読書・情報リテラシー

「中学生とおとなでビブリオバトル!」

2020-03-06 14:46 | by 村上 |

 石川県白山市は、市内の小中学校全校に、学校司書(正規16名、非常勤11名 ※2020年3月6日現在)が配置され、読書や学校図書館の活用に積極的に取り組んでいます。そのなかでも、松任中学校では、生徒同士だけでなくおとなといっしょにビブリオバトルを楽しんでいるそうです。仕掛け人の元PTA会長東雅宏さんからご寄稿いただきました。




「中学生とおとなでビブリオバトル!」~白山市立松任中学校の取り組み~

白山市立松任中学校 元PTA会長 東 雅宏

1 はじめに

 「中学生とおとなとで語り合う場をもちたい」…中学生が日頃から考えていることや思いを保護者として共有していきたいという思いがPTAにあります。また、PTAから生徒会に投げ掛けた際に、生徒からは、かしこまらずに気楽に話をしたいという意見が出ました。それらの結果、生徒と保護者や生徒同士等の交流を促し、思いを伝え合うため、2013年度当時の松任中学校PTAと生徒会による『中学生とおとなでビブリオバトル!』の企画が始まりました。

2 ビブリオバトルについて

 ビブリオバトルは、参加者各々がオススメの本を紹介しあうゲームです。また、「書籍を媒介としたコミュニケーションの場作りの手法」とも言えます。

 ビブリオバトルのルールは、次のとおりシンプルなものです。
・発表参加者が、読んでおもしろいと思った本を持ち寄る
・順番に1人5分間でその本を紹介する
・各発表の後に参加者全員でその発表に関する質疑を2~3分行う。
・すべての発表が終了した後に、「どの本が一番読みたくなったか」を基準とした投票を行い、最多票を集めたものを「チャンプ本」とする

 このように、特別なスキルを持たなくても、だれもが参加できるため、現在は社会人、大学生、高校生、中学生、小学生など様々な年代で、全国で開催されています。読み聞かせやブックトークなどとは異なり、発表後に参加者全員が「最も読みたくなった本」に1人1票を投じ「チャンプ本」を選ぶゲーム性や、5分間の発表時間とその後の2~3分間の質問時間というプレゼン性が特徴と言えます。

 本の紹介を通して、本の内容だけではなく、その人の考えていることや思いを聴くことができることも特徴のひとつです。これは、5分間という時間の長さがあるからこそできるものだと思っています。

 松任中学校の取り組みでは、多感な時期の中学生たちが、本を介して、生き方についてどのように考えているのか、社会参加についてどのように感じているのかなど、日頃感じている様々なことを語ってくれる機会になりうることに着目しました。


3 松任中学校での取り組み

 中学校で開催されるビブリオバトルには、中学生同士で行う事例のほか、中学生が聴き手で先生方が紹介しあう事例もありますが、私たちの行うビブリオバトルでは、中学生とおとなの双方が本の紹介をするというスタイルです。

 松任中学校のこの取り組みは、2013年度に始めて以降、毎年2回程度、放課後の時間帯に開催しており、これまでの7年間で15回実施してきました。参加は自由としています。取り組みを始めた頃は30人程の参加人数でしたが、以降毎回60人程の参加が続いており、延べ800人以上に80冊近くの本がこれまでに紹介されています。回を重ねるにつれ、生徒会や図書委員会の生徒だけに留まらず、読書に興味のある生徒、「友達が本を紹介するから」参加する生徒、取り組みに興味を持った他校の生徒や教職員、卒業生や保護者も増えてきています。学校図書館を会場とすることが多く、本に囲まれる中、人と人との距離が近いアットホームな空間で毎回行われています。

 中学生とおとなが一緒に参加することで、年齢等による上下の関係ではなく、同じ立場、同じ視点に立ち、思いや考えを伝え合うことができます。さらに、本の紹介だけではなく、お互いの内面に触れることができることや、おとなの言動を中学生が見て真似をすることができるということもねらいのひとつです。
 
 また、この取り組みは、PTAと生徒との共同の取り組みとして行っていますが、学校の全面的な協力により成り立っています。
 元々、保護者の集まりの中で、生徒と話ができる場を設けたいという思いからスタートしたため、PTAでは、ビブリオバトルを通して、子どもに思いを伝えることができ、子どもの思いを聴くことができるという視点で活動していますが、生徒はビブリオバトルによって、「読んでみたい本が見つかる」「新しいジャンルの本に興味が出る」という純粋な思い、学校にとっても、「読書への関心の高まりにつながる」「豊かな思考や表現の基になる語彙力や読解力の向上につながる」といった思いで取り組んでおり、三者三様の思いが重なった取り組みとも言えます。

4 参加者の感想から

 松任中学校の取り組みでは、それぞれの回の終了時に参加した生徒や保護者に自由記述でA5サイズの用紙に感想を書いてもらっています。

 例えば、「読みたい本が見つかった」といった感想や「楽しかった」といった記載が見られる感想が多くありますが、「紹介する人が本当にその本が好きなんだろうなということが、とてもよく伝わってきました」「発表者の話し方が、この本が読みたいと思わせてくれる話し方だった」といったものや「参加者が中学生だけではなく、保護者なども参加しているので、いろいろな人が楽しめる良い取り組みだなと思った」というような互いを理解しようという姿勢がうかがえる感想が毎回出てきます。また、「中学生とおとなが同じ発表者であることが素晴らしい」「年齢に関係なく、本の紹介を通して思いを言い合える場であることが素晴らしい」といった異なる年齢層の場にいることを楽しむ感想も毎回届いています。

 それぞれの感想をさらに1つ1つ丁寧に読み解くことも必要ですが、中学生にとってもおとなにとっても松任中学校のビブリオバトルの取り組みが、読書意欲が高まる機会になっているだけではなく、コミュニティの場として捉えられているように感じます。
 

5 取り組みを通して

 発表者の中には、本のあらすじを紹介した後、5分間という持ち時間を余らせる生徒もいます。それでも、しばらくの沈黙の後、詰まりながらも再度語り始める中で、本を読み感じたことや自身の経験を話し出す姿もよく見られます。中学生たちもいろいろなことを考え、自分の思いを伝える力もあると思います。5分間という「自分だけの時間」を持つことで、その人の言葉で自分の思いや考えを表現できていると感じています。

 また、紹介している人たちの姿を見て、「自分も好きな本を熱く紹介できるようになりたい」と本の紹介を目標にしている中学生も増えていますし、中学生が自分たちだけで催す校内ビブリオバトルも行われています。そうやって人の姿を見て、自分も動いていこうと行動できる生徒が増えていることも嬉しいことです。

 ビブリオバトルは本の紹介者だけで行うものではありません。会場に来ている人たちも一緒になって楽しい時間を作っていきます。おとなの立場からは、「おとなの姿を見せる」ことと「場をつくる」ことが大切になります。発表者が思いを伝えきれていないと感じたとき、質問の時間の中でさりげなくフォローをしてあげられるような姿を見せたいと考えています。そのような姿を中学生は見て、そして真似をします。これからも、「ライブ感」を楽しめる時間を作り、様々な人が関わり合い、一体感のある場にしていきたいと思っています。


  
   原稿を頂いた後、東さんに「チャンプ本の決め方は具体的にはどのような方法で行っているのですか?」と伺ってみました。以下はそのお返事です。

 チャンプ本の投票は挙手です。「ちょっと顔を伏せて~」と促してから順番に挙手してもらい、こちらでカウントしています。発表はチャンプ本のみです。もちろん順位をつけたりはしません。だれでもできるユルさを会場で醸したいので、そのあたりはおおらかに。勝負事にしない雰囲気が「自分(中学生)たちでもできる!」と感じてもらえているようで、 数年にわたる継続や、中学生だけで行うビブリオバトルにもつながっていると思います。

  なるほど!これならあまりプレッシャーを感じず、楽しく参加できそうですね。本を間に世代を超えてコミュニケーションができること、それが中学校の図書館で行われているなんて、とても素敵なことですね。皆さんの学校でもぜひチャレンジしてみてはどうでしょう? (編集部)
               
 


 


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