読書・情報リテラシー
インターネットの情報に惑わされない大人になるために
2018-07-28 06:04 | by 村上 |
1.「ラーニングスキルガイド」作成の経緯
都立高校図書館では、長らく司書が配置されており、各校の生徒に適した様々な実践を行ってきました。また、次期学習指導要領では「探究」が重視されており、学校図書館が注目されてきています。こうした中、都立高校司書の研修団体である東京都立高等学校学校司書会では、学校図書館で培ってきた実践を元にして全都立高校(中等教育学校、附属中学も含む)で活用できる「ラーニングスキルガイド」を作成することになりました。
日常的に本に触れていない生徒でもレポートが完成させることができるようなガイドを目指しました。あまり字を詰め込みすぎず、親しみやすい内容にするよう心掛けて作成しました。「ラーニングスキルガイド」は、3月に試行版が完成しました。その後修正等を加え、8月下旬には冊子体のガイドが完成する予定です。
2.生徒のインターネット利用で感じていること
「ラーニングスキルガイド」において、私はインターネット使い方の部分を担当することになりました。この時「どうしたらいいだろうか?」と考え込んでしまったというのが正直な感想です。インターネットについて、常々どうしたら生徒たちに上手く伝えることができるだろうかと悩んでいた部分でもあったからです。まず、私の勤務校である小石川中等教育学校の生徒のインターネット利用について感じたことを記したいと思います。
本校には、都立学校では珍しく、図書館内にインターネットがつながるパソコンが20台常備されており、授業等で活用されています。授業中に、巡回しながら生徒のパソコンの利用の様子を見ていると、ウィキペディアやまとめサイトを見ている生徒をよく見かけます。私は、これらのサイトを利用してはいけないというつもりはありません。しかし、ウィキペディアの記事をまとめて終わりにしてしまっている様子の生徒が少なからずいることに加え、記事の内容を検証している様子もあまり見られないことに問題意識を持ちました。せっかく便利なインターネットを使っているのにもっといろいろなサイトをなぜ調べないのか、そしてその必要性を何とかして伝えていきたいがどうすれば生徒たちの心に響くように伝えられるだろうか、と考えていました。
3.課題研究(小石川フィロソフィー)の時間の利用指導
本校では、3年生(中3)と4年生(高1)に課題研究(講座名:小石川フィロソフィー)があります。小石川フィロソフィーの最初の時間には、図書館の利用について数分説明をしていました。しかし、説明の時間がほとんどとれないことから、図書館の利用をはじめ、インターネットの利用や課題研究に役立つ図書の紹介など、司書から生徒に伝えたいことをまとめた冊子を作成し、配布していました。
2年前に「共通講座」が設置され、図書館の利用についての説明を20分程度もらえるようになったので、前述の冊子の中から特に伝えたい部分をかいつまんで説明するようにしました。ここで重点にしたのが「インターネットの利用」についてです。3年生では、インターネットに掲載されている「ウソ」の記事を引用し「どうしてウソだとわかるのか」ということを話しました。本文に事実と異なる点が記されていること、出典がないこと、記事を書いた人が匿名であることを挙げ、記事が信頼できるか否かを自ら判断しなければいけないということを話しました。4年生では、ウィキペディアの信頼性の雑誌記事を引用し、ウィキペディアなどの二次情報を見たときは、必ず元ネタにあたることの重要性を話しました。話や冊子の内容を通じて、1人でも多くの生徒に伝えていければいいと思いながら話しています。
4.「か・ち・も・な・い」サイトに引っかかるな
「ラーニングスキルガイド」のインターネットの利用について書くにあたり、一番伝えたいことは何だろうか、それをどのように伝えたらいいだろうか、と悩んでいました。その頃、たまたま見た雑誌に「「い・な・か・も・ち」で体調管理に万全を期す」という記事*が掲載されていました。記事は、インターネットで健康情報を入手する際に、健康情報の質を確認する5つのポイントの頭文字が「い・な・か・も・ち」である、という内容でした。「い」は「いつの情報か」、「な」は「何の目的で書かれたのか」、「か」は「書いた人は誰か」、「も」は「もとネタは何か」、「ち」は「違う情報と比べたか」ということです。記事は健康情報の内容でしたが、これは健康情報に限ったことではなく、インターネット全般に言えることです。これを参考にすることにしました。
最初は「い・な・か・も・ち」とそのまま書いていたのですが、どこかしっくりこないところがありました。その後、この文字を入れ替え「か・ち・も・な・い」にすればどうか、ということになり、それを採用することにしました。インターネットを閲覧するときに注意すべき5つのポイントがあり、それを丁寧に見ていかないと「か・ち・も・な・い」サイトに引っかかってしまう。このように標語を交えた一つのストーリーが出来あがったような気がしてよいと思いました。「ラーニングスキルガイド」のページでは、せっかくの「か・ち・も・な・い」という標語なので、標語を出来るだけ目立たせるように、試行錯誤しながら作成しました。
5.おわりに
このように「か・ち・も・な・い」は、偶然に見ていた雑誌を参考に書いたものです。偶然とはいえ、この標語を見つけたことは非常に良かったと思っています。
インターネットの登場で、情報を瞬時に検索することができるようになりました。また、個人が不特定多数の人たちに情報を発信することができるようになりました。インターネットが普及する前には考えられないことです。
その反面問題点もあります。個人が情報発信を自由にできる利点は、誤った情報や個人の思い込みの情報を簡単に発信できてしまうという欠点でもあります。それを見た人が情報の精査もせずに鵜呑みにしてしまうことが多いのも問題です。書籍ならこのような心配がないとは言いませんが、書籍以上にインターネットの情報は丁寧に情報の精査をする必要があるでしょう。ただ、インターネットは検索が簡単です。もうひと手間、ふた手間かければ、簡単に情報の精査をすることができます。「か・ち・も・な・い」を丁寧に検証することで、玉石混交といわれるインターネットから「玉」の情報を手に入れることができると思います。インターネットに対してこのような姿勢をもつことで、卒業後もきっと役に立つのではないでしょうか。
*高橋恵子・佐藤晋巨「「い・な・か・も・ち」で体調管理に万全を期す」『PRESIDENT』2017.7.17号p.56-57
↓都立小石川中等教育学校図書館内メディア学習室
小石川フィロソフィーで作成した過去の論文集とともに、全国のSSH校から送付された論文集を一緒に置き、テーマ設定や論文作成の参考にしている。
ガラス面にはインターネット利用の注意点として「か・ち・も・な・い」が貼り付けてある。
編集部より
今年の春、同じ研究会に所属する都立高校司書さんに、夏に発行を目指しているのですよ、とラーニングスキルガイドの試作版を見せていただきました。力作のガイドのページをめくりながら、思わず読み入ってしまったのが、今回執筆をお願いした中上さんの図入りのコラムでした。なんとわかりやすい標語でしょう!許可をいただき、そのコラムを少しアレンジして、本校の図書館内にも、掲示してみました。もちろん出典を明記して!
学校図書館にも、インターネット環境を整え、児童・生徒が資料を探す必然性がある場面で常に、「か・ち・も・な・い」サイトにひっかかるな!と呪文のように唱えることができたなら、将来的にはデジタルもアナログも上手に活用できる子どもたちが育っていくのでは…? それができるのは、やはり学校図書館という場ではないでしょうか。この素敵な呪文、みなさんぜひ使わせていただきましょう!