授業と学校図書館

授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。

先生のひとこと

高校生に本を手渡すために ~司書教諭と学校司書の協働~

2016-09-06 08:46 | by 村上 |


 SLAスーパーバイザーとして活躍されている高見京子先生は、2016年3月まで東京学芸大学デジ読評価プロジェクトの一員としてお仕事をされていました。この秋、故郷岡山に戻られ、大学で教鞭を取られることになった高見先生に、お忙しい時間の合間を縫って、インタビューをさせていただきました。




 村上(以下村):まずは、高見先生の岡山時代について、教えていただけますか?


高見(以下高):私は高校の国語科教諭として、ずっと仕事をしてきました。初任の頃は女性教師が少なく、若いということで図書館担当になり、それから今日までずっと図書館に関わってきました。でも、正直、当時は読書センターや情報・学習センターといった学校図書館の機能について考えたこともなかったです。図書館についてきちんと勉強したのは、1997年の学校図書館法改正がきっかけです。12学級以上の学校に、司書教諭を置かなければならないと変わり、司書教諭資格者を国が増やそうとした時期がありましたよね。当時は実務経験を加味しており、その時司書教諭資格を取りました。

村:岡山県の高校は、学校司書は当時から配置されていたのですか?

高:岡山市は、早くから公立小中学校に学校司書が配置された先進地区として、全国に知られています。でも県立高校は、正規職の学校司書もいるのですが、私が勤務した高校は最初の10年は不在、次の普通科高校は非常勤の学校司書でした。それも長くて2年、短いと1年で交替してしまうので、図書担当である私が新しく入ってくる学校司書を育てる…ということが続きました。

村:それはしかたありませんね。学校図書館の蔵書を把握し、生徒や教員と信頼関係を築くには、それなりの時間がかかります。1年や2年では、仕事に慣れるので手一杯だと思います。

高:その後異動した学校には、正規の学校司書がいたのですが、その時は学年主任や教務の仕事をしていて、司書教諭ではなかったのです。そして最後に異動になったのが、岡山県立芳泉高校でした。

村:やっと正規職の学校司書と仕事ができたのですね?

高:いえ、そこも異動した当時は、1年で異動になる非常勤の学校司書でした。プロ意識を持った学校司書と協力し合い、充実した仕事ができたという実感が持てたのは、司書教諭の発令を受けた最後の2年間でした。

 

村:これまでとは、違いましたか?

高:それはもう、全く違いました!学校司書として赴任された東根さやかさんは、その年、早くも図書館のレイアウトを大きく変え、どんどん図書館が変化をしていきました。図書委員会の活動も活発になり、図書館がまさに文化の中心地のような役割を果たすようになりました。私は2年後に定年を迎えたし、東根さんもその後、県立図書館に異動になりましたが、芳泉高校の図書館は今も、学校の文化の中心的な場所となっているはずです。

村:それは素晴らしいですね。同じ学校司書として、高見先生が、最後の2年間、そのような学校司書の方と一緒に仕事をして、東京に出てこられたのは、とても嬉しいです。

高:芳泉高校時代の実践は、『学校図書館』に書かせていただいています。(「学校図書館」2012年10 月号〜2013年3月号に掲載)

村:読ませていただきましたが、国語の教師として、司書教諭として、学校司書の東根さんとタッグを組んで、図書委員会を巻き込み、密度の高い活動をされてきたことがよくわかりました。

高:私は、だからまず公立の学校図書館には、専任でしっかり仕事ができる学校司書を置くべきだと思っているのです。


村:司書教諭ではなく、学校司書を専任で置くということですか?


高:学校図書館法が出来た時であれば、保健室の先生のように、学校図書館にも図書館の先生が置かれればよかったと思います。でも、そうはならなかったことでいろいろな状況が生まれて今にいたっているわけですよね。学校図書館にはいつもいる人が必要です。そのためには学校司書をまず置いてほしいです。

村:その場合学校司書と司書教諭は、どのような役割分担を想定されているのでしょうか?

高:いろいろな場で、お話させていただく機会をこれまで頂いてきましたが、あまりに学校によって状況が違うというのは感じてきました。ですから、私の中ではきちんとした線引きはむしろできないと思っています。たとえて言うなら、夫婦の役割分担のように、得意なことは得意な人が引き受ける、できるほうが、できることをする。結果として、うまく物事が動いていくなら、それでいいのではと思っています。

村:とっても柔軟な考え方ですね。学校司書の実践を聞いて、そこから先は司書教諭の仕事ではないか?と聞かれることがあります。あるいは、学校司書の研修会などで、ここまではしなくていいです…といった線引きをされることもあり、現場の司書として違和感がありました。でも学校司書の専門的な仕事として「授業支援」も入り、かなりスッキリしてきました。

高:そうですね。きっちりと分けられる仕事ではないと思います。お互いにカバーしあい、お互いの力を発揮し合うことで、より厚みのあるサービスができればいいわけですから。

村:そうは言っても、これだけは司書教諭が担うべきこと…という部分はないのでしょうか?

高:12学級以上の学校には必ず置かれるようになった司書教諭ですから、小規模校以外には司書教諭がいるわけですよね。だから、司書教諭はなんでもできる人を目指さなければと思ってきました。もちろん、実際になんでもできるわけではありませんが、司書教諭にはそういう気持ちで学んでほしいと。そのうえで、学校司書が置かれたら、どんどん仕事はシェアできるわけですよね。ただ、それでも教員という立場だからできることは、教員が担わなくてはと思ってはいます。教員会議への参加や、生徒の引率などに関しては、学校によって事情が違うということもありますから。

村:高見先生は、国語の教師という立場で、司書教諭の仕事をされてきましたが、担任や教科教諭から離れて、専任司書教諭になりたいという思いはあったのですか?

高:もし、請われれば受けてみたいという思いはありました。ただ小学校なら専任司書教諭という立場で仕事ができるかもしれないけれど、中学や高校では、それぞれ専門の教科の先生に司書教諭という立場でアドバイスできるだけの力量を持つことは、かなりたいへんなことだと思います。

村:どの教科の学びにも、司書教諭として的確にアドバイスできるようになるには、かなりの力量と経験が必要でしょうね。実際私学では専任司書教諭として活躍されている方もいらっしゃいます。ただ、教科の先生とは、学校司書が資料面からサポートするという立場で協働しやすい気もしますが。芳泉高校では、他教科でも図書館が活発に使われていたのでしょうか?

高:そう言われれば、東根さんが来てから、他教科の利用も増えてきていましたね。彼女が、図書館内だけでなく、図書館の外にも発信をするようになり、他教科の先生とも繋がるようになっていったのだと思います。

村:具体的な学校図書館を活用した授業についても、お聞きしたいのですが。

高:授業の単元目標や図書館活用とは少しはずれるのですが、読書への具体的なきっかけづくりということで、毎回授業の初めに3分~5分、本の紹介をするということを続けてきました。今日ここに持ってきたのは、長年授業内で行った実践をまとめた「国語科ブックレビュー 授業の導入としての読書の誘い」です。授業を受けた生徒の感想も載せています。図書館から情報を得、図書館に本を展示するなど、図書館との連携はもちろんのことです。継続して行ってきたことで、このブックレビューを楽しみにしている生徒がたくさんいたことも嬉しかったことです。

村:高見先生が紹介された一覧を見せていただくと、目の前の高校生に向けて、実にタイムリーに彼らが興味・関心を持ちそうな本を紹介されていることがわかります。日々生徒に接している先生だからこそできる活動だと感じました。

高;反応の良かったものを整理してみると、①高校生が主人公の本 ②岡山の作家の本 ③話題の本・人気作家の本 ④季節・月別・記念日に関する本 ⑤授業関連本 ⑥感動する本 という特徴が見られました。

村:中学生も高校生も、自分が読みたいと思える本に出会えれば、けっして読まないわけではないですよね。

高:そうです。むしろ、水を得た魚のように、本を手にする生徒をたくさん見てきました。読書離れという言葉は、子どもたちを知らない大人の誤解です。毎年1年間で約100冊の本を紹介しましたが、「図書館利用の手引き」の中に記録ページを設け、読書記録をつけてもらうこともしました。定期考査時に提出してもらい、点検し評価に加えました。これは記録させるのが目的で、心に残ったフレーズなどを書き写す程度で、感想は求めず、自分の読書生活を振り返る習慣につながったように思います。

村:高見先生のお書きになったものを読むと、国語科教諭として行ってきた読書指導と、司書教諭として行ってきた学校全体での読書への取り組みが、効果的にリンクしていることが大きいのではと思います。朝の読書や、読書会、文化祭での図書委員会のイベント、NIEなど、一つ一つはやっている学校も多いのでしょうが、これらをなぜ進めていくかというところが、ブレずに教職員に理解されているのは、司書教諭としての不断の働きかけがあったらからではないでしょうか?

高:2011年度に、第57回青少年読書感想全国コンクールで、読書感想文推進大賞をいただきました。むしろ読書嫌いを作っているのでは…と指摘もされる読書感想文ですが、コンクールに出すために書くのではなく、ほぼ全員が大学に進学する単位制普通科高校として、「書く力」をつける読書指導の一環で行ってきたことが評価されたと思っています。

村:東根さんという学校司書を迎え、パワーアップした芳泉高校の読書教育が評価されたということでもあるのですね。

高:そうだと思います。先ほども話しに出ましたが、図書委員会の活動も、二人で関われることでやれることがぐんと増えました。ここにお持ちしたのは、2011年の文化祭で図書委員が作成した『青春はここで探せ!』と題する小冊子です。

http://www.hosen.okayama-c.ed.jp/library/wp-content/uploads/8c0fa1d320347a452d2e44f9879c88c61.pdf



 ブックレビューで紹介したものをメインにリスト化し、図書委員が書評を書いています。これらの活動が、校内だけでなく、校外にも広がっていったのも、学校司書の存在抜きには語れません。また、2人以外の図書館担当の先生方、管理職の理解・協力も忘れることはできません。

村:図書委員会主催の行事が多いことにも驚かされます。(写真は県立芳泉高校HPより)

  http://www.hosen.okayama-c.ed.jp/library/




  
高:図書委員の生徒たちの能力や頑張りにも、いつも驚かされてきました。小規模校の時は、彼ら彼女らが仲間・同志でした。学校図書館は、サロン的な場所として、様々な可能性に満ちていると感じてきました。

村:今日お話を伺い、司書教諭と学校司書がタッグを組むと、本当に豊かな活動が広がっていくことを実感しました。そして、それが学校文化のなかにしっかりと根付くと、今はお二人とも学校を去られたわけですが、その活動がきちんと引き継がれていることも素晴らしいですね。今度はぜひ、学校司書の立場から東根さんのインタビューもお願いしたいです!本日はお忙しいなかありがごとうございました。そして、どうぞ今後とも宜しくお願いします。

高:こちらこそありがとうございました。東根さんにはお伝えしておきますね!


 

 * 高見先生の実践をもとに書かれたブックレットも、ぜひあわせてお読みください。
             『読書イベントアイデア集〈中・高校生編〉;はじめよう学校図書館9』
                          高見京子著 全国学校図書館協議会 2014



                        

 
 (文責 東京学芸大学附属世田谷中学校 村上恭子)



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