読書・情報リテラシー

「矯正施設等の子供と本を結ぶ取組み」その2

2017-02-02 09:14 | by 村上 |

「矯正施設等の子供と本を結ぶ取組み」その1を先にお読みください。

4 「読書と図書館に関する講話の準備」
ブックトークの後に,読書等に関する講話を行うこととし内容は次のとおりとしま
  した。
・質問タイム:読書や図書館について聞いてみたいこと
・インタビュー:好きな本はあるか?学校図書館や公共図書館を利用したことがあるか?
・読書の効用:本を読んだらどんなよいことがあるか。(ピース又吉さんの言葉から)
・ 公共図書館に関するクイズ等(延べ10分程度) 

5 「詳細な事前打合せ」
  今回は,少年鑑別所で初めて行う読書行事なので,進行と当日話す言葉を逐一記した口述原稿等を事前に送付しました。職員に予めブックトーク等についてのイメージを持ってもらうことが当日の運営をスムーズにすることにつながると考えたからです。

6 「前日に確定した参加者」
  ブックトーク前日,少年鑑別所から参加者と事前アンケートについて情報提供がありました。在所者5名のうち,参加者は男子2名女子1名の3名です。女子は高校生の年齢で読書も好きだということが分かったので,読み物は候補としていた2作品のうち字が小さくページ数の多い名作『秘密の花園』を紹介することにしました。

7 「ブックトーク等の実践」
(1) 日時 平成28年1月20日(水)男子 午後2時~午後2時35分
                       女子 午後2時45分~午後3時9分 
(2) 場所 広島少年鑑別所レクリエーション室(男子図書室)
(3) 対象 男子2名 女子1名
(4) 図書館職員 実演者1名,見学者3名

8 「少年の反応」 
(1)  少年の反応から
 3人とも落ち着いて話を聞いており質問等にも声を出して答えました。最後まで姿勢を崩さ ず実演者の方を見て興味を示しながら聞いていました。
 男子は実話には興味を示しましたが,絵本や小説等への反応が薄い傾向がみられました。歴史や実在の人物を追ったもの等「本当の話」を多く取り入れる方が興味を惹くことができるのではないかと思われました。女子は終始興味深そうに聞いていました。
(2)  アンケートから
 ブックトークについては概ね肯定的な評価でした。また読みたくなった本として具体的に図書のタイトルを挙げ,図書館の利用について関心を示している少年もいました。
 一方,少年は「ブックトーク」という言葉の意味が分からなかったため,あまり積極的に参加したいという気持ちにはなれなかったことが分かりました。
(3)  図書の貸出しから
 ブックトーク以後,約1か月間で互助文庫50冊のうち次の図書の貸出がありました。(この期間の在籍者は計6名。同じ図書の複数回貸出しあり)
 『アーヤと魔女』,『エースの覚悟』,『視覚ミステリーえほん』,『戦火の馬』,『東海道中膝栗毛』,『とんとん拍子』,『秘密の花園』,『ぼくは「つばめ」のデザイナー』,『ぼくはぼく』,『「また,必ず会おう」と誰もが言った。』,『メッシ』,『ヤクーバとライオン』,『野生動物診療所』。

9 「職員の受止め」
(1)  ブックトーク等について
・ブックトークは,本人も思いもしなかった本を紹介されることで読書に広がりが出る。関心を引き起こすこともできる。
・今まで,施設に入って本が好きになった少年も相当数いるので,今回紹介した本を好きになるかどうかだけでなく,本を読むことのおもしろさを伝えることで,読書に興味を持たせる成果があった。きっかけとしてよかった。  
・ある少年がブックトーク後,図書館職員のことを「本が本当に好きなんだろうなぁと言っていた。人がどういう姿勢で生きているのかを見る機会としてもよかったと思う。
・ブックトークを見て,図書室の図書の管理も必要だが,それだけでは十分ではなく,啓発や本の紹介に力を入れていく必要があると感じた。
(2) 職員からの提案等
・ブックトークに参加しなかった少年や職員のためにも,本の内容を簡単に示したものがあるとよいと思った。
・少年院に入った後に更生した宇梶剛士さんのエピソードのように,少年たちと同じ境遇の人の話を通して本の効果を話してもらえるとよい。

10 成果と課題
   少年鑑別所において初めてのブックトークを実践したことで,職員にも読書行事に対する理解は一定程度深まったと思われます。
四 二回目の読書行事の取組み
 平成28年4月。少年鑑別所から継続して読書行事を実施してほしいと依頼がありました。年に2回程度行事を実施することとしまずは6月に行うこととなりました。
内容は,第1回と同様にブックトークと講話とし職員と複数回打合わせを行いました。

1 「貸し出す図書の選定」
 前回の少年の反応から,男子向けの貸出セットについては貸し出す図書を選び直すこととしました。実在の人物を追ったもの等「本当の話」,生きざまを描いた本を多めに選定し,様々な分野の本を選びました。主な本は次のとおりです。

内 容

図 書

物語

『駅の小さな野良ネコ』,『チョコレート工場の秘密』,『ぼろイスのボス』,

小説

『アイスプラネット』,『世界から猫が消えたなら』,『セキタン!:ぶちかましてオンリー・ユー』,『戦火の馬』,『羅生門』

絵本

『うごく浮世絵』,『きかんしゃやえもん』

伝記

『マザーテレサ』,『メッシ:ハンデをのりこえた小さなヒーロー』

社会

『アフガニスタンぼくと山の学校』,『原発事故に立ち向かった吉田昌郎と福島フィフティ』

自然科学

『すごい空の見つけかた2』,『Dr.長沼の眠れないほど面白い科学のはなし』,『野生のゴリラと再会する:二十六年前のわたしを覚えていたタイタスの物語』

人生論,名言集

『悲しみは真の人生の始まり:内面の成長こそtrue life』,『ほぉ…,ここがちきゅうのほいくえんか。』,『私は,ありのままで大丈夫:Rules of Elsa & Anna』,『答えはすべて本に書いてある。』, 

言語・詩

『たのしい回文:くるくる回るアタマをつくろう』,『妻と娘二人が選んだ「吉野弘の詩」』

女子は前回と同じセットを貸し出すこととしました。

2 「ポップの作成」
 前回,少年鑑別所の職員から要望のあった「本の内容を簡単に示したもの」としてポップの作成を行うこととしました。ただし,50冊の本について全て担当者一人が作成するのは時間的に難しいと思われました。そこで,ポップの作成について図書館職員に協力を呼びかけました。このことにより,当館の職員が具体的に矯正施設への取組みに関わりを持つことができるとともに本の紹介のスキルアップにもつながると考えたからです。そして,当館の職員の約半数である15人が貸出セットの中から自分の紹介したい本を選んでポップを作成しました。
 ポップは,漢字を読むのが苦手な少年にも配慮して,全て仮名を振ってからラミネートし横長の三角柱に貼り付けました。

3 「ブックトークの準備」
  (1) 図書の選定(男子)
  第1回で好評だった『メッシ:ハンデをのりこえた小さなヒーロー』は今回も紹介することとしました。その他,フィクションを多めに選定することとしテーマは「男らしさ」としました。

図 書
1 『メッシ:ハンデをのりこえた小さなヒーロー』マイケル・パート/著 樋渡正人/訳 ポプラ社 
2013
2 『原発事故に立ち向かった吉田昌郎と福島フィフティ』門田隆将/著 PHP研究所 2015
3 『Dr.長沼の眠れないほど面白い科学のはなし』長沼毅/著 中経出版 2013
4 『野生のゴリラと再会する:二十六年前のわたしを覚えていたタイタスの物語』山極寿一/著 くもん出版 2012
5 『うごく浮世絵!?』よぐちたかお/作,アーサー・ビナード/英文 福音館書店 2005
6 『世界から猫が消えたなら』川村元気/著 マガジンハウス 2012
7 『ほぉ…,ここがちきゅうのほいくえんか。』てぃ先生/著 ベストセラーズ 2014
(2) 図書の選定(女子)
  女子は,基本的に第1回と同じ作品とし作品数を1つ減らして6としました。ただし,紹介する順番を変えて,テーマを「探す」として原稿を修正しました。
図 書
1 『1歳から100歳の夢』日本ドリームプロジェクト/編 いろは出版 2006
2 『きみの行く道』ドクター・スース/作・絵 いとうひろみ/訳 河出書房新社 1999
3 『やさいのおなか』きうちかつ/さく・え 福音館書店 1997
4 『読書介助犬オリビア』今西乃子/作 浜田一男/写真 講談社 2009
5 『よろこびの歌』宮下奈都/著 実業之日本社 2009
6 『秘密の花園』バーネット/著 グラハム・ラスト/絵 野沢佳織/訳 西村書店 2000

4 「読書行事の組み立て」
  行事の進行と講話の内容も修正することとしました。特に,第1回の際に職員や少年からの要望として挙がった「本を読むとどんな良いことがあるか」を具体的に示すことにしました。
中でも,職員から希望のあった宇梶剛士さんが少年院で本を読んで更生したエピソードを講話に取り入れることにしました。ただし,男子のブックトークでは実在の人物を多く紹介するので,ブックトークをした後で講話という流れにするとエピソード自体の印象が薄まると思われました。
  そこで,講話の内容をブックトークの前と後2回に分けて最初に宇梶さんのエピソード等の話をしてからブックトークを行うこととしました。概要は次のとおりです。
ア 講話:ブックトークの説明,宇梶剛士さんのエピソード(5分)
イ ブックトーク(25分)
ウ 質問タイム:図書館や本について聞いてみたいこと,公共図書館クイズ等(5分)

5 参加を促す工夫
  前回,少年や職員がブックトーク自体が何かが分からなかったという声を受けて,事前アンケートにブックトークの簡単な説明を載せることとしました。
  「ブックトークは,本を読みたい気持ちにさせるおしゃべりです」と記載し,前回参加した少年の感想も載せて,興味を惹くように努めました。

6 「ブックトーク等の実践」
(1) 日時 平成28年6月16日(木)男子 午後1時55分~午後2時35分
                      女子 午後2時45分~午後3時9分
(2) 場所 広島少年鑑別所レクリエーション室(男子図書室)
(3) 対象 男子8名 女子2名
(4) 図書館職員 実演者3名,見学者1名 

7 「少年の反応」 
(1) 少年の反応から
  男子は,関心を示した少年とそうでない少年がありましたが,最後までしっかり話を聞くことができました。小説には多少興味を示している様子が伺われました。フィクションは登場する人物が「大人」の話だったため,あまり自分との接点がないと感じたのかもしれません。また,質問タイムでは「(県立)図書館の本を買い替えるにはどれくらいかかるか」等発言しました。
  女子は2名とも時折うなずく等興味を示しながら聞いていました。特に1冊目の『1歳から100歳の夢』で,17歳の女子がまだ夢がないと紹介した部分から何度もうなずく様子が見られ,以後絵本や小説の内容にも反応しながら聞いていました。
  少年の関心を惹くためには,同年代の話や等身大の登場人物が出てくる話等を紹介するとよいのではないかと思われました。
(2) アンケートから
  参加者のほとんどがブックトークで紹介した中から,読みたくなった本を具体的に挙げていました。特に少年の関心が高かったのは,感動する話や等身大の登場人物が出てくる話でした。また今後読みたいものとしては,読みやすい本や恋愛に関するもの,またいろいろな本を読んでみたいと挙げている少年がいました。
  一方読書に関する講話で紹介した,本によって人生に影響を受けたエピソードに関心を示している少年がいました。
(3)  図書の貸出しから
  ブックトーク後,約2か月間の貸出からは図書のうち男子はスポーツに関する本や小説,女子は絵本や小説をよく借りることが分かりました。
ポップを作成した50冊の中には9回も借りられている図書もありました。

五 今後に向けて
  読書行事の実施に当たっては,施設の職員に事前の打合せから事後の振返りまで相当丁寧に関わっていただきました。 また,少年のアンケート等の反応から今後の改善に向けた具体的なイメージを持つことができました。内容を分析することでより良い読書活動の推進につなげていきたいと思います。そのことは,司書として子供と本を結ぶスキルを高め役立てることにもつながると考えています。
  図書館から最も近い場所にある矯正施設として,今後も継続して連携を図りその成果を他の施設等にも広めていけるように努めたいと考えています。

※ 1 広島県立図書館ホームページ>子供・青少年>子供の読書活動の推進のページ>「矯正施設等への支援」      
http://www2.hplibra.pref.hiroshima.jp/index.php?action=pages_view_main&page_id=717


編集部から)  この春、これまでの活動をまとめた『すべての子どもに本との出会いを;児童自立支援施設・児童相談書・矯正施設への読書活動の支援』(広島県立図書館監修 正井さゆり著 渓水社平成29年3月刊)が出版されました。ぜひご一読ください。

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