読書・情報リテラシー

ヘルスリテラシーは子どものうちから

2018-10-01 10:58 | by 村上 |

    9月に引き続き、病院図書室からの発信です。川崎市立井田病院図書室司書の荒木亜紀子さんに、「かわさき医療情報ネットワーク」による子ども向け市民講座の取り組みについて執筆いただきました。子ども時代に、ヘルスリテラシーを身につけることの大切さをあらためて感じましたが、同時に学校の授業で図書館を活用しながら取り組めることも多々あるのではと思いました。提供いただいたブックリストもぜひご活用ください。(編集部)



ヘルスリテラシーは子どものうちから:「こすぎこども大学赤ちゃん学部」実践例
かわさき医療情報ネットワーク代表/川崎市立井田病院図書室
荒木亜紀子

  「かわさき医療情報ネットワーク」は、神奈川県川崎市中原区で病院司書、公共図書館員、病院ボランティア、読み聞かせボランティアを中心に設立された市民団体です。
 代表である荒木が勤務している病院内のがんサロンにおいて、歳をとってから、病気になってからヘルスリテラシー*を習得したり、自分のからだとこころを自分事として捉えたりするのは難しいと多くの患者の語りで気づきました。なかなか長年の自分の考え方を変えるのは難しいことなのです。

   ならばもっと若く、健康な子どものうちからの自分のからだやヘルスリテラシーについて考える機会があってもいいと感じたため、このかわさき医療情報ネットワークを立ち上げるに至りました。2014年度の発足以来、絵本を教科書にした子ども向け講座を毎年開催しています。

2014年度「親と子の絵本で学ぶ障がいと病気」
2015年度「こすぎこども大学医学部」
2016年度「こすぎこども大学ふくし学部」
2017年度「こすぎこども大学赤ちゃん学部」
2018年度「こすぎこども大学薬学部」

   毎回、医師、看護師、助産師、メディカルスタッフなどを講師に迎え、体験型の講座を心掛けています。今回は2017年に行った「こすぎこども大学赤ちゃん学部」全3回講座について報告します。
 
*ヘルスリテラシー…健康に関する情報を入手し、理解し、効果的に活用するための個人的能力のレベルのこと


1. 講座のねらい

  ・自尊感情をはぐくむとともに、他人を大切にする気持ちの育成をはかる
  ・医療を身近に感じることで、よりよい医療への関わり方を習得する
  ・自分のからだやこころの働きを自分事としてとらえることができる
  ・ 「生老病死」を考えるきっかけづくり

2. 企画立案

   前年度の「こすぎこども大学ふくし学部」の参加者の保護者による事後アンケートにて「赤ちゃんを科学的に学ぶ機会があるといい」という意見があり、スタッフで検討した結果、子どもたちそれぞれが、自分が生まれてきてどう育ってきたのか、親はどう思ったかを知ることは自尊感情の育成につながると思い、また視点を変えて妊婦さんや赤ちゃん連れのお父さん、お母さんはどう大変なのかを知ることで他人を思いやる気持ちを育むことができるはずと考え、「こすぎこども大学赤ちゃん学部」全3回連続講座としました。対象は小学生(小3以下は保護者同伴)、定員15名。

3. 各講座の概要・講師

第1回講座「赤ちゃんがうまれるまで」 講師:助産師

導入 絵本「おへそのあな」読み聞かせ
絵本「赤ちゃんが生まれる:幼年版」の写真をスライドに投影して受精の説明
ワーク 受精卵の大きさを折り紙を折ってできた小さな穴で確認(講師より「みんなは3億個の精子のなかから選ばれたエリートなんだよ」と説明を受ける)
ワーク お腹の中の赤ちゃんはどんなふうに入っているかお絵かき
妊婦体験セットを身に着けた男性スタッフに様々な動作をしてもらい、インタビュー

第2回講座「赤ちゃんがうまれてから」 講師:助産師
導入 絵本「わたしのあかちゃん」読み聞かせ
新生児の不思議なちからについてレクチャー
ワーク 新生児人形の抱っこ、着替え、オムツ替え
ワーク 本物の赤ちゃん(7か月、9か月)の抱っこ、感想シェア
お母さん、お父さんの気持ちインタビュー

第3回講座「みんながくらしやすいまちって?」 講師:ピープルデザイン研究所
導入 絵本「わたしの足は車いす」読み聞かせ
クイズ まちのバリアフリーを探せ!
…会場周辺のまちの写真を見ながら、バリアフリーなっている箇所を挙げてもらう。
 歩道、駅改札、切符売り場、ホーム、トイレ(オスメイト対応、だれでもトイレ)等
ワーク 障がいの種類と障がいを持っている人は何が大変か意見シェア
…障がいは特別なことではない、誰でも大変だと感じるときがあることを知る
モノで解決できるバリアフリーとココロで解決できるバリアフリー
ワーク ココロで解決できるバリアフリー、自分だったら何をする?

4. 講座を通じて学んだこと

 各回の講座で、講師の話が始まる前に導入として絵本の読み聞かせをしました。それぞれ物語だったり、科学絵本だったりと異なるジャンルの絵本でしたが、講座のねらいである「赤ちゃんを待ち遠しいと思う親の気持ち」「生まれてきてくれた感謝の気持ち」「障がいを持っている人の気持ち」をより深く理解できるような内容だったため、講座内容のよりよい理解につながったと思います。

 ただ「赤ちゃんかわいい」というだけではなく、科学的な観点からいのちのはじまりを学ぶことにより、「自分は世界に1つだけのかけがえのない存在」と実感ができました。
 また、妊婦さんや赤ちゃん連れのお父さん、お母さん、障がいを持っている人の大変さに気づき、自分は何ができるのだろう、と他者に対して思いを馳せることができました。
 講師の助産師の仕事に興味を持つ子どもも多く、講座が終わってもたくさんの子どもが講師の周りに集まって熱心に質問を繰り返していました。
 自尊感情が低いと言われている昨今の子どもたちですが、このような多角的な講座により、自分と他人を大切にする気持ちを少しずつ育んでいきたいと思います。

        こすぎこども大学医学部絵本リスト .xlsx
        こすぎこども大学ふくし学部図書リスト .xlsx
        こすぎこども大学赤ちゃん学部図書リスト .xlsx
  


参考文献
1)荒木亜紀子. 病院図書室からのアウトリーチ:ほっとサロンいだを中心に. 医学図書館. 2017;64(3):141-5.
2)荒木亜紀子. ヘルスリテラシーはこどものうちから:かわさき医療情報ネットワークの取り組み. 看護と情報. 2018;25:33-40.
3) かわさき医療情報ネットワークFacebookページ.
https://www.facebook.com/かわさき医療情報ネットワーク-676609219111855/ [accessed 2018-07-24]
4) 偕成社. バリアフリーの本.
https://www.kaiseisha.co.jp/accessible [accessed 2018-07-24]
5) ピープルデザイン研究所Facebookページ.https://www.facebook.com/peopledesign.shibuya/posts/1464453400289750. [accessed 2018-07-24]

(文責:川崎市立井田病院図書室/かわさき医療情報ネットワーク 荒木)



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