読書・情報リテラシー

多言語による読み聞かせ

2018-10-29 08:49 | by 村上 |

 近年、日本語指導を必要とする児童・生徒が増えているといいます。学校図書館もそのような子どもたちを視野にいれながら、図書館運営をする必要に迫られています。今月は、日本に暮らす外国籍の親子とともに、多言語絵本による読み聞かせ活動をされてきた、ブッククラブえほんだな!主宰 長嶺今日子さんに、これまでの活動と、今後について執筆いただきました。長嶺さんは、現在学校司書をされていて、その視点からも有用な情報を記事に盛り込んでくださいました。ぜひ役立ててください。(編集部)



多言語による読み聞かせ ~外国につながる子どもたちとともに~

ブッククラブえほんだな!主宰 / 世田谷区学校司書 長嶺今日子

■ 増え続ける外国籍・帰国児童生徒

 現在、日本に暮らす外国人の数は250万人あまりとなり、都会でも地方でも、学校や園にも、外国籍の子どもたちが増え続けています。また海外に駐在し、幼児を連れて帰国する日本人家庭も年々増加しています。「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況に関する調査」(文科省)よると、2016年5月の時点で、日本語指導が必要な児童生徒数は、外国籍と日本国籍合わせて4万3,947人。そのうち外国籍児童は2014年の調査より5,137人(7.6%)増加、言語はポルトガル語を母語とする子が25.6%で最も多く、次いで中国語、フィリピノ語、スペイン語と続き、これら4言語で全体の約8割を占めています。国際結婚や帰国子女を含めた日本国籍の児童は1,715人(21.7%)増加し、使用する言語は、フィリピノ語が最も多く、次いで中国語、日本語、英語の4言語で全体の8割近くとのことです。また帰国児童生徒の数は「学校基本調査」(文科省)によると、2016年度、全国で1万2千人を超え、前年度に比べた増加率は小学校で6.0%、中学校で9.2%、高等学校で8.0%でした。本の世界もこのような状況を反映し、『まんがクラスメイトは外国人』(全2巻・明石書店)、『同級生は外国人!? 多文化共生を考えよう』(全3巻・汐文社)などが刊行されています。

■ RAINBOWの読み聞かせ活動のはじまり

 多言語絵本の会RAINBOW(東京・目黒)は、2006年から多言語絵本の読み聞かせに取り組んできました。活動のきっかけは、日本語教室で学ぶ、子育て中の外国籍のお母さんたちの「日本人の親子が楽しそうに読んでいる絵本を、私も自分のことばで読んでみたい」という願いからでした。図書館などでの読み聞かせを重ねる中で、気づいたことは、それぞれの母語に対する思いのポジティブな変化でした。「日本の生活では敢えて中国語は使わないようにしていたけれど、子ども自身がお母さんのことばも話せるようになりたいと言ってくれた」、「一緒に読み聞かせに参加した日本人の友だちから、お母さんの国のことをいろいろと聞かれてうれしかった」など、お母さんや子どもたちのいきいきとした表情に出会うと、多言語による読み聞かせが母語保持の一つのきっかけになっていることを実感します。
 しかし、日本の絵本を外国籍のお母さんたちが独自に翻訳し、公の場で読む場合には著作権者の許諾が求められるため、出版社に毎回申請が必要なこと、また、すでに海外で翻訳出版されている場合でも、その絵本を国内で入手するのが難しいことが活動の壁となりました。そこで、読み手が帰国したときに絵本を探してきてもらったり、原著の出版社の協力を得て外国語版を借りるなどの工夫をしてきました。
 現在RAINBOWでは、より多くの外国籍の子どもたちに多言語でお話を楽しんでもらえるように電子絵本を制作し、HP上に公開しています。オリジナルで制作した作品ゆえ著作権や版権などの制約もなく、誰でも無料で利用することができます。

■ えほんだな!の多言語読み聞かせの実践

 筆者が主宰するブッククラブえほんだな!では、世田谷区内の図書館や子育て支援広場などで多言語の絵本の読み聞かせをしています。読み手は地域に暮らす外国籍のお父さん、お母さんに加え、留学生も積極的に手伝ってくれています。最近は、小学校のPTAや園の先生など、それぞれの現場で多言語の読み聞かせに関心を持つ方が見学に来られるようになりました。
 およそ10年の活動を通して、いろいろなアイデアや工夫も蓄積されてきましたので、その一部をお伝えしたいと思います。まず聞き手の子どもたちは、日本人も多く、英語以外は初めてその外国語を耳にする子がほとんどなので、特に最初の一冊はことばの響きを楽しめるような絵本を選んでいます。いわゆる赤ちゃん絵本など、できるだけ短く、テンポのよい絵本がおすすめです。中でも、いろいろな動物が出てくるお話は、鳴き声など言語による表現の違いに、大人も子どもも盛り上がります。
 
写真①
『でてこいでてこい』韓国語版・中文繁体字版、『みんなうんち』英語版・スペイン語版、『うずらちゃんのかくれんぼ』ベトナム語版、『ぐりとぐら』タイ語版、『あつさのせい?』中文繁体字版、『りんごがドスーン』韓国語版


 読みきかせは、外国語、日本語の読み手が、それぞれ絵本を見せながら、ページごとに、原著の言語→翻訳された言語の順で読むことが多いです。一冊を通して先に外国語で読み、後から日本語で読む方法なども試みましたが、ページごとに2つの言語で読むほうが、子どもたちがことばの違いをより感じられ、ストーリーが伝わりやすいようです。聞き手にとっては言語の数によって一冊に要する時間が長くなることや、子どもたちの集中力も考慮しています。例えば『ぐりとぐら』(福音館書店)は12言語で翻訳出版されており、ぜひ紹介したいのですが、全ページを読むとやや長いため、部分的に外国語で読むなどの工夫することもありました。


写真②

世田谷中央図書館「世界のことばで読み聞かせ」より、『はっぱのおうち』(福音館書店)とタイ語版

 今年で3年目となる、世田谷中央図書館の定例イベント「世界のことばで読み聞かせ」では、毎回2〜3言語の読み手が集まり、ブックトークを交えながら、にぎやかな雰囲気の40分を過ごします。『おおきなかぶ』(福音館書店)をロシア語で聞くなど、すでに子どもたちがよく知っているお話を原著の外国語で読むこともあります。子どもたちは初めて耳にすることばでも、集中してじっと聞いています。絵本の中から外国語のフレーズをみんなで言ってみたり、その国の食べものや文化を紹介するなど話題は尽きません。日曜日の午後という時間帯のため、赤ちゃん連れの若いお父さんやお母さんもよく参加されるのですが、「ふだんのお話会はシーンとしているけれど、この会はワイワイとにぎやかで、気兼ねなく参加できて楽しい」というお声もいただきます。多言語による読み聞かせでは、絵本の読み方ひとつにしても、声のトーンや身ぶり手ぶりに、それぞれのお国柄がよく現れています。このような多様性こそが、子どもたちが惹き寄せられる理由なのかもしれません。


写真③
世田谷中央図書館「世界のことばで読み聞かせ」より、ポーランド語の絵本『Lokomotywa (機関車)』の読み聞かせの様子








■ 書誌情報の確認と本の入手ルート

 外国語に翻訳出版されている絵本を探す場合は、国立国会図書館国際こども図書館の「外国語に翻訳刊行された日本の児童書情報」「日本発子どもの本、海を渡る」のサイトが参考になります。国立国会こども図書館に所蔵されている多言語の絵本は、公立図書館を経由して借りることが可能です。なお日本の原著出版社では取り扱っていません。国内の洋書専門店で入手できる場合もあります。絵本の家(目白)にでは多言語絵本の棚があり、穂高書店(神保町)ではアジア、中東、欧州、内山書店(神保町)では中国、アジアで刊行された絵本を探すことができます。英語の絵本は紀伊國屋書店、丸善書店など大手書店の洋書部門で広く取扱いがあります。


写真④ 福音館書店「こどものとも」60周年記念イベントの様子

 ここ数年、多言語による読み聞かせに関心を寄せてくれる日本の出版社が増えてきました。例えば文溪堂は、自社刊行の人気絵本を多言語で案内するリーフレットをHP上で公開しています。作品自体を翻訳するとなると著作権や版権の制約もあり、なかなか自由にはいきませんが、本の内容を多言語で紹介することは可能です。外国籍の親子にとって本が選びやすくなるようにと、えほんだな!の読み手も協力して制作しました。また福音館書店も、「こどものとも60周年記念」イベントでの多言語の読み聞かせや、所蔵している多言語絵本の貸出しなどのかたちで協力してくれています。

 

■ 多言語による読み聞かせ:各地の活動状況

 今回、この記事を書くにあたり、むすびめの会(図書館と多様な文化・言語的背景をもつ人々をむすぶ会)のメーリングリストにて、全国で多言語の読み聞かせの活動情報を教えてくださいと呼びかけたところ、以下の情報を得ました。

・ 神奈川県立地球市民かながわプラザ・あーすぷらざ(横浜市)では毎月第3日曜日に「世界一周 多言語読み聞かせの旅」を開催。
・ 大阪市立中央図書館では「多文化にふれる えほんのひろば」を2018年11月に開催予定。
・ 新宿区立大久保図書館では地域住民を読み手に定例会を開催。NHKの番組「ETV特集 アイ アム ア ライブラリアン〜多国籍タウン大久保〜」(2017年10月放映)でもその様子が紹介されました。

 また、NPOブックスタートでも、外国籍の親子に、絵本を渡す時には、あらすじを8言語で紹介する「多言語版 絵本紹介シート」を添えるなどの取り組みがスタートしています。くわしくはこちらから。

 

 筆者はこれまでは多言語による読み聞かせを中心に活動をしてきましたが、今後は、学校図書館における、多言語の蔵書の充実など読書支援にも取り組んでいきたいと思っています。多言語絵本についての情報交換をご希望の方は、どうぞお気軽にブッククラブえほんだな!ehondana77@gmail.comまでご連絡ください。また活動はブログでもご覧いただけます。

 


 


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