授業と学校図書館

授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。

先生のひとこと

道徳の授業で絵本を使うということは?

2019-07-05 15:19 | by 金澤(主担) |

 

 東京学芸大学附属世田谷小学校の面川怜花先生にお話を伺いました。面川先生は、4年前に本校に赴任されました。道徳の授業に絵本をよく使っていらっしゃる先生です。なぜ、絵本をお使いになるのかをお伺いしました。

 

金澤:まずは、単刀直入にお聞きします。なぜ、道徳の授業に絵本をお使いになるのでしょうか?

面川:絵本は、シンプルですが道徳的価値がたくさん詰まっています。様々な視点から考えることが可能な作品が多いと感じています。また、文章だけでなく、絵から場面を想像したり、登場人物の心情を考えたりすることができます。ですから、文章を読み取るのが苦手な子は、絵から考えることができます。また、絵本は、頭で考えるというより、その子の感性が出しやすいものだと思っています。感じる心を大切にすることができます。絵本の中に入りこんで、自分に置き換えて考えることがやりやすいと思います。これまでの経験から、絵本を使って話し合うことで、子ども達の考えが深まっていくように思います。




金澤:お話の中で出てきている「道徳的価値」とは、どういうことでしょうか
?

 

面川:道徳の学習指導要領に記載されている学年段階ごとに示されている内容項目です。


金澤:絵本を使う上で困ったことはありませんか?

 

面川:絵本によっては、1回読んだだけでは、考えが深まっていかないものもあります。そんな時は、授業に入る前に読み聞かせだけを行ったり、教室に使う絵本を置いて、子ども達に日常の中で読んでいてもらったりといった工夫が必要です。絵本によってかける時間は変わってきます。

 絵本によっては、様々な道徳的価値が入り込んでいる作品があります。教師が、どの価値について話していくのか、違う価値も出てくる可能性があるなという見通しを持つことが必要だと思います。

金澤:道徳の授業で大切にしていることは何ですか?

 

面川:教材(絵本)の読解で終わるのではなく、教材をきっかけにして、自分のこととして考えることができるように、自分たちの生活に根ざしたところでの話ができるようにと思っています。教材(絵本)が、自分のことを考えるための材料になるようにと思っています。




金澤:絵本との出会いは?

 

面川:好きな本は、たくさんありますが、「ぼくを探しに」シェル・シルヴァスタイン(作)講談社 を見た時、絵本のすごさを感じました。文字は少なくシンプルですが、深い。そして絵も良いなあと思いました。

金澤:この学校へ赴任する前の様子を教えてください。



 

面川:初任校で、高学年で一緒に組んだ先生が「本は心の栄養」という読書貯金の活動をなさっていたので、私も始めました。もともと本は好きで、子ども達と読書を楽しんでいました。そんなころ、道徳の授業で副読本の限界を感じていました。絵本を使えないかなあとぼんやり考えていた時期です。

 二校目でも学級経営の中に読書を位置付けていました。この学校では、市民科という授業がありました。道徳と特活と総合をベースにした様々な実践力を育てる教科です。道徳独自の副読本がなかったので、絵本を使ってみようと思いました。その力になってくれたのが、学校司書です。私が相談するとそれに見合う絵本を丁寧に探してくれました。私の知らない絵本をたくさん教えてもらいました。また、その学校は、全クラスに保護者の方が読み聞かせに来てくださる日が多数設けられていました。絵本が、子ども達の身近に常にあった学校でした。おかげで先生方もたくさんの絵本を知ることができました。

 読み聞かせをしてくださっていた保護者の方に感想を子どもに書かせてお渡ししようと思ったことがありました。しかし、保護者の方は、「感想はいりません。自分で感じる時間にして欲しいんです」とおっしゃってくださいました。この言葉は、今でも心に留め大切にしています。絵本の楽しみを子どもに残しておきたいと思っています。ですから、いつもいつも道徳は、絵本でと思っていません。道徳で扱うことによって絵本の良さを奪ってしまわないようにと心掛けています。

金澤:世田谷小では、これまでとは違い、低学年を受け持っていらっしゃいますが、どんな様子ですか?

 

面川:子ども達が、「この絵本でみんなで話し合いたい」と言って絵本を持ってくるようになりました。また、ちょっと友達関係で悩んでいる子に今の自分の心情と近い絵本を持ってきて、みんなで話し合ってみようというような活動もできるようになっています。これは、1年間かけて「心の勉強」(子ども達には、道徳を「心の勉強」と伝いえています)を子ども達と作ってきたからできたことだと思います。

金澤:お時間を取っていただき、ありがとうございました。面川先生が、絵本の良さをよく理解なさって、大切に思っている様子が伝わりました。そして、道徳では、子どもたちと教材(絵本)を通して、考え合っている姿が伝わってきました。本日は、ありがとうございました。
        
                        (東京学芸大学附属世田谷小学校 学校司書 金澤磨樹子)






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