壁に突き当たると簡単に変えたくなりがちです。ですからなるべく自分と関りのあることがら、常日頃から興味のある分野をテーマにするように働きかけました。先ずは共通の大テーマで仮の課題設定の練習です。

【課題設定】

 4年生は理科で天気と1日の気温の変化を学習し終わったころでもあり、「天気」を大テーマにマンダラートを作成させました。「天気」は日常生活と関わっているのでどの子も8マスを埋めることができました。

 私たちは、たまたま誰も書かなかった「風」を中テーマにしてドーナツチャートの見本を作成しました。テーマが「風」ですから風について4年生が知りたいであろうことを5つの項目にしてみました。項目は「?」のつく疑問文にします。

・風はどうやってできるのか?
・風はなぜ透明なのか?
・風の強さはどうやって表すのか?
・春はなぜ風が強い日が多いのか?
・風を表す言葉にはどういうものがあるのか?

【情報収集】
 次に1項目1枚の情報カードを作成しました。5項目を全て調べることができました。

 ここでハタと止まってしまいました。3年生くらいまでは「風」について自分の知りたいことを調べてまとめて報告する「疑問解決報告型」の探究学習で良いと思いますが、4年生以上は調べて分かったことに対して自分なりに考えたこと「意見や主張」が求められます。
「知りたいことはすべて分かった、だから?」この先が進めないことに気がつきました。調べた項目は、科学が解明したことや自然を表現する言葉の世界を広げたわけなので、そこに意見を述べることはできないのです。このテーマでは先に進めないのだと私たちが気付かされました。

 その先はどうぞテキストをお読みいただければと思います。


【夏休みの取り組み】

 資料1にあるように夏休み前に「課題設定」「調べる方法を決める」までを決めさせました。夏休みはプール教室のある日は学校図書館を午前中開館しました。学区域に公共図書館がないことも一つの要因です。

 そして調べる環境を整えるために2つのことをしました。
 ①誰でも学校図書館である程度調べられるように学習情報センターの資料は夏休み中の本の貸出対象にしない。
 ②学校司書だけではなく1~2人先生方に当番で学校図書館に入っていただき、指導に当たる。

 子どもたちはプールの前後に図書室に寄り調べていきます。困ったことがあれば学校司書や先生方に相談します。そんな姿が8月初旬まで見られました。スキルを練習したからといって簡単なことではありません。子どもたちにとって毎年毎年が積み重ねです。

 「これならできる自由研究」の内容も毎年子どもたちの成果物に目を通したり、実際取り組んで困ったことは何かなどを子どもたちや指導に入った先生方に聞いたりし、身についてきた力と課題を考え、資料2のようなお便りを先生方に配付していました。
 
【最後に】

 司書教諭として学校司書の丸山さんと組んだのは4年間でした。
 司書教諭と学校司書の協働といわれますが、校内組織の学校図書館運営委員会の先生方も加わって先進的な学校の取り組みを何とか取り入れられないか、学校のライフラインとしての学校図書館づくりはなど時間がいくらあっても足りない4年間でした。

 丸山さんは明日の授業準備に追われるような日々の中でも、さらに先を見ていたように思います。「学校司書は私の天職ですから」と言い切って最後まで現役であり続けました。

 冒頭に紹介した「私、この仕事が大好きです 子どもと本をつないだ~学校司書・丸山英子さんの実践記録~」の冊子は、当初様々な研究会などで置かせていただくつもりでしたがコロナ禍で見通しが立たないため、第一次の作成数は手渡しできる方の範囲にせざるを得ませんでした。コロナ感染が収束した時には資料を増やして…ということも考えています。実現しましたら研究会などで手に取っていただければと思います。

「これならできる自由研究」の部分だけをこのデータベースに載せていただきます。
 もしご使用になられる場合はPDFファイルの最後10ページ目に書かれていることをお読みいただいてご使用ください。
 また、現在の緑野小学校は管理職をはじめ教職員の入れ替えもあり、ここに紹介した実践とは異なっていると思います。
           (文責 元東京都狛江市立緑野小学校司書教諭 田揚江里)

   「これならできる自由研究」.pdf   田揚先生のご好意により、全文提供いただきました。

          資料1 2017年度「これならできる自由研究」探究型学習指導予定表(データベース用).pdf

   資料2 ☆「これならできる自由研究」について先生方

          追記:いまも活発だった学校図書館の様子を学校HPで見ることができます。
    図書館だより  まなびの広場☆学校図書館

                      

 このたび、田揚江里先生に、学校司書の丸山英子さんとつくりあげた実践をこのような形でご提供いただけたこと、心より御礼申し上げます。志半ばにして急逝された丸山さんには、まだまだやりたいことがあったと思います。教育の流れが「探求」に向かっている今だからなおさらです。一方で、GIGAスクール構想下の学校図書館は、大きな岐路に立たされています。でも、この実践は、私たち学校図書館に関わる者たちの指針となるものに思えます。田揚先生の最後の文章にもありましたが、ぜひ著作権に留意して、皆様の実践にお役立ていただきたく思います。(東京学芸大学附属世田谷中学校司書 村上恭子)

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