読書・情報リテラシー

探究学習実践のための基礎・基本

2019-03-14 11:17 | by 村上 |

 今月は、2月に行われた標記の研修に参加された方から、報告をいただきました。講師の塩谷京子氏は、『すぐ実践できる情報スキル50;学校図書館を活用して育む基礎力』(ミネルヴァ書房 2016)』を執筆されています。探究学習についてもっと学びたいと思っている学校図書館関係者も多いと思いますので、このコーナーに掲載させていただきました。


学校図書館の学び講座 * Vol.1 参加報告記  午後の部
 
        新しい学習指導要領の理解のための学習会・午後の部 
 日時:2019年2月24日 13:30~16:30 
         会場:筑波大学附属小学校図書館 
                      
 講師:塩谷京子 氏(放送大学客員准教授)
 
         
   〈学校図書館の学び講座〉は「学校図書館の理解、運営や活用、実践のために、学んでみたいと思うテーマ」を取り上げてその都度学習会を行うという主旨のもと、2019年にスタートしたものである。第1回のテーマは午前、午後の部共通して「新学習指導要領の理解」であったが、ここでは午後の部の「探究学習実践のための基礎・基本」について報告する。 

 講師である塩谷京子先生は静岡県で小学校の理科教員としてキャリアをスタートし、後に関西大学の招聘を受けて小学校・中学校・高校の新設にともなう図書館デザインに従事された。また、放送大学で一般向けの講座を担当されてもおり、まさに、生涯の各ステージにおける図書館利用指導の実践者といえる。理論と実践を兼ね備えた広い視野を持った講義が展開され、折々に挟まれるワークの時間も含め充実した内容だった。数々のエッセンス、またスパイスのちりばめられた講義内容に、参加者は多くの刺激を受けたと思う。 

 「人生100年時代」、そして来るべき22世紀に生きる子供たちにとってふさわしい「発達段階に応じた学び」とはどういうことか、を問う導入に引き込まれる。「関係のないこと」「知らないこと」が現代社会にはたくさんあり、その中から自分で選びとり、決めて、生き抜いていかなくてはならない。子供たちを前にしたとき、「本当に学ばなくてはならないのは私たち自身である」という塩谷先生の言葉に、今おかれている状況のその先を見据えること、そのことが学びを支える立場には欠かせないのだと感じた。 

 まず、文部科学省の『高校生の読書に関する意識調査』〈2016年度)や『第四次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」』(2018年4月20日)の資料を参照しながら、新学習指導要領のキーワードである「発達段階」について読み解いていく。つい忘れがちな、「目の前にいる子供たちが高校生となった未来」を見据え、小中学校からの積み重ねをどうしていくか、発達段階ごとの特徴を考慮することがいかに効果的かを解説いただいた。新学習指導要領が見据えている社会は、「Society5.0」とも呼ばれる「超スマート社会」である。社会が変われば、そこで生きるために必要な資質・能力も変わっていく。では、Society5.0で求められる資質・能力とは何だろうか。そして、それらを育むために必要なものは。Society5.0は「つなげる」社会だと塩谷先生は説く。たとえば、「ベッド」から連想されるものは、これまでは「寝具」というカテゴリであったが、現代では「健康」「医療」と結びつく、といった具合である。一見、無関係と思えることを関係づけ、つなげていくこと、そうできる力が今後は問われていくのだとされた。 

 筆者も度々戸惑いを覚えることとして、教育の現場で使われる用語は特有の「深い」ニュアンスを含んでいるということがある。「資質・能力」などもそうである。子供たちが成長するのに必要な「知」「徳」「体」の3つのバランス、その3つが統合されたときに、「資質・能力」というが、ここで、塩谷先生から投げかけられた問いに考え込んでしまった。 

 「思考力」と「思考」、「判断力」と「判断」、「表現力」と「表現」はどう違うのか。また、「活動」と「指導」という語を並べて考えてみたとき、違いは何だろうか。それらの問いに対する答えは「子供の主体性」であった。「力」は本人が「活動」を繰り返し行わないと身につかないもの、そして「活動」は「ねらい」と合致していなければならず、そこには子供の主体性が重視されているのだ。 

 続いて、新学習指導要領の「国語」に目を向けて講義は進んでいった。小学校の国語で求められている「知識・技能」について解説のあと、それらは他の全教科で使われるものであるということが強調され、発達の段階に応じた「語彙の《確実な》習得」が求められている、その言語能力の確実な育成に、学校図書館の活用が活きてくるというのだ。 
 塩谷先生の講義は、情熱的な解説の合間に、参加者が自ら考えるワークの時間があるのだが、後半はよりそうした時間が多く取られていた。グループになって対話を行い、また、「ピラミッド・チャート」の考え方を体験して、「アクティブ・ラーニング」すなわち「主体的・対話的で深い学び」について迫っていった。 

 塩谷先生はそうした学びにおいて図書館が大きく関係することとして、授業における3つのワークを紹介されていた。3つのワークとは、地域に出て見学やインタビューを行う「フィールドワーク」、観察・実験を行う「ラボラトリーワーク」、調べることを行う「ライブラリーワーク」のことであるが、それらは単体でなく、「組み合わせる」「つなげる」ことで活きてくる。そのことには大いに納得できたし、図書館が関わる部分やその方法をイメージすることができた。 
 今回の講座を受講し、新学習指導要領の目指す「探究型学習」のイメージがわいた。また、「発達段階に応じた」資料提供という、学校図書館の公共図書館とは違う側面についても知ることができた。 

 塩谷先生の言葉の中で特に印象深かったのは、「すぐ覚えたことはすぐに忘れる、長い時間をかけたことは、身についていく」という言葉である。組み合わせて、つなげて、行ったり来たりを繰り返しながら、経験を積む。それらが信念になり、「生き抜く」力をつけることにつながっていく。学習指導要領はそれのみで学びを育むようなものではない。しかし、たとえ少しでも理解することで、「学び」における図書館の可能性を展開していけると感じた。 
 文責:H・K (元公共図書館司書)

 
*「学校図書館学び講座」とは、首都圏の各自治体の学校図書館研修がクローズなのを残念に思い、また、豊富な人材が行き来するにもかかわらずお話を聞く機会の少ない状況から、学びたいトレンドなトピックについて、自分たちで学ぶ機会を作ろう「学校図書館学びの会」を立ち上げました。2019年2月24日に 「学校図書館の学び講座Vol.1」を筑波大学附属小学校図書館にて開催しました。今回はその午後の講座の報告の掲載させていただけることになりました。
   今後も不定期ではありますが、活動を継続してまいりますのでよろしくお願いいたします。
  
筑波大学附属小学校図書館 栗原浩美
   慶応大学非常勤講師           中島玲子
    立教大学兼任講師           中山美由紀

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