読書・情報リテラシー

本でつながる、あなたとわたし

2021-02-09 10:04 | by 村上 |

 子どもたちが「本」に出合う場所は、たくさんあります。その一つが、「書店」でしょう。図書館とは少し異なる立場から、子どもと本をつなぐことに情熱を傾ける丸善 丸の内本店 児童書担当の兼森理恵さんに、コロナ禍のなかでの日々で感じたこと、大型書店の児童担当として矜持、今後の展開などについて執筆していただきました。


ねえねえ みてみて

 お客様とお話していて幸せな瞬間は、「あなたって、本当にこの本が好きなのね」と言われたときだ。ああ、つながったなと思う。本を手渡すというのは、想いの連鎖だ。「ねえねえ」「みてみて」とこっそり宝物を見せびらかすように、私は、たくさんの本を手渡してきた。お客様と話すたび、「ああ、私、この本のここが好きなんだなあ」と新たな発見をし、また、好きになる。そんな時間が、私の大切な日常だ。
(写真右:丸善丸の内本店の児童書売場)

 丸善・ジュンク堂のような大型書店は、新刊書のほとんどが入荷するので、実物を手に取って確認することができる。特にノンフィクション系のものは、子どもの本の顔をしているけれど、大人の思想を一方的に植えつけようとしていないか、きちんとした事実が伝えられているかに注意を払っている。必ず複数の児童書担当者で意見を出し合い、置く、置かないを個人的な感情で決めないことも鉄則だ。一番目立つ売場である平積みについても、決して売れるものだけを置くわけではない。書店のスペースは有限。ヒットの影には、チャンスを与えられずに泣く良書もある。

 売れている本は「客寄せパンダ」だと思っている。どんなきっかけであれ、他のメディアでなく、本を選んでくれたことがうれしい。だから私はどうしてその本を選んだのかをいつも聞いてみたいと思っている。そして日ごろから、子どもが好きというものは、なるべく目を通すようにしている。お互いに好きな本をきっかけに話をして、おもしろいと思ってくれたら、こんどは友達にも広がっていくかもしれない。地道だけれど、お客様との会話がすべてのスタートだ。

 2020年春、そんな日常が一変してしまった。「不要」とされるものに紛れて、お客様との何気ないやりとりも、めっきり減ってしまった。なにしろ、人が来ないのである。届ける術を失って、私は初めて本屋やめたいと思った。それくらいの喪失感だった。夏になると、少しずつ、懐かしいお客様が顔を見せてくださったり、作家さんが遊びに来てくれたりして、だんだんと元気を取り戻して……。「声に出して好きなものの話をする」ことが生きる上でこんなに重要だということを、本当に強く認識させられた。

「気になる本」の伝え方
 2020年2月から止まっていた原画展は、6月にやっと再開することができた。ただ、リアル店舗でのイベントは、多くの人に集ってもらうためのもの。今、何ができるのかは、まだまだ模索中だ。この先、店舗のTwitterやオンラインイベントなども含めて表現の場とするならば、自分自身の言葉で、よりわかりやすく伝えていくことが大事になると思う。ちなみにTwitterでは、フェアの紹介以外にも、「#きょうの気になる新刊児童書」というハッシュタグで、注目の新刊をピックアップしている。敢えて「おすすめの新刊」でなく「気になる新刊」として、お客様が実際に本屋で手に取ったときの感覚を味わえるように、表紙や装丁、手触り、帯のコメント、1ページ目を開いた印象など、本が発しているイメージを素直にコメントするようにしている。(写真左上 <原画展> 常設の原画展スペースでは、ゆったりした時間が流れる。)


児童書の生命力を信じて
 また、最近は子どもたちに大人気の「鬼滅の刃」を見て、すっかりハマっている。この作品には、友情、仲間、成長など、みんなを引きつける要素が詰まっているなあと思う。これをおもしろいと感じるのなら、児童書の中にも、その子どもたちに共感してもらえるものはたくさんありそうだ。「鬼滅」をアイコンにして、普段は伝えにくい時代ファンタジーのフェアなどはできないだろうかと妄想している。近ごろは、そんなことも考えられる心にワクワクしている。
 子どもの本には、時代を超えて生きのびる、本質的な強さがある。コロナ禍で『モモ』が脚光を浴び、再び大きく売れたことは、それを確信させる出来事だった。児童書には、未来がある。早く、声を大にして「本屋さんに来て!」と言える日が来ることを祈っている。それまでは、腐らず、発信を続けてゆきたい。ぜひみなさんも、お気に入りの書店の情報をチェックして応援してほしい。










写真左<こどももちゃん棚>
棚には作家さん手作りのこどももちゃんの姿も!





あの人に伝えたい この一冊

 2019年から丸善・ジュンク堂では「BOOK FUN LETTER」というものを開催している。「好きな誰かに、好きな本のことを、手紙を書いて伝えよう」という、いたってシンプルな企画だ。近年、雑誌や書店などで、多くの絵本賞が創設されているが、本は個人個人で感じ方が違って当たり前のもの。だから、順位をつけることに抵抗があった。好きな本って、本当にいっぱいある。私たちが大好きな本たちが誰かに届いて、その誰かからさらに他の誰かにつながって……。一番を決めるよりも、そうやって、本の輪をつなげることのほうが、私たちにとっては大事な使命だと考えたのだ。

 コロナの収束が見えないまま、「BOOK FUN LETTER 2021」がスタートする。参加する子どもたちは是非、感想を口に出してほしい。お父さんでもお母さんでも、兄弟にでも。その本のどこにひかれたのか、自分がどんな風に感じたのか、言葉にすることで、くっきりと輪郭が見えてくるはずだ。きっと、まだまだ、不自由な生活は続くだろう。友達や、遠くに住むおじいちゃん、おばあちゃんに会えない子もいるかもしれない。でも、今感じていることを「次に会ったらこの話をしようかな」くらいの気安さで、手紙に書いてみたらどうだろう。誰かとつながる幸せを、いまだからこそ噛みしめてほしい。

BOOK FUN LETTER 2021
全国の丸善・ジュンク堂書店80店舗で同時開催中(2021/1/20~2021/5/31)
https://honto.jp/book_fun_letter
*応募用紙は、店頭のほか、上記特設サイトからもダウンロードできます。

あとからひとこと

 実は、私は書店員の傍ら、らいおんbooksという児童書のレーベルで、本の編集・制作に携わっています。2020年4月に南谷佳世さん文、大畑いくのさん絵で、『わたしたちのえほん』(文溪堂)という絵本を作りました。この作品は、絵本の中で親子が大好きな絵本を読みすすめる二重構造の仕掛けで、一冊の絵本を通して誰かと語り合うことの素晴らしさを伝えています。「BOOK FUN LETTER 2021」でも、おすすめしていますので、手にとっていただけたらうれしいです。

(文責 丸善 丸の内本店 児童書担当 兼森理恵)


 今回執筆いただいた兼森理恵さんは、児童書担当としてのキャリアも長く、絵本や児童書関連のイベントの講師をされたり、各種メディアで「子どもと本」について発言されています。新刊書のほとんどを、その実物を手にとれる立場にいるからこそ、真摯な姿勢で、本に向き合い、棚をつくり、お客様に接している兼森さん。選書や図書館運営に役立つヒントが、きっとそこにはたくさんあるはず!
 ご紹介いただいた
「BOOK FUN LETTER 2021」は、書店のイベントではありますが、図書館でその本を借りて読んでも、もちろん参加できます。ぜひ皆さんの学校でも、呼びかけてみてください。
(附属学校司書部会 村上恭子)




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