今月の学校図書館

こんなことをやっています!

三重県立津高等学校図書館の臨時休業中の取組

2020-06-09 11:12 | by 松岡(主担) |

  三重県立津高等学校は、5月の「学校図書館トピックス」記事、「カーリル発 COVID-19 学校図書館支援プログラム」のなかで、このサービスを先駆的に利用した学校として名前が挙がっています。今回、司書の井戸本吉紀さんへ原稿執筆をお願いしたところ、快く引き受けてくださり、津高等学校の取り組みをご紹介していただけることになりました。



三重県立津高等学校の臨時休業中の取組
三重県立津高等学校 司書 井戸本吉紀























 三重県立津高等学校図書館では、学校の臨時休業中、不要不急の外出を控え自宅で頑張る生徒の皆さんのために、インターネットによる津高図書館の蔵書検索/予約サービスと、自宅への本の郵送サービスの2つを5月8日(金)から開始しました。「津高生に本を届けようプロジェクト」と名付けたこの取組の経緯と結果、また同時期に制作した読書の大事さと愉しさを伝える動画「本ススメ」の取組について報告します。


1 津高生に本を届けようプロジェクト

(1)生徒のために何かできないだろうか?

 5月6日までとなっていた学校の臨時休業が延長されそうな見通しになってきた4月20日ごろ、生徒の自宅に本を郵送できないかと考えました。それには2つの問題がありました。ひとつは、生徒が本を検索して予約をする方法がないということ。もうひとつは、郵送するための費用をどうするかです。

■生徒が自宅から本を検索して予約する方法
 津高図書館では公式ホームページに2ヶ月に1回ほど新刊本リストを公開していましたが、ただのリストでしかなく、このリストを見て本を申し込むという方法は、生徒に魅力的ではないと思いました。

 そこで、以前お世話になった図書館のインターネットサービスを支援する株式会社カーリルの代表取締役 吉本龍司さんに連絡をしました。「なんとか力をお借りしたいが、予算はない」という無茶な想いを伝えたところ、吉本さんから、埼玉県の学校司書との間で進めていた協同研究を活用して何かできないか考えている、という情報をもらいました。後に「COVID-19:学校図書館支援プログラム」として発表されるカーリルさんの取組です。これで、奇跡的に一つ目の問題を解決する見通しが立ちました。


■自宅へ本を郵送する方法
 当初は、授業の課題(宿題)を郵送する際に同梱できないかと考えましたが、本は大きく重く、課題への同梱は難しいことが分かりました。そこで、本の購入予算である備品費を通信運搬費に転用する形で発送することにしました。それと同時に、同窓生の皆様へ支援を求めることも考えました。

(2)プロジェクトがスタートするまで

■カーリル「津高図書館の本を探す」
 5月の大型連休前に株式会社カーリルにISBNデータを送ったところ、24時間もかからずに仮サイトが構築されたのには驚きました。これに勢いを得て、カーリルの吉本さんとは大型連休中もやりとりをしました。生徒にとっては、はじめての本のオンライン検索・予約体験の可能性であることを考慮し、「図書」「蔵書」などの言葉を使わず説明するよう意識しました。

 予約申込は、個人情報保護に配慮し、図書館側で作成したGoogleフォームに「学年組席」の数字を入力するだけとしました。

 カーリルの吉本さんとふじたまさえさんには迅速に対応いただき大変感謝しています。おかげで「COVID-19:学校図書館支援プログラム」リリース第1号となることができました。

■Google Classroomで本の相談受付
 読みたい本が決まっていない生徒の相談にのることができるよう、Google Classroomの「課題」機能とテレビ会議機能「meet」を活用することにしました。Google Classroomの保守をしていただく先生と相談し、図書館専用のクラスを作って、全校生徒を招待しました。

■自宅郵送の方法
 自宅への郵送には郵便局のレターパックプラス(1枚520円)を使うことにし、図書購入費から約11万円を充て、200回分の送料を確保することにしました。レターパックプラスは4キログラム以内であれば厚みは問われません。下の写真では、文庫本4冊、ハードカバー3冊、計7冊入れています。無理をすればもう少し詰められそうです。

















写真:レターパックプラス梱包

■生徒の利用と同窓生への支援呼びかけ
 生徒には、5月8日朝、Google Classroomのショートホームルームで、クラス担任の先生からプロジェクトの周知をしてもらいました。

 同窓生からの支援を得るには、なるべく多くの同窓生の皆様にこのプロジェクトを知ってもらう必要があり、マスコミに紹介してもらうことが大事と考えていました。そこで、8日午前中に県政記者クラブにカラー印刷したチラシを配布しました。実際に2社の新聞に掲載してもらいました。



















写真:チラシ

(3)プロジェクト開始後の反響

■郵送貸出への反響
 「申込が少なかったらどうしよう」と心配していましたが、初日に24人の生徒から83冊の予約申込があり、うち62冊を郵送できたのは、嬉しい誤算でした。予約された本のジャンルは小説が6割ほど、それ以外に歴史に関する本、スポーツに関する本、生物学の本、ビジネス本まであり、自分が興味を持った分野の本を気ままに申し込んでくれたことがわかりました。また、生徒からはコメント欄で嬉しい言葉を寄せてもらい、とても励みになりました。

◎生徒の皆さんからの感想
『図書館から本を届けてもらえる』という知らせを見た瞬間、家にいるだけで色々な本が読めてとても嬉しいと感じたと同時に、こんな大変なことをしてもらうこと、本当に有難いと思いました。よろしくお願いします。

皆さんのご協力のおかげでこの、新しい本が読めるという状態が成り立っているということに感謝をしながら、精一杯、楽しんで読んでいきます。

 プロジェクトを開始した5月8日から、分散登校開始でプロジェクトを中止した5月20日までの期間で、53人の生徒に132冊の本を届けることができました。
 学年ごとの申込人数は、1年生30人、2年生14人、3年生11人。わずか2日しか登校できず、図書館オリエンテーションも受けることができていない1年生が一番たくさん申し込んでくれたのは、意外な結果でした。

■Google meet、Google Classroomでの本の相談
 Google meetで本の相談をしてくれた生徒は2人、Google Classroomの質問機能を使って本の相談をしてくれた生徒は10人でした。

■新聞社等による紹介
 5月11日、創業142年の歴史がある伊勢新聞社の記者の方から取材を受け、写真付きの大きな記事にしてもらいました。この記事の反響は大きく、同窓生の方から、「新聞を見ました!」との電話での激励もいただきました。

「休校中に本読もう 津高図書館 生徒にレターパックで図書郵送 三重」(2020-05-12 中勢, 地域)
https://www.isenp.co.jp/2020/05/12/45140/
(URL確認:2020/06/02)

 5月13日には、国立国会図書館の「カレントアウェアネス・ポータル」で紹介してもらいました。

「三重県立津高等学校図書館、同校生徒を対象に図書の自宅郵送サービスを実施:同窓生へ取組支援のためレターパックプラスの送付を呼びかけ」
https://current.ndl.go.jp/node/40932
(URL確認:2020/06/02)

■同窓生の皆様からのたくさんの支援
 14人の方からレターパックプラス161枚(83,720円分)もの寄贈をいただき、津高校の同窓生の絆の強さに感激しました。40枚(約2万円)を送ってくださった方、現役生のお母様からもいただき、大変感謝しています。いただいたレターパックプラスを使う時は、「卒業生からの手紙」を同封する形で生徒に届けました。

















写真:同窓生から届いたレターパックプラス

■第2波に備えるために
 生徒の自宅への郵送サービスは終了しましたが、カーリルさんの「津高図書館の本を探す」は継続します。いただいたレターパックプラスについては、第2波による臨時休業措置に備えるため、保管させていただいています。

2 動画「本ススメ」の配信

(1)はじまりは三重県教育委員会事務局からの依頼

 この動画制作は、三重県教育委員会事務局から依頼されたものです。県教育委員会事務局では、児童・生徒向けの動画配信を通じて、自宅学習中の児童・生徒に様々なことに取り組んで欲しいとの思いがあり、そのひとつが「読書」でした。

 本校には三重県学校図書館協議会事務局があり、県教育委員会事務局から、本校校長(三重県 学校図書館協議会会長)に制作協力の依頼がありました。その後、どこが担当するか検討し、学校司書で構成されている三重県学校図書館協議会司書部が制作することになりました。制作期間が非常に短かったため、第1回は私が主となって制作することにし、第2回以降は他の学校司書の意見も聞いて制作することにしました。

(2)様々な人に協力いただいて

 第1回は「なぜ今、本なのか」「本で旅をしてみよう(本3冊の紹介)」「青空文庫の使い方」の三本立てです。第2回は三重県内の学校司書4人のオススメする青空文庫の本を紹介しました。第3回は様々な取組をしていることで有名な多気町立勢和図書館と、三重県立図書館児童コーナーに協力いただき、小学校中学年から高学年向けのおすすめ本を紹介しています。
  第1回:本で旅をしてみよう https://youtu.be/1FGhGm9aFuw
  第2回:県立学校司書のおススメ本 https://youtu.be/xIcCPORFd9M
  第3回:小学生向けのおススメ本 https://youtu.be/g0GEc76X7H4

  第1回:本で旅をしてみよう


  第2回:県立学校司書のおススメ本
 

 第3回:小学生向けのおススメ本

(3)学校司書一人でもできる制作方法
 試行錯誤の結果、一人で動画を制作できる方法にたどり着きました。参考までにご紹介します。

■Microsoft PowerPointを活用する
 最終的には、使い慣れたMicrosoft PowerPointを大画面テレビに投影する形となりました。この制作で初めて使ったのですが、PowerPointの「画面録画」機能は大変便利です。冒頭のアニメーション、第1回の「青空文庫の使い方紹介」、エンドロールは、「画面録画」機能で制作しました。



■機材のセッティングを工夫する
















写真:撮影風景

 ①ビデオカメラの下に、②ノートパソコンを置き、③大型TVをパソコンに接続します。こうするとPowerPointは②のノートパソコンに原稿を映し、③のTVにスライドを映します。あとは②の原稿を読みながら、④手元のマウスでスライドを操作していくことで、一人で撮影できます。

③動画を編集する
 動画の編集は、フリーソフトAviUtlを使用しました。昔からある有名なフリーソフトで、インターネット上にわかりやすいハウツーが書かれているページが多数ありました。

(4)動画の反響について
 中日新聞や毎日新聞、朝日新聞などで紹介された結果、現時点で第1回は約800回、第2回は約200回、第3回30回ほどの再生回数となっています。第1回については、生徒の親御さんから見たという連絡をもらったり、知人から「感銘を受けた」と言ってもらったりと、嬉しい反響がありました。

3 今後の予定

 6月1日から通常授業が始まりました。津高図書館では、いわゆる「密」を避けながら、昨年開催して好評だった「青空図書館」、三重県立一志病院と連携して開催した「医療に関心のある君たちへ」などの企画、さらには校内の他分掌と連携した新しい取組を進めていきます。
 今回、様々な形でいただいた応援の声を励みに、これからも生徒の役に立てる学校図書館を目指していきます。 


 三重県立津高等学校図書館公式HPから過去の「青空図書館」「医療に関心のある君たちへ」をはじめ、多彩な企画や展示の様子を見ることができます。ぜひご覧ください。

三重県立津高等学校図書館公式ページ
http://www.mie-c.ed.jp/htu/library/index.htm

http://www.mie-c.ed.jp/htu/library/event.htm#byouin2019

http://www.mie-c.ed.jp/htu/library/event.htm#201909_kouenkai

http://www.mie-c.ed.jp/htu/library/event.htm#aozora201901_after

http://www.mie-c.ed.jp/htu/library/tengi_old.htm#lib_muse2019
(編集 東京学芸大学附属小金井小学校 司書 松岡みどり)


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