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高等学校の部活と市図書館がコラボしてサイエンスカフェ開催

2017-09-10 21:12 | by 村上 |

 2017年3月、鎌倉市立腰越図書館では、鎌倉高校科学研究会を招き、サイエンスカフェが開催されました。高等学校の部活と市図書館がコラボして実現したこのサイエンス・カフェについて、腰越図書館司書、中野陽子さんに、執筆いただきました。



~サイエンスカフェin鎌倉市腰越図書館 <歴史に消えた鎌倉たたら製鉄>~


 鎌倉の稲村ヶ崎海岸に砂鉄採取場があったことをご存知でしょうか?

 科学読み物の名著『砂鉄とじしゃくのなぞ』(オリジナル入門シリーズ 板倉聖宣/著 仮設社 2001年)にも、稲村ガ崎にあった旧砂鉄採取場が写真入りで紹介されています(p46)。地元の人に聞いてみると、「子どもの頃はみんな、稲村ガ崎に砂鉄を取りに行って遊んだものですよ。」と話してくれる人がたくさんいます。さて、その砂鉄をテーマにサイエンスカフェを開催することになった経緯は次のようなものです。

 鎌倉市図書館では2014年度から毎年サイエンスカフェを開催しています。2014、2015年度は理化学研究所の協力を得て、主に医学、生化学分野のテーマを中心に開催しました。


 サイエンスカフェとは、1997年~1998年にかけて、イギリスフランスで同時発生的に行われたのが起源とされる、カフェのような雰囲気の中で科学を語り合う場、もしくはその場を提供する団体の名前です。サイエンスカフェは欧米等で発展を遂げ、今では狭義の科学分野にとどまらず、あるテーマについて、専門家などに研究内容を聞いた後、参加者が意見を交換し、倫理や社会的意義等についてまで話が発展することも多いそうです。

 鎌倉市図書館で行ったサイエンスカフェでもリュウマチと遺伝子の関係がテーマだった時には、DNAの個人情報の取り扱いという倫理分野にも触れられました。サイエンスカフェは市民の関心も高く、開催時にはいつも定員を超える応募をいただいています。社会で話題になっているテーマについて科学的に分析しつつ、参加者間で意見交換や熟議する場が求められていて、地域のハブである図書館はそれを行うのにもってこいの場所と考えられます。


 2016年度には、学生等から研究が生まれる課程の話を聞けないかと検討していたところ、市内の鎌倉高等学校科学研究会で、地元の砂鉄を使った製鉄の研究が、日本学生科学賞神奈川県作品展において、県知事賞を受賞されていることを知り、生徒の方々とサイエンスカフェを開催できないかというアイディアが出てきました。そこで、鎌倉高校にお声がけしたところ、たいへん前向きに承諾いただき、開催が実現したものです。(鎌倉高校は2013年と2014年に、日本学生科学賞神奈川県作品展で、最優秀にあたる県知事賞に選ばれている。)

 このイベントは「鎌倉市子ども読書活動推進計画」に、市図書館が、高校生の発表の場を提供していきたいと盛り込んでいた項目にも合致しました。科学研究会顧問の木浪教諭に「地域の皆さんにも身近にある砂鉄の化学、歴史についてとても関心を持ってもらえると思います」とお話すると、身近なテーマであり、鎌倉らしいサイエンスカフェを開催できることはとても喜ばしいと賛同いただきました。

 事前準備として、木浪教諭のアドバイスももらいながら(1)鎌倉における砂鉄・刀工、(2)一般的な製鉄、たたら製鉄、日本刀、刃物、熱処理等に関する本、郷土資料、関連の写真の確認なども行い、数点本も購入、パスファインダーの作成を行いました。この機会に地域に関連する蔵書の確認、収集等を行えたことも意義がありました。

 こうして、図書館と高等学校が連携して、2017年3月25日、「サイエンスカフェin鎌倉市腰越図書館~歴史に消えた鎌倉たたら製鉄~」を開催に至りました。当日は、高等学校副校長もみえて、この研究への意義と自身の熱意を語られました。研究の経過については顧問の木浪教諭、会場からの質問には生徒が答える形で進行しました。サイエンスカフェの休憩時間や研究発表の後には、実際に砂鉄から作った鉄を参加者が手に取ったり、生徒に説明してもらったりする交流も行いました。

 研究内容について詳しくは、「別冊かまくら図書館だより」に報告していますが、出雲産の砂鉄でのたたら製鉄実験はすぐに成功を見たが、鎌倉の砂鉄ではうまくいかず、砂鉄の純度をあげるための工夫、たたら製鉄のコツの習得など様々な試行錯誤が必要だったことが、鎌倉のたたら製鉄の一子相伝的要素が大きかったことを明確にし、高度に化学的研究ながら、産業技術や歴史にも広がる成果となっています。

 質疑でも、鎌倉砂鉄で刀は作ることができるのか?、できないとすれば鎌倉の刀鍛治の鉄入手の経路は?、たたら製鉄を維持できる環境とは?等質問が出され、サイエンスカフェらしい他分野にまたがる議論の広がりを参加者と体験できました。


 鎌倉の過去のたたら製鉄サンプル、また、比較のための出雲のたたら製鉄サンプル等の入手は困難という発表があったため、後日、出雲の製鉄サンプルの提供の申し出があり、また、図書館関係者から千葉県の砂鉄サンプル提供等もありました。サイエンスカフェを契機に情報提供が行われたことは興味深いことでした。

 この秋、刀鍛治の方の協力で、鎌倉の砂鉄からできた鉄から刀ができあがりそうとのことです。刀の完成の際には、第二回目のサイエンスカフェ等を開き、更に高校生の研究の様子を聞く機会を作っていけたらと考えています。

 今後も高校生の研究発表の場を提供し、一般市民と交流することで更に地域の発見・探求のきっかけ作りを考えていきたいと思います。

 鎌倉市腰越図書館 司書 中野陽子

事業概要

日時:2017年3月25日(土)13:30~15:30 
場所:鎌倉市腰後行政センター1階 多目的室
講師:鎌倉高校科学研究会顧問木浪信之(きなみ のぶゆき)氏、鎌倉高校副校長石川雅之(いしかわ まさゆき)氏、鎌倉高校科学研究会生徒5名
主催:鎌倉市図書館 協力:神奈川県立鎌倉高等学校
参加者:67名

●資料
(1)報告集「別冊かまくら図書館だより」
(2)パスファインダー「鉄を調べる ~鎌倉 稲村ガ崎に砂鉄採取場があった~」

●PR媒体
(1)タウンニュース 鎌倉版   
(2)FM横浜
(3)広報かまくら 平成28年度2月1日号
(4)鎌倉朝日 2017年5月1日号 鎌倉高等学校副校長による報告掲載


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