読書・情報リテラシー

もし学校図書館と医学図書室が繋がったら…

2018-08-23 10:43 | by 村上 |

 今回は、静岡県立子ども病院の中に併設された図書室に勤務する司書の塚田薫代さんに、記事をお願いしました。ヘルスサイエンス情報専門員上級の資格を持つ塚田さんは、医学情報を扱う専門図書館員ですが、医療が発達した現在、重い病気を経験した子どもがどの学校にも少数存在している可能性があること、また発達障がいのように、その特性を理解したうえで受け入れる必要がある子どもたちが少なくないことから、病院図書館と学校図書館の連携の必要性を強く感じていらっしゃいます。貴重なブックリストもご提供いただきました。ぜひ学校図書館に関わる方々に役立てていただけたらと思います。(編集部)


                 
 静岡県立こども病院図書室 司書 塚田薫代
                                         
 静岡県立こども病院は1977年開院、ベッド数179の小児専門病院です。こども病院図書室と聞くと、みなさんはおそらく「こどもの本」を連想されるでしょ う。しかし医学情報の専門図書室で、司書はヘルスサイエンス情報専門員上級です。        

(写真① 病院図書室全景)


目下当室には以下4つの機能があります。

1 医学図書室(医師、看護師向け医学書・医学雑誌)
2 わくわくぶんこ(0歳~15歳の入院患児向け絵本や児童書)
3 患者・家族への医学情報提供(分かりやすく信頼できる情報)
4 地域との連携(地域の公共図書館や学校図書館との連携)

 医療技術が発達した昨今、心臓病や小児がんは、もはや不治の病ではありません。統計的には、各学校に必ず1~2人、病気を経験した子が在籍するはずです。学校図書館と医学図書館がつながったら、こんな可能性が広がります。司書には守秘義務があり、個人のプライバシーは守られます。

① 発達障がい
 約6.5%の在籍率(文部科学省)といわれる発達障がい児(生徒)を理解し、接し方に役立ちます。「視点を変えるだけで教師も本人も楽になる」(当院作業療法士)

② 慢性疾患
 小児がん・先天性心疾患・腎臓病・1型糖尿病・てんかん等の病態(病気の状態)や治療法、日常生活の注意点、精神的ケアなど医学情報を駆使して提供します。

③ 病気の家族がいる児童・生徒
 親、兄弟、同居家族が病気というケースは少なくありません。どんな点に配慮し、プライバシーを守ったらよいのでしょう。グリーフケアの絵本リストもあります。

④ がん教育
 学習指導要領に基づき、小学校(2020)中学校(2021)高等学校(2022)にて
がん教育が実施されます。主体性をもって取り組むために必要な資料や体験談など小児医療現場ならではです。特におすすめコンテンツを別表1にまとめました。
 がんを子どもに伝えるときのポイントは3つのCと云われます。【Cancerがんと正しい病名をつたえ、ごまかさないCatchy伝染しない、うつらないCausued原因はあなたではない、誰も悪くない】これらを念頭に置き、発達年齢にあわせた説明を真摯な姿勢で伝えます。がんの当事者やサバイバー、家族に患者がいる子が含まれる場合は、非常に慎重に話す必要があります。

⑤ 正しい健康情報の見極め方
 大人でも迷うネット情報やマスコミ情報を鵜呑みにしないために、見極めるポイントを解説します。将来の健康格差を減らすには子ども時代が鍵と云われています。

⑥ スポーツ障害
 思春期のスポーツ障害(野球肘、靭帯損傷など)や、思春期やせなどの医学的情報。

⑦ 将来の進路(保健医療系)
 職業教育として医療系は人気です。医師、看護師だけでなく薬剤師、放射線技師、検査技師、医療保育士、理学療法士、チャイルドライフスペシャリストなど一般にあまり知られていない特殊な専門職もあります。 
  (写真② 病棟のブックトラック)

⑧ 災害・事故のトラウマ
 不慮の事故や災害、犯罪などを経験した子は精神的なダメージを受け、PTSD発症につながることもあります。発達年齢にあわせた医学的情報を検索提供出来ます。

⑨ 教師を含むメンタルヘルス
 思春期うつを始めとするメンタルヘルス疾患は看過できません、また対人援助職である教師の精神的不調は大変多く、医学文献も多くあります。

 当室はまた養護教諭の要請で特別講演を行ったりしています。2015年、静岡市内のある小規模中学校で【思春期講座 自分を大切に―最後にIは勝つ!】をテーマに講演をさせていただきました。【Iはinformation, I(自分)、愛】養護教諭と事前に情報収集をして、てんかんの生徒が居る事がわかりましたが、保護者は、てんかんという病名を他の生徒に知られたくない意向というのです。先生方も悩んでいるようでした。当日は【思春期やせ】を例にとって、正しい情報をどうやって調べるかスライド仕立てで話し、入院している子が頑張っている姿も紹介しました。そして思春期おすすめブックリストを配布して、実際の本を手にブックトークをしました。そのなかに『こどものてんかん』(クリエイツかもがわ)『てんかん発作こうすればだいじょうぶ』(同)2冊をさりげなく入れて「正しく知ろうね」と紹介したのです。

    翌朝、校長先生から電話がかかってきました。「塚田さんありがとう!話してもらってすごく良かったです」聞けばその子の感想にこうあったそうです。「私はてんかんの発作をもっていて、なんか自分だけみんなと違うって悩んでいた時もあるけど、先生がすすめてくれた本を手に取って、自分の体の事について学びたいと思っています」嬉しかったのは私も一緒でした。後日送られてきた感想の一部をご紹介します。「自分が今こうして生きていることはすごい事なんだと思いました」「私は生まれた時500gくらいでこども病院に入院していました…こうやって今生きていられる事はしあわせです。人の役に立つ仕事につきたいです」「今日の思春期講座で自分を大切にしなければならないと思いました」彼らの感性のなんとすばらしいことでしょう!同時に正しい医学情報をきちんと発信する大切さも身に沁みました。

   身体や病気のことを正しく知ることこそが共に生きる礎(いしずえ)です。これからも情報発信に努めてゆきたいと思っております。

  がん教育ブックリスト2019.7.xls

からだと心の本(小中高医学図書館司書のおあすすめブックリスト2019).xls

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