読書・情報リテラシー

矯正施設等の子供と本を結ぶ取組み その1

2017-01-11 09:23 | by 村上 |

 
 いつもは、学校図書館での読書活動や、情報活用能力育成の様子をお伝えしていますが、今月は、矯正施設等での子供と本を結ぶ取組について、広島県立図書館の正井さゆりさんに執筆いただきました。長文なので、2回に分けて掲載させていただきます。
 貴重なレポートですので、ぜひお読みください。
       
広島県立図書館(広島県情報プラザ内) →



「矯正施設等の子供と本を結ぶ取組み:広島少年鑑別所におけるブックトークを中心に」

広島県立図書館

一 はじめに

 「子どもの読書活動の推進に関する法律」第2条には,「すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう,積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない」とあります。

本来,子供には,家庭や学校図書館・公共図書館で本に触れる機会があるはずです。

しかし,家庭で本に親しむ場面がなく,学校や地域でも本の楽しさを知る機会に恵まれなかった子供は,「自主的に読書活動を行うことができ」ないまま子供時代を終えてしまうかもしれません。

広島県立図書館では,そういった子供に対する取組みの一環として,平成22年度から矯正施設や児童自立支援施設等と連携を図り,そこにいる子供達への読書活動の支援を行っています。その概要については当館ホームページ(※1)に掲載しています。

  施設との連携では,まず訪問により読書環境の把握を行い,支援できるメニューの紹介を行いました。概ね,職員への図書資料に関する情報提供やレファレンスから,徐々に子供や保護者を対象とした取組みにつながってきました。

ちなみに,これまで施設にいる子供に対して行った主な取組みは次のとおりです。

     ・ 児童自立支援施設:おはなし会,ブックトーク,お薦め本のポップ作りの授業
     ・ 児童相談所(一時保護所):おはなし会
    ・ 少年院(男子):図書館見学,読書や図書館の利用に関する講話
    ・ 少年院(女子):ブックトーク,親子参加型授業「読書会」
    ・ 少年鑑別所:ブックトーク,読書や図書館の利用に関する講話

二 広島少年鑑別所との連携について

  本稿では,直近に実施した広島少年鑑別所(広島市中区。以下「少年鑑別所」という)における2回のブックトークの実践を中心に報告します。

少年鑑別所は,「①家庭裁判所等の求めに応じ,鑑別対象者の鑑別を行うこと,②観護の措置が執られて少年鑑別所に収容される者等に対し,必要な看護処遇を行うこと,③地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助を行うことを業務とする法務省所管の施設」(『少年鑑別所のしおり』法務省矯正局 平成28年3月より)で,主に①14歳以上20歳未満の罪を犯した少年,②14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年,③保護者の正当な監督に服しない性癖等の自由があり,少年の性格又は環境に照らして,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年が最長8週間収容されます。

  平成24年7月,初めて少年鑑別所を訪問し当館が読書活動に関する支援を行う準備があることを説明しました。

  以後,少年鑑別所の希望される内容についてサービスの提供を行ってきました。具体的には,職員が収容されている少年(※ 少年法では20歳未満の子供のことは男女とも「少年」という。)に対して行っている読み聞かせや,地域貢献として地元小学校へ読み聞かせに行く際の絵本の選定や読み聞かせの練習等の相談に応じました。

また,外国籍の少年用に母国語や英語の本を選んで貸出しを行いました。

三 初めての読書行事

平成2711月上旬。少年鑑別所からブックトークと読書に関する講話を行ってほしいと依頼がありました。また,図書の貸出しを希望され,少年用に図書を選び,男女各25冊を貸し出すことになりました。

1 「読書行事についての打合せ・情報交換」

読書行事の実施に向けて,少年鑑別所の職員と,運営方法やプログラムについて複数回打合せを行いました。

また,対象に合った内容とするために,アンケートの実施を依頼し協力していただくことになりました。事前の情報によると,所内の図書室ではどの少年も漫画を借りている人が多い一方,男子はスポーツ選手の本をよく借りていることが分かりました。

また,生き方や考え方を示した啓発書や実用書・小説等を多く借りている少年もいました。

   なお,少年鑑別所での行事の参加は,本人に参加の意思を問い希望者だけが参加することとなっています。 

2 ブックトークで紹介する本の選定

(1)  図書の選定(男子)

ア メインとした図書とテーマの選定

1 『メッシ:ハンデをのりこえた小さなヒーロー』マイケル・パート/著 樋渡正人/訳 ポプラ社 2013

男子はスポーツに関する本をよく読むとのことだったので,現役の選手を扱った本を入れました。この他男性が書いた本や登場する本を選び,テーマを「少年から青年へ」とすることとしました。

   イ 「少年から青年へ」のテーマに沿って選んだ図書

図 書

1 『メッシ:ハンデをのりこえた小さなヒーロー』マイケル・パート/著 樋渡正人/訳 ポプラ社 

2013

2 『オーロラの向こうに』松本紀生/著 教育出版 2007

3 『たのしか』武田双雲/著 William.Elliott/英訳 川村和夫/英訳 李夢軍/中国語訳ダイヤモンド社 2006

4 『「また,必ず会おう」と誰もが言った。:偶然出会った,たくさんの必然』喜多川泰/著 サンマーク出版 2010

5 『とんとん拍子(星新一ちょっと長めのショートショート4)』星新一/著 和田誠/絵 理論社 2006

6 『のうだま(やる気の秘密)』池谷裕二/著 上大岡トメ/著 幻冬舎 2008

7 『皇帝にもらった花のたね』デミ/作・絵 武本佳奈絵/訳 徳間書店 2009


 (2) 
図書の選定(女子)

   ア 作品の検討

         以前,児童自立支援施設や女子の少年院でブックトークをした際に好評だった図書を中心に紹介することにしました。

 

 

図 書

1 『きみの行く道』ドクター・スース/さく・え いとうひろみ/やく 河出書房新社 1999

2 『1歳から100歳の夢』日本ドリームプロジェクト/編 いろは出版 2006

3 『よろこびの歌:Una bella Madonna』宮下奈都/著 実業之日本社 2009

4 『鏡の法則:人生のどんな問題も解決する魔法のルール』野口嘉則/著 総合法令出版 2006

5 『やさいのおなか』きうちかつ/さく・え 福音館書店 1997

6 『読書介助犬オリビア』今西乃子/作 浜田一男/写真 講談社 2009


イ 読み物の選定

   今回は,特に女子の人数が少ないと伺っていました。そこで外国の読み物を二通り準備し,前日に参加者が確定した段階で少年に合わせて決めることにしました。

7 『ア―ヤと魔女』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/作 田中薫子/訳 佐竹美保/絵 徳間書店 2012

7 『秘密の花園』バーネット/著 グラハム・ラスト/絵 野沢佳織/訳 西村書店 2000

       ウ テーマ

           いずれもあまり人の知らないことや人に隠していることを描いた作品なので,テーマは「秘密」にしました。

3 「貸出す図書の選定」

   ブックトーク後に貸し出す図書は,当館が一般財団法人広島県教育職員互助組合から委託を受けて運営している互助文庫から選定することとしました。事前に,少年の中には本を読むことがあまり得意ではない人もいると聞いていたので,中学生や高校生向けの本だけではなく,読書のきっかけとなるような図書の選定に努めました。また,犯罪・性・過激な争い等の描写のある作品については除外しました。

主な図書は次のとおりです。

内 容

男子向け

女子向け

読み物(読みやすい作品,児童・思春期の成長をテーマにしたもの等)

『アルフレートの時計台』,『戦火の馬』,『東海道中膝栗毛』,『とんとん拍子』『泣くなツイ』,『ヘビとトカゲきょうからともだち』,『「また,必ず会おう」と誰もが言った。:偶然出会った,たくさんの必然』等

『エリザベス女王のお針子』,『雲のはしご』,『文車日記』,『ふしぎなロシア人形バーバ』,『ふたりはともだち』,『よろこびの歌:Una bella Madonna』,『レンタルロボット』等

絵本(生き方や社会について考えさせる絵本,写真絵本等)

『あたまにつまった石ころが』,『皇帝にもらった花のたね』,『視覚ミステリーえほん』,『ヤクーバとライオン1』

『きみの行く道』,『ストライプ』,『ぞうのオリバー』,『ミリーのすてきなぼうし』,『ロバのシルベスターとまほうの小石』

伝記(現在も存命の方に関する本)

『エースの覚悟』,『ゴリラは語る』,『桜守のはなし』,『ぼくは昆虫カメラマン』,『ぼくは「つばめ」のデザイナー』,『メッシ』

『1歳から100歳の夢』等

 

社会(社会・歴史について考えさせる本)

『綾瀬はるか「戦争」を聞く』,『魔法の泉への道』

『読書介助犬オリビア』,『半分のふるさ

と』,『ホスピタルクラウン』,『モーツァルトはおことわり』

実用書・人生論

『のうだま(やる気の秘密)』

『置かれた場所で咲きなさい』,『鏡の法則』

詩(比較的読みやすい詩)

 『ぼくはぼく』(谷川俊太郎)

 『二人が睦まじくいるためには』(吉野弘),『八木重吉』

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