授業と学校図書館
授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。
先生のひとこと
音楽科と図書館のコラボレーション ~「文楽」と「知的財産権」~
2020-03-04 14:03 | by 村上 |
東京学芸大学附属世田谷中学校で、令和2年3月まで音楽教諭として勤務されていた原口直先生は、平成27年に赴任された最初の年から、「文楽」と「知的財産権」については、学校図書館を活用し、授業を行ってきました。ふたつの授業はデータベースにも実践事例をあげていますが、この春、附属世田谷中学校を去られ新しい場に移られることになったので、その前に記事にさせていただくことにしました。
其の1 文楽は守れるか? 事例No.A0215
この授業は、2時間の枠で行ってきました。対象は中学3年生です。
最初に、音楽室で『菅原伝授手習鑑』の一場面を大きなスクリーンで見ます(約15分)。音声だけでは理解できないので、床本(大夫が言っているセリフ)を印刷したものが配布されます。
その後、図書館に移動。座席は、5つのテーマ(文楽の歴史・作品・人形・職業・新たな視点)に分けられ、座る場所が指定されています。生徒は自分があたったテーマについて、図書館側で用意した資料を使って調べることになるのですが、最終テーマは、「文楽は守れるのか」なのです。
この授業を最初にした平成27年は、当時の橋下大阪市長が、文楽への助成金の廃止を決めたことも記憶に新しい時期でした。そこで、書籍だけでなく、新聞記事、文楽関係のサイトなども見られるように準備しました。
調べる時間は正味20分ぐらいしかありません。それでも、3年生ともなると、短時間で必要な情報をみつけ短くまとめる力がついてくるのでだと思います。ジグソー学習の形をとり、それぞれ調べたことをもちよって、お互いの話を聞きあいます。そして、班ごとに「文楽は守れるか」という視点で話し合い、発表するという授業です。
其の1 文楽は守れるか? 事例No.A0215
この授業は、2時間の枠で行ってきました。対象は中学3年生です。
最初に、音楽室で『菅原伝授手習鑑』の一場面を大きなスクリーンで見ます(約15分)。音声だけでは理解できないので、床本(大夫が言っているセリフ)を印刷したものが配布されます。
その後、図書館に移動。座席は、5つのテーマ(文楽の歴史・作品・人形・職業・新たな視点)に分けられ、座る場所が指定されています。生徒は自分があたったテーマについて、図書館側で用意した資料を使って調べることになるのですが、最終テーマは、「文楽は守れるのか」なのです。
この授業を最初にした平成27年は、当時の橋下大阪市長が、文楽への助成金の廃止を決めたことも記憶に新しい時期でした。そこで、書籍だけでなく、新聞記事、文楽関係のサイトなども見られるように準備しました。
調べる時間は正味20分ぐらいしかありません。それでも、3年生ともなると、短時間で必要な情報をみつけ短くまとめる力がついてくるのでだと思います。ジグソー学習の形をとり、それぞれ調べたことをもちよって、お互いの話を聞きあいます。そして、班ごとに「文楽は守れるか」という視点で話し合い、発表するという授業です。
その2
知的財産権を考える 事例No.A0235
もうひとつの定番授業が、音楽から考える知的財産権です。音楽をきっかけに知的財産権について知り、自分ごととして考えよう…というのが、この授業の目的です。
毎年、3年生が対象でしたが、最後の年は、2年生と3年生の両学年に実施しました。こちらも、授業は2時間枠、または100分授業で行っています。前半は、講義「AKB48は、いくらもらっているの?」 売りあげ枚数第一位といえど、イマドキの中学生は、ほとんどこの歌を知らず、CDも持っていません。前半は、生徒の興味をひきつけながら、CDの作り手について考えてもらうために、最近話題の音楽CDを2枚ずつ班に配り、調べてもらいます。前半の最後は日頃中学生がやってしまいそうなことが、著作権に触れていないかを考えてもらい、答え合わせ。
後半は、図書館で用意した知的財産権に関する本やパンフレット、新聞記事、インターネットなどを使い、現時点で知的財産権についてどのような問題があるのかを、調べ、班で共有します。そして最後に、自分自身の考えをまとめて、短いレポートを完成させます。
中学校で、しかも音楽という教科で知的財産権について扱うのは、先進的な取組ということで、毎年授業には外部から見学者の方が見えていました。昨年度は、東京学芸大学の音楽科の学生さんがこの授業を見学に見えて、終わったあと原口先生を囲み、話し合う時間を持ちました。学生さんたちは、中学生の興味関心をぐっとひきつけ、知的財産権という今まで自分たちが持っていた音楽の授業をイメージを覆す現代的テーマに挑む姿にとても刺激をうけていたのが印象的でした。
附属世田谷中学校に赴任した年から、このように学校図書館を活用してきた原口先生にいくつか質問をしてみました。
村上(以下村):そもそも、使おうと思ってきっかけは何ですか?
原口(以下原):夏休み中にあった初任者研修のなかに、学校図書館の話も組み込まれていて、話を聞いてこれは使わなくては…と思ったことですね。
村:そうでした。先生が赴任した年までは、附属の司書が講師役を務めさせてもらい、学校図書館をどのように活用してほしいか伝える時間がありましたね。夏休みが終わってすぐに、原口先生が、ご自分の興味のある分野についてと、こんな授業がしたいとお話しに、図書館にやってきてくれたことを覚えています。その時に、文楽と知的財産権の話も出たように思います。なぜ、文楽と、知的財産権だったのですか?
原:まず文楽は自分自身が好きだったことがあります。それを教材化するために、税金とむすびつけようと考えました。知的財産権については前職(芸能プロダクション)時代に、学ぶきっかけがあり、その後音楽教員となり、学習指導要領に知的財産権を音楽で扱うようにと明記されていたことを知りました。そこで、授業で扱いたいと思ったのですが、自分の手元には資料があまりありませんでした。中学生はほとんど知識を持っていない。そこで図書館を利用すれば、たくさんの資料にあたることができて、学ぶことができると考えたからですね。
村:そうだったのですね。図書館としては、先生からテーマをもらうと、それに関する資料がどのぐらい揃っているかを確認しますが、だいたい、授業には足りないことがほとんどです。公共図書館から借りて、附属学校からも借りて、そしてこれぞと思う資料は買って揃えますが、いつも見学に来た方に、「こんなに本があるんですね!」と驚かれます。
原:私もこれだけあることは知らなかったので、とても驚きました。毎年何らかの新しい本を入れると、必ず紹介してもらえて、先に読ませてもらえるので、とてもありがたかったです。
村:やはりアンテナを立てておくと、「これ使えそう!」とか思うし、今回は図書館で借りたけれど、来年のために買っておこう…とか思うので、蔵書がどんどん豊かになるというのは確かですね。文楽に関しては、「新たな視点」というくくりが面白く感じました。また、知的財産権の授業内で、『正しいコピペのすすめ』(岩波ジュニア新書)を紹介したら、この日授業見学に見えていたジャスラックの方が、「明日、著者の宮武佳久先生にお会いするんですよ」と声をかけてくださいました。それがきっかけで、宮武先生とつながることができて原口先生の授業も何度か参観に見えましたよね。 今年2月には学校司書の研修に講師として来ていただけたのも、嬉しいことでした。
ところで、このふたつの授業を図書館を使ってやってみて、いかがでしたか?
原;ひとつは、教材研究がとても時短になりました。そのぶんを、授業内容のリニューアルに時間を割くことができました。生徒にとっては、授業はきっかけでしかないと思っていますが、様々な本の存在に気づき、授業以降の学びにもつながったと思います。また、生徒と司書と教員が学びを共有することで、日常的にも関連した話題について気軽に話し合う機会が増えたこともよかった点ですね。
村;そう言っていただけると、とても嬉しいです。知的財産権を学ぶためのワークシートも、毎年少しずつ改良されていますよね。(事例のワークシートも間もなく更新します。)今後の課題はなんだと思われますか? それから図書館をあまり使わない先生がたに向けて、ひとことぜひお願いします。
原;税金にしろ、著作権にしろ、状況やルールが変わっていくため、常に新しく正しい情報をとりにいかなければならないことですね。だからこそ、学校図書館や司書さんと連携をとって常に、自分の興味関心を発信し続けることが大事だと思っています。まずは図書館に足を運び、世間話から始めてはいかがでしょうか?
村;今後の原口先生、実は音楽教員養成チャンネルというyoutubeを始められるそうですね!
原;そうなんです。このふたつの授業をはじめ、音楽の授業づくり、そして多忙で孤独な音楽教員に役立つ情報を発信します。ぜひアクセスしてみてください。
原口 直の一歩先ゆく音楽教育 HARAGUCHI Nao
村;それは楽しみですね。これからのマルチなご活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。
~後日談~
8月に『YouYubeで授業/学級経営 やってみた』という本を東洋館出版から出された原口直先生、さらには、先生たちに、図書室(図書館)を使うことのメリットをこんな形で発信してくださっています。 「教員のための学校図書室活用のススメ;スキルアップ編」 ぜひご覧ください。
知的財産権を考える 事例No.A0235
もうひとつの定番授業が、音楽から考える知的財産権です。音楽をきっかけに知的財産権について知り、自分ごととして考えよう…というのが、この授業の目的です。
毎年、3年生が対象でしたが、最後の年は、2年生と3年生の両学年に実施しました。こちらも、授業は2時間枠、または100分授業で行っています。前半は、講義「AKB48は、いくらもらっているの?」 売りあげ枚数第一位といえど、イマドキの中学生は、ほとんどこの歌を知らず、CDも持っていません。前半は、生徒の興味をひきつけながら、CDの作り手について考えてもらうために、最近話題の音楽CDを2枚ずつ班に配り、調べてもらいます。前半の最後は日頃中学生がやってしまいそうなことが、著作権に触れていないかを考えてもらい、答え合わせ。
後半は、図書館で用意した知的財産権に関する本やパンフレット、新聞記事、インターネットなどを使い、現時点で知的財産権についてどのような問題があるのかを、調べ、班で共有します。そして最後に、自分自身の考えをまとめて、短いレポートを完成させます。
中学校で、しかも音楽という教科で知的財産権について扱うのは、先進的な取組ということで、毎年授業には外部から見学者の方が見えていました。昨年度は、東京学芸大学の音楽科の学生さんがこの授業を見学に見えて、終わったあと原口先生を囲み、話し合う時間を持ちました。学生さんたちは、中学生の興味関心をぐっとひきつけ、知的財産権という今まで自分たちが持っていた音楽の授業をイメージを覆す現代的テーマに挑む姿にとても刺激をうけていたのが印象的でした。
附属世田谷中学校に赴任した年から、このように学校図書館を活用してきた原口先生にいくつか質問をしてみました。
村上(以下村):そもそも、使おうと思ってきっかけは何ですか?
原口(以下原):夏休み中にあった初任者研修のなかに、学校図書館の話も組み込まれていて、話を聞いてこれは使わなくては…と思ったことですね。
村:そうでした。先生が赴任した年までは、附属の司書が講師役を務めさせてもらい、学校図書館をどのように活用してほしいか伝える時間がありましたね。夏休みが終わってすぐに、原口先生が、ご自分の興味のある分野についてと、こんな授業がしたいとお話しに、図書館にやってきてくれたことを覚えています。その時に、文楽と知的財産権の話も出たように思います。なぜ、文楽と、知的財産権だったのですか?
原:まず文楽は自分自身が好きだったことがあります。それを教材化するために、税金とむすびつけようと考えました。知的財産権については前職(芸能プロダクション)時代に、学ぶきっかけがあり、その後音楽教員となり、学習指導要領に知的財産権を音楽で扱うようにと明記されていたことを知りました。そこで、授業で扱いたいと思ったのですが、自分の手元には資料があまりありませんでした。中学生はほとんど知識を持っていない。そこで図書館を利用すれば、たくさんの資料にあたることができて、学ぶことができると考えたからですね。
村:そうだったのですね。図書館としては、先生からテーマをもらうと、それに関する資料がどのぐらい揃っているかを確認しますが、だいたい、授業には足りないことがほとんどです。公共図書館から借りて、附属学校からも借りて、そしてこれぞと思う資料は買って揃えますが、いつも見学に来た方に、「こんなに本があるんですね!」と驚かれます。
原:私もこれだけあることは知らなかったので、とても驚きました。毎年何らかの新しい本を入れると、必ず紹介してもらえて、先に読ませてもらえるので、とてもありがたかったです。
村:やはりアンテナを立てておくと、「これ使えそう!」とか思うし、今回は図書館で借りたけれど、来年のために買っておこう…とか思うので、蔵書がどんどん豊かになるというのは確かですね。文楽に関しては、「新たな視点」というくくりが面白く感じました。また、知的財産権の授業内で、『正しいコピペのすすめ』(岩波ジュニア新書)を紹介したら、この日授業見学に見えていたジャスラックの方が、「明日、著者の宮武佳久先生にお会いするんですよ」と声をかけてくださいました。それがきっかけで、宮武先生とつながることができて原口先生の授業も何度か参観に見えましたよね。 今年2月には学校司書の研修に講師として来ていただけたのも、嬉しいことでした。
ところで、このふたつの授業を図書館を使ってやってみて、いかがでしたか?
原;ひとつは、教材研究がとても時短になりました。そのぶんを、授業内容のリニューアルに時間を割くことができました。生徒にとっては、授業はきっかけでしかないと思っていますが、様々な本の存在に気づき、授業以降の学びにもつながったと思います。また、生徒と司書と教員が学びを共有することで、日常的にも関連した話題について気軽に話し合う機会が増えたこともよかった点ですね。
村;そう言っていただけると、とても嬉しいです。知的財産権を学ぶためのワークシートも、毎年少しずつ改良されていますよね。(事例のワークシートも間もなく更新します。)今後の課題はなんだと思われますか? それから図書館をあまり使わない先生がたに向けて、ひとことぜひお願いします。
原;税金にしろ、著作権にしろ、状況やルールが変わっていくため、常に新しく正しい情報をとりにいかなければならないことですね。だからこそ、学校図書館や司書さんと連携をとって常に、自分の興味関心を発信し続けることが大事だと思っています。まずは図書館に足を運び、世間話から始めてはいかがでしょうか?
村;今後の原口先生、実は音楽教員養成チャンネルというyoutubeを始められるそうですね!
原;そうなんです。このふたつの授業をはじめ、音楽の授業づくり、そして多忙で孤独な音楽教員に役立つ情報を発信します。ぜひアクセスしてみてください。
原口 直の一歩先ゆく音楽教育 HARAGUCHI Nao
村;それは楽しみですね。これからのマルチなご活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。
~後日談~
8月に『YouYubeで授業/学級経営 やってみた』という本を東洋館出版から出された原口直先生、さらには、先生たちに、図書室(図書館)を使うことのメリットをこんな形で発信してくださっています。 「教員のための学校図書室活用のススメ;スキルアップ編」 ぜひご覧ください。
文責 東京学芸大学附属世田谷中学校 村上恭子